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温泉研究家物語 第十一話「秘湯の隠れ家・青森のランプの宿」

温泉研究家物語 第十一話「秘湯の隠れ家・青森のランプの宿」


一 北の秘湯への誘い


千路座右衛門と希依は、次なる目的地として青森県の秘湯「ランプの宿・青荷温泉」を選んだ。この温泉は、現代的な電気の灯りをあえて排除し、ランプの明かりだけで宿を営むことで知られている。北国の山奥にひっそりと佇むこの温泉地は、まるで時が止まったかのような静けさを湛えている。


「電気の灯りを使わずに湯を楽しむとは、まるで江戸時代の湯治場そのものだな。」

千路座右衛門は、そのコンセプトに興味を抱いた。


「自然と湯に集中することで、日常を忘れて癒される場所なんですよ。ちょっと不便かもしれませんが、それが逆に魅力なんです。」

希依の言葉に千路座右衛門は深く頷き、期待を胸に旅立った。


二人は新幹線とローカルバスを乗り継ぎ、青荷温泉へと向かった。雪深い山道が続き、やがて周囲の景色が白一色の世界に変わった。


二 青荷温泉との出会い


青荷温泉に到着すると、二人を迎えたのは木造の温泉宿と、周囲を流れる川のせせらぎだった。宿の中に入ると、温かなランプの光が室内を優しく照らしていた。


「これは……まるで江戸時代に戻ったようだ。」

千路座右衛門は、ランプの柔らかな明かりが作り出す陰影に見入っていた。


「日が暮れるともっと幻想的になりますよ。ランプの光だけで過ごす夜は、とても特別な時間です。」

希依が嬉しそうに語ると、千路座右衛門も期待に胸を膨らませた。


宿の主人は、青荷温泉の歴史や電気を使わない理由について説明してくれた。


「ここでは自然との調和を大切にしています。ランプの明かりと静けさが、この土地ならではの魅力なんですよ。」


三 湯の癒しを堪能する


二人は早速、宿の内湯と露天風呂を巡った。青荷温泉の湯はアルカリ性単純泉で、透明で柔らかい感触が特徴だ。静かな湯船に浸かりながら、二人はランプの光が湯面に映る様子をじっと眺めていた。


「この湯は……肌に溶け込むようだ。温泉そのものだけでなく、この静けさが心を癒す。」

千路座右衛門は、湯とランプの調和に深く感動していた。


「確かに、ここでは湯に集中できますね。普段の生活では感じられない特別な時間です。」

希依もその雰囲気を存分に楽しんでいた。


露天風呂からは雪景色が広がり、頭上には星空が瞬いていた。静寂の中、川の音と風の音だけが耳に届く。


「ここでは、自然が湯と共に語りかけているようだな。」

千路座右衛門は目を閉じ、湯の温かさと自然の冷たさを同時に感じ取った。


四 温泉街とランプの魅力


青荷温泉は小さな温泉街としても知られており、散策を楽しむことができる。二人はランプの明かりが灯る小道を歩きながら、その特別な雰囲気を味わった。


「電気のない生活って、最初は不便かと思ったけど、こうしてみると本当に落ち着きますね。」

希依が感想を述べると、千路座右衛門も頷いた。


「便利さを捨てることで、湯の本質を感じられる。この地の人々が作り上げたものは、ただの温泉地ではない。文化そのものだ。」


地元の人々とも交流し、二人は青荷温泉がどのように維持されてきたのか、その努力と工夫を学んだ。自然環境を守りながら、観光地としての魅力を保つために工夫を凝らしていることに感銘を受けた。


五 静寂の夜と新たな発見


夜になると、青荷温泉はさらに幻想的な雰囲気を纏った。ランプの光が宿全体を優しく包み込み、静寂が深まる中で、二人は湯に浸かりながら思索を巡らせていた。


「湯とは、ただの温かさだけではなく、時間そのものを感じさせるものだな。」

千路座右衛門は、江戸時代と現代の温泉文化の違いを再び考え直していた。


「本当にそうですね。便利な現代だからこそ、こういう場所がより特別に感じられるんですね。」

希依もまた、温泉が持つ癒しの力を改めて実感していた。


六 次なる旅への期待


青荷温泉での滞在を終えた二人は、心身ともに癒され、新たな旅へと向かう準備を始めた。この地で得た静寂と自然の力は、二人の心に深く刻まれた。


「青荷の湯は、静けさそのものが湯となっておった。次はどのような湯が我々を待っているのか……楽しみだ。」

「じゃあ次は、さらに北の温泉地、北海道の秘湯なんてどうですか?」


次なる冒険への期待を胸に、二人は再び旅立つ準備を整えた。


第十一話完

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