温泉研究家物語 第六話「雪に包まれた北海道の湯」
温泉研究家物語 第六話「雪に包まれた北海道の湯」
一 北国への旅立ち
次の目的地として、千路座右衛門と希依は日本最北の地、北海道を選んだ。特に冬の温泉地として知られる「登別温泉」へ向かうことにした。登別温泉は地獄谷を源泉とする多彩な湯が特徴で、硫黄泉、鉄泉、塩化物泉などが集まる「温泉の宝庫」とも呼ばれている。
「北国の湯とはいかなるものか。この寒さの中で湯が湧き出るとは、自然の不思議を感じるな。」
「登別温泉は『湯のデパート』とも呼ばれるんですよ。いろんな種類の温泉があるので、きっと面白い発見があると思います!」
希依の説明に千路座右衛門は興味津々だった。
二人は飛行機で北海道に向かい、新千歳空港から列車とバスを乗り継いで登別温泉へと向かった。車窓から見える雪景色に、千路座右衛門は目を奪われていた。
「白一色の世界に湯がどのように溶け込むのか……期待が膨らむな。」
二 登別温泉との出会い
登別温泉に到着した二人を迎えたのは、湯けむりと硫黄の匂いが漂う独特な風景だった。周囲は一面の雪に覆われており、その中で温泉の湯けむりが白く立ち上る光景は幻想的だった。
「これは……地獄谷か?」
千路座右衛門は、温泉の源泉地である地獄谷を目の当たりにし、足を止めた。谷全体から噴き出す蒸気と岩肌の色合いが、まるで地球の内側を覗いているかのようだった。
「登別温泉の源泉はこの地獄谷から湧き出しているんです。約10種類の泉質があって、それぞれ効能も違います。」
希依はタブレットを操作しながら説明した。
「湯がこれほどの多様性を持つとは……ここは自然そのものが研究室のようだな。」
三 多彩な湯を巡る
まず二人が訪れたのは硫黄泉が楽しめる温泉宿だった。雪の中にある露天風呂に浸かると、冷たい空気と温かい湯の対比が体に心地よく響いた。
「この硫黄の香り……江戸時代にもこの香りは湯治場の特徴とされておった。しかし、この寒さの中で湯に浸かる体験は初めてだ。」
千路座右衛門は湯の温かさと周囲の静けさに感動を隠せなかった。
次に訪れた鉄泉の温泉では、赤茶色に染まった湯が独特の景観を作り出していた。湯に浸かった千路座右衛門はその鉄の重みを感じ取りながら言葉を紡いだ。
「この湯はまるで地中の命そのものだ。鉄がこれほどまでに湯を個性的にするとは……。」
「鉄泉は血流を良くする効果があると言われています。冷え性の方に人気なんですよ。」
希依が補足すると、千路座右衛門は深く頷いた。
さらに塩化物泉の湯では、肌がしっとりする感覚を楽しみながら、その保湿効果に感嘆していた。
「湯がこれほど多様であるのは、まさに自然の妙技だな。」
四 温泉と地元の暮らし
温泉地で地元の人々と話をする中で、千路座右衛門は温泉がこの厳しい北国の暮らしを支える重要な存在であることを知った。冬の寒さから身を守るだけでなく、地熱を利用した温泉暖房や地元産品の加工にも役立てられているという。
「湯が暮らしを温めるだけでなく、経済や文化の一部となっておる。江戸では考えられぬ活用法だ。」
千路座右衛門はその先進性に驚きを隠せなかった。
一方で、観光産業の発展に伴い、地元の環境保護への取り組みも課題として挙げられていた。
「地獄谷を守ることが温泉地全体の未来を守ることに繋がるんです。」
地元の温泉協会のスタッフが語る言葉に、希依は深く頷いた。
五 雪見風呂の魅力
滞在の最終日、二人は雪が舞い散る中で再び露天風呂に浸かった。真っ白な雪景色と湯けむりのコントラストが、非日常的な癒しを提供していた。
「この雪の中で湯に浸かるとは……これ以上の贅沢はあるまい。」
千路座右衛門は静かに目を閉じ、湯の温もりを全身で感じていた。
「冬の温泉って特別ですよね。寒さの中で温かい湯に浸かるのは、心も体も癒されます。」
希依もまた、雪見風呂の魅力に心を奪われていた。
六 次なる旅への期待
登別温泉での調査を終えた二人は、新たな知見を得て次の目的地を話し合った。北国の湯の奥深さに感動しつつも、さらに多様な温泉文化を探求する意欲が湧いていた。
「北の湯は自然の厳しさと優しさを同時に教えてくれた。次はまた別の風土で湯を味わうとしよう。」
「次は四国なんてどうですか?道後温泉は日本最古の温泉と言われていて、歴史好きの千路さんにはぴったりかも!」
新たな目的地を決めた二人は、次なる温泉文化との出会いを胸に、再び旅立つ準備を進める。
第六話完