見出し画像

高齢者のポリファーマシー - 医学的判断だけ?

こんにちは。ドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での悩みをテーマに、やまと内の複数の診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は「高齢者のポリファーマシー」について話し合いました。

Take Home Message

  • 早期から患者・家族と薬剤調整の可能性について対話を始める

  • 予後予測を考慮した上で、予防薬と対症療法薬を区別して判断

  • 患者・家族の意向と医学的判断のバランスを取る

カンファでの意見交換
A医師:「診療の件で皆さんに意見を聞きたいことがあります。高齢者のポリファーマシーについて、特に薬のやめ方で悩むことが多くて」

B医師:「具体的にはどんな場面で?」

A医師:「最近経験した症例なんですが、心不全と狭心症の既往がある認知症患者さんで、施設での食事摂取が難しくなってきました。循環器内科の先生に確認したら『バイアスピリンとアトルバスタチンは継続を』と言われたんです。でも、食事も取れない状態で高脂血症の薬は本当に必要なのかと悩んでいて...」

C医師:「私の場合は、早い段階から家族や施設に『お薬が多くなっているので、状態の変化に応じて調整していく可能性がある』と説明するようにしています。そうすると、後々の調整がスムーズになることが多いですね」

A医師:「なるほど。予防的な説明が大切なんですね。他の先生方はどうされていますか?」

D医師:「私は患者さんに直接聞くようにしています。『この薬を飲み続けたいと思いますか?』って。継続の意思がない薬は、積極的に減らすようにしています」

E医師:「私は薬を2つに分類して考えているんです。予防的な薬と、現在の症状に対する薬。在宅患者さんの場合、特に予防薬は減らしていってもいいと考えています」

A医師:「スタチンについてはどうお考えですか?」

F医師:「スタチンの中止について、気になるデータがあります。老人ホーム入居者を対象とした研究では、スタチン内服群の方が死亡率は低かったものの、入院率や機能温存には差がなかったそうです」

A医師:「中止することで状態が悪化する可能性は?」

D医師:「実は余命1年以内と予測された患者さんの研究では、スタチンを中止した群の方がQOLと予後が良かったというデータもあるんです。60日以内の死亡率にも差はなかったようです(J Am Geriatr Soc. 2002[PMID:12164995])」

B医師:「ただ、現場ではなかなか中止できていない現状もありますよね。摂食障害のある重度認知症の患者さんでも、実際の中止率は40%にも満たないというデータもあります」

C医師:「結局のところ、何を目的に治療を継続するのか、アドバンス・ケア・プランニングの視点も大切になってきますよね」

E医師:「その通りです。特に虚弱な高齢者や多疾患がある方の場合は、QOLを重視した判断が求められると思います」

B医師:「精神科系の薬や神経筋疾患の薬はいつも悩みますね」

C医師:「そうですね。私の場合、精神科の薬は専門医に相談して整理してもらうことが多いです。ステロイドのテーパリングも慎重に進めます」

A医師:「家族との関係性も大切だと思うんですが」

D医師:「その通りです。薬を変更して何か起きた時に、『あの時の変更が原因だ』とならないように、きちんと説明して信頼関係を築いておくことが大切ですね」

おわりに
今回の議論を通じて、高齢者のポリファーマシー対策には医学的判断だけでなく、早期からのコミュニケーションと信頼関係の構築が重要であることが分かりました。予防薬と対症療法薬を区別し、予後予測を踏まえた上で、患者・家族の意向に寄り添いながら調整を進めていく。その繊細なバランスの中で、最適な薬物療法を探っていく必要があるのですね。

A医師:「皆さんの意見、とても参考になりました。確かにいろいろな視点があると思いますが、減らしていけるのであれば減らしていきたいですね。患者さん、ご家族との信頼関係をもとに対応していきたいと思います。ありがとうございました」

本日の議論が、医療介護の現場での実践の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。