温泉研究家物語 第九話「九州・霧島の恵みと山々の湯」
温泉研究家物語 第九話「九州・霧島の恵みと山々の湯」
一 霧島への旅立ち
千路座右衛門と希依は、九州に再び戻ることを決めた。今回の目的地は、鹿児島県に位置する霧島温泉郷だ。この地は、日本で初めて新婚旅行に訪れたという坂本龍馬が湯治をしたことでも知られる温泉地である。
「霧島温泉は坂本龍馬も訪れた歴史ある湯です。そして火山活動による多様な泉質も特徴なんですよ。」
希依が説明すると、千路座右衛門は興味深げに頷いた。
「火山と湯は密接に関係しておる。地中の鼓動が生み出す湯がどのような顔を見せるのか、楽しみだな。」
新幹線とローカル線を乗り継ぎ、二人は霧島温泉郷の中心地へ向かった。車窓から見える雄大な霧島連山に、千路座右衛門は目を奪われた。
二 霧島温泉郷との出会い
霧島温泉郷は、霧島連山の麓に点在する複数の温泉地から成り立っている。それぞれの温泉地は泉質が異なり、硫黄泉、単純泉、鉄泉など多彩な湯が楽しめる。
「湯が点在しているとは面白いな。この地全体が湯の宝庫というわけか。」
千路座右衛門は、温泉郷の地図を眺めながら語った。
まず二人が訪れたのは「新湯温泉」。ここは硫黄泉が特徴で、湯けむりが立ち上る源泉が温泉街を包み込んでいる。宿泊先の露天風呂に浸かると、硫黄の香りが漂い、湯が肌を柔らかく包み込んだ。
「この湯は、まるで地中からの贈り物だな。硫黄の香りが身体に浸透するようだ。」
千路座右衛門は湯の感触をじっくりと確かめながら、感慨深げに語った。
「硫黄泉はデトックス効果があると言われていますよ。疲れが取れる感じがします。」
希依もまた、その効能に感動していた。
三 坂本龍馬の足跡を辿る
霧島温泉郷の中には、坂本龍馬が妻おりょうと訪れたとされる「塩浸温泉」もある。二人は歴史を感じながら温泉を巡り、龍馬が愛した湯の魅力に触れた。
「龍馬もこの湯で旅の疲れを癒したのか。時代を超えて湯が同じように人を癒すとは、不思議なものだな。」
千路座右衛門は、湯に浸かりながら当時の様子を思い描いていた。
また、地元の資料館を訪れた二人は、坂本龍馬が霧島を訪れた際のエピソードや、この地の歴史について詳しく学んだ。
「歴史が湯と結びついていることで、この温泉地の価値がさらに高まるのだな。」
千路座右衛門は、温泉の役割が単なる癒し以上のものであることを再認識していた。
四 霧島連山と自然の力
霧島温泉郷の特徴は、湯だけでなくその雄大な自然にもある。二人は霧島連山の山道を歩きながら、温泉地が自然とどのように共存しているのかを探った。
「この地の湯は、山と火山が育てたものだ。自然と人間が共存する場として、温泉は重要な役割を果たしているな。」
千路座右衛門は、山の中で湯が湧き出る光景に心を奪われていた。
希依は、登山道沿いに見える小さな湯だまりや噴気孔をカメラで記録しながら、その多様性に驚いていた。
「霧島の湯は、まさに地球の力を感じる場所ですね。火山活動が作り出すこの景色は、ほかにはない魅力です。」
五 地元との交流と温泉の未来
霧島温泉郷での滞在中、二人は地元の人々との交流を深めた。観光客の増加が地域経済を潤す一方、温泉の源泉を守るための努力が必要とされているという話も聞いた。
「湯が人々を集める力を持つ一方で、その湯を守り育てることもまた人の責務だな。」
千路座右衛門は、地元の湯守たちの努力に感謝の念を抱いた。
「自然と人間の共存を考えるきっかけになりますね。温泉って、本当に奥深い文化なんだな。」
希依もまた、温泉地の未来について考える時間を持つことができた。
六 次なる目的地への期待
霧島温泉郷での旅を終えた二人は、次なる目的地を話し合った。火山と温泉の関係性を深く学んだ経験は、二人にとって新たな視点をもたらした。
「霧島の湯は、自然と歴史が融合した特別な湯であった。次はまた別の土地で、違う顔を持つ湯に出会いたいものだ。」
「次は温泉地の中でもさらに人里離れた場所、秘湯なんてどうですか?」
新たな冒険への期待を胸に、二人は次なる温泉地を目指して再び旅立つ準備を整えた。
第九話完