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がん治療の最新動向と在宅医療における連携 - 個別化医療時代の治療戦略とチーム医療

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、がん治療の最新動向と在宅医療における連携について、活発な議論が交わされました。

課題背景

がん治療は、細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫療法という3つの柱を中心に発展を続けています。特に分子標的治療では、この10年で治療対象となる遺伝子異常が大きく増加し、それに対応した新規薬剤も次々と登場しています。例えば肺がんでは、EGFR、ROS1、BRAF、MET、HER2など、様々な分子標的に対する治療薬が使用可能となっています。加えて、MSI-High腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害剤など、原発臓器を問わない治療戦略も確立されつつあります。

カンファレンスでの意見交換

1. がんゲノム医療の現状と課題

腫瘍内科医A:「がんゲノムプロファイリング検査は、個々の患者さんに最適な治療法を探索する重要なツールです。しかし、実際の治療到達率は約10%と限られているのが現状です。また、検査結果が出るまでに2ヶ月程度要するため、タイミングの見極めも重要です」

医師B:「検査実施にあたっては、予期せぬ遺伝情報が判明する可能性もあり、十分なインフォームドコンセントが必要です。また、臨床試験参加が主な選択肢となるため、患者さんの全身状態や合併症の有無なども慎重に評価する必要があります」

2. 分子標的薬の使用と副作用管理

腫瘍内科医C:「分子標的薬は薬剤ごとに特徴的な副作用プロファイルがあり、適正使用ガイドを参考に慎重な管理が必要です。例えば抗HER2抗体薬物複合体のエンハーツでは、軽度の薬剤性肺炎でもステロイド投与を検討する必要があります」

在宅医D:「実際の在宅現場では、添付文書や適正使用ガイドを確認し、想定される副作用に対する対応策を事前に準備しておくことが重要です。特に緊急性の高い副作用については、病院との連携体制を明確にしておく必要があります」

3. 免疫チェックポイント阻害剤の管理

腫瘍内科医E:「免疫関連有害事象の発現パターンには、ある程度の時間的特徴があります。皮膚症状は比較的早期から、内分泌障害や肺炎などは数ヶ月かけて出現することが多いですが、予測は困難です。また、複数の有害事象が同時に発現することも特徴的です」

緩和ケア医F:「特に重要なのは心筋炎への対応です。発症頻度は1%程度ですが、致死率が50%と非常に高く、早期発見が重要です。CK(クレアチンキナーゼ)の上昇や呼吸困難、筋力低下などの症状に注意が必要です。また、重症筋無力症様症状との合併も報告されており、より慎重な観察が必要です」

4. 在宅での副作用対応

在宅医G:「発熱性好中球減少症への対応では、MASCCスコアによるリスク評価が有用です。以下のような項目を評価します。

  • 症状の重症度

  • 低血圧の有無

  • COPD合併の有無

  • 固形がん/血液がんの別

  • 脱水の有無

  • 年齢

  • 外来/入院の別」

腫瘍内科医H:「特に注意が必要な薬剤として、エリブリン、アムルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセルなどがあります。これらの薬剤使用中の発熱は重篤化しやすく、G-CSF製剤の予防投与状況なども確認が必要です」

5. 病院-在宅連携の実際

在宅医I:「抗がん剤治療中の患者さんの在宅医療導入には、まず明確な役割分担が重要です。特に副作用への対応や緊急時の連絡体制については、事前に詳細な取り決めが必要です。また、患者さんやご家族に対しては、在宅医療導入が『終末期に入った』というメッセージとして受け取られないよう、丁寧な説明が必要です」

腫瘍内科医J:「治療効果判定や副作用の評価は原則として病院で行いますが、日常的な症状管理や緊急時の初期対応については、在宅医療チームと協力して行う必要があります。特にレジメン変更時には、想定される副作用とその対応について、事前の情報共有が重要です。」

緩和ケア医K:「早期からの在宅医療介入により、症状マネジメントの質が向上し、患者さんのQOL改善につながった例も多く経験します。ただし、介入のタイミングや方法については、患者さん個々の状況に応じて柔軟に検討する必要があります」

おわりに

今回のカンファレンスでは、最新のがん治療に関する知見の共有とともに、実臨床における具体的な連携方法について、活発な議論が行われました。がん治療の個別化が進む中、病院と在宅医療機関の緊密な連携がますます重要となっています。引き続き、定期的な症例検討を通じて、より良い医療提供体制の構築を目指していきたいと思います。