終末期の点滴をどう考えるか - 点滴は500ml/日程度?
こんにちは、ドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での悩みをテーマに、やまと内の複数の診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は「終末期の点滴治療」について話し合いました。
Take Home Message
家族の気持ちに寄り添いながら、医学的判断のバランスを取る
中止基準を事前に説明し、段階的な減量を考慮
家族に後悔を残さない配慮が重要
カンファでの意見交換
A医師:「終末期の点滴について相談させてください。一時的な脱水や熱中症ではなく、不可逆的に状態が悪化していく中で、経口摂取が難しくなった時に悩むことが多くて」
B医師:「具体的にはどんな場面で?」
A医師:「ご家族から『点滴をお願いしたい』と言われる場合ですね。点滴を始めるべきかどうか、また始めた後のやめ時について、皆さんの経験を聞かせていただきたいんです」
C医師:「実は今まさにそういうケースを担当していて。90代の方で食事が数日取れないということで点滴を始めたんですが、今後も食べることは難しそうで。ご家族の負担にもなっているような...」
D医師:「僕の場合は、ケースバイケースですね。点滴を続けてほしいという方もいらっしゃるので、よくやるのは500mlだったのを250mlに減らすとか。気持ち程度という形でつないでいくことも」
A医師:「それはどういう意図で?」
D医師:「家族の気持ちの受け入れを少しずつスムーズにしていくためです。その間に状態が変化して、自然な形になっていくことも多いですね」
E医師:「私は基本的に終末期の方には点滴は必要ないと考えています。ただし、その考えを押し付けることはしません」
A医師:「どのように説明されているんですか?」
E医師:「残される家族の方が後悔しないように、という視点を大切にしています。『やれることはやった』と感じていただけるよう。ただし、全ての決定を家族に委ねると、必要以上の責任感を感じてしまうこともあるので、最終的には『私がこうした方がいいと思います』という提案をするようにしています」
F医師:「私は点滴を始める時点で中止基準を説明するようにしています。むくみが出たり、呼吸が苦しくなったりした場合は中止する可能性があることを。また、ご本人の苦痛という面では、点滴をしないことで特に苦しくなるわけではないということも説明します」
G医師:「最近、印象的な経験がありました。点滴を強く希望されていた娘さんが、1ヶ月後に『気持ちの整理ができました』とおっしゃって」
A医師:「その変化はどのように?」
G医師:「『点滴を続けることが私たちのわがままになるのではないか』と。害にならない程度に点滴を続けながら、家族の理解を待つという方法も有効なんだと実感しました」
H医師:「本当に難しいバランスだと思います。説明を尽くしても、ご家族の表情が釈然としない時には、『できることをやってあげたいと思われますか?』と聞いて、限定的な期間で始めることもあります」
A医師:「皆さんのお話を整理すると、いくつかのポイントがありそうですね。まず点滴を始める時の判断について、もう少し具体的に教えていただけますか?」
M医師:「私の場合は、3つの視点で考えるようにしています。一つは医学的な必要性、二つ目は家族の気持ち、そして三つ目は予測される経過です」
A医師:「予測される経過というのは?」
M医師:「例えば、むくみが出やすい方なのか、夜間の喘鳴が懸念される方なのか。そういった予測される変化を踏まえて、家族と一緒に考えていきます」
N医師:「私が大切にしているのは、開始時の説明です。特に中止の基準については、具体的に説明するようにしています」
A医師:「どんな説明をされているんですか?」
N医師:「例えば、『足のむくみが強くなったり、呼吸が苦しくなったりしたら点滴は控えめにしたり、中止することもあります』とか。あとは『ご本人の様子を見ながら、量を調整していきましょう』という話もします」
O医師:「継続中の工夫も重要ですよね。私の場合、特に注意しているのが家族の表情の変化です」
A医師:「具体的には?」
O医師:「最初は『なんとかしてあげたい』という気持ちが強くても、時間とともに『自然な形で』という考えに変わっていくことも多いんです。だから、診察のたびに少しずつ会話を重ねて、その変化を感じ取るようにしています」
P医師:「コミュニケーションの面で、私が気をつけているのは『決定の重さ』です。全てを家族に決めてもらうのではなく、医療者として『こうした方がいいと思います』という提案をすることで、家族の心理的負担を減らすようにしています」
A医師:「なるほど。最後に、こういった経験を今後どう活かしていけばいいでしょうか?」
Q医師:「私は、日々の診療で予測を伝えていくことが重要だと感じています。今日の状態、明日予測される変化、その先の可能性。そういった見通しを家族と共有しながら、一緒に考えていく。そうすることで、より良い選択ができるんじゃないでしょうか」
おわりに
A医師:「本日の議論を通じて、終末期の点滴には正解がないことを改めて感じました。ただ、家族の気持ちに寄り添いながら、医療者としての判断もしっかり示していく。その繊細なバランスの中で、最善の方法を探っていく必要があるんですね」
より良い終末期医療の実現には、医学的な判断に加えて、きめ細やかなコミュニケーションが欠かせません。本日の議論が、現場での実践の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。
参考
終末期の点滴の効果とリスク
医学的利点の限界
終末期患者に対する輸液の医学的利点は限定的で、特に予後の延長やQOL(生活の質)の向上には明確な効果が認められていません。
1000 mL/日以上の輸液は浮腫や腹水、胸水の増悪を引き起こす可能性があり、慎重な対応が求められます。
患者・家族の心理的側面
点滴をしないことで「寿命が短くなる」「苦痛な症状が増える」と感じる患者や家族も多く、その心理的側面を考慮する必要があります。
患者・家族の価値観を重視し、輸液量を500ml/日程度に抑えることが推奨される場合もあります。
身体への影響
点滴によって余分な水分が体内に溜まり、むくみや呼吸困難などを引き起こすリスクがあります。特に高齢者では、水分が血管外に漏れやすく、内臓にも影響を及ぼす可能性があります。
終末期ケアにおける輸液のガイドライン
終末期における輸液療法は、患者の状態や家族の意向を考慮して慎重に判断されるべきです。ガイドラインでは、必要最低限の輸液量に留めることが推奨されています。
患者が意思決定できない場合も多いため、医療者は可能な限りエビデンスを把握し、家族と相談しながら適切なケアを提供することが重要です。
これらのエビデンスは、終末期ケアにおける点滴の使用について慎重な判断を促すものであり、患者と家族への説明と同意形成が重要です。
Citations:
[1] https://zaitaku110.com/blog/20220211090214-836/
[2] https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2017/PA03207_05
[3]https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/glhyd_ex/E8BCB8E6B6B2GLE7ACAC1E78988E6A78BE980A0E58C96E68A8.pdf