第一話:「悪知恵のベンティ」
〜12月13日 08:30
第一話:「悪知恵のベンティ」
小さな港町ロサリオは、どこか薄暗い空気が漂う場所だった。表向きは穏やかで、釣り人たちが網を編み直し、商人が市場で声を張り上げている。しかし、夜になると、この町は全く別の顔を見せる。港の奥にある酒場「ランタン」に集うのは、裏社会の人間ばかりだった。
その酒場の片隅に、いつも同じ席に座る男がいた。名前はベンティ。年齢は30代半ば、細身で、鼻先が鋭く尖った顔立ちをしている。ベンティはこの町で“悪知恵”と呼ばれるほどの策略家として知られていた。誰もが彼の知恵に一目置いていたが、その裏には常に不安が付きまとっていた。彼が関わる計画は成功するものの、周囲の人間がどのような犠牲を払うことになるかは予測不能だったからだ。
ある晩、ベンティの元に一人の若者がやってきた。名前はリカルド。彼は町の小さな船会社で働く青年だった。
「ベンティさん、お願いがあります。」
リカルドは緊張した面持ちで話し始めた。
「父の船が突然沈んでしまいました。保険会社は事故だと言っていますが、僕は違うと思っています。何か裏があるんです。助けてください。」
ベンティは静かにリカルドの言葉を聞いていた。その鋭い目が、若者の顔をじっと見つめる。
「それで、何を知りたい?」
「真実を知りたいんです。そして、父の船を沈めた奴らに報いを与えたい。」
ベンティは少し笑みを浮かべた。「真実ね。だが、その真実がどんなに醜いものでも受け入れる覚悟はあるか?」
リカルドはうなずいた。その目には決意が宿っていた。
「いいだろう。その代わり、報酬はしっかりもらう。君がその真実に辿り着いたとき、私に感謝することになるか、それとも恨むことになるかは君次第だ。」
こうしてベンティとリカルドの奇妙な協力関係が始まった。
翌日、ベンティは独自の情報網を使って、リカルドの父の船が沈んだ原因を探り始めた。港の監視人、保険会社の調査員、さらには密輸業者の動きまで、すべてを把握するために奔走した。その中で浮かび上がったのは、町の有力者であるドン・マルセロの名前だった。
「どうやら君の父親の船は、ただの事故じゃない。ドン・マルセロが裏で糸を引いているようだ。」
この一言でリカルドの表情は硬くなった。ドン・マルセロはこの町で絶大な権力を持つ人物であり、彼に逆らうことは自殺行為に等しい。しかし、ベンティは微塵も恐れを見せずに続けた。
「だが、計画はある。ドン・マルセロを倒すにはちょっとした“仕掛け”が必要だ。それがうまくいけば、君の望む正義が手に入るだろう。」
こうして、ベンティの巧妙な策略が動き始めた。町全体を巻き込む壮大なゲームの幕が、今ここに上がる。
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11月13日 08:30 〜 12月13日 08:30
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