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人は、物語がないと生きていけない

企画でメシを食っていける企画力を育てる通称企画メシ。毎回各テーマごとにゲスト講師をお招きして、業界のこと、仕事のこと、ご自身のことなど様々なお話を伺っています。

企画メシ第4回は、編集の企画。小学館cheese編集長畑中さんをゲスト講師にお迎えしました。これまで畑中さんは、「ぴんとこな」や「5時→9時まで」、「彼女は嘘を愛しすぎている」などの映像化された、人気マンガの編集を担当してきました。

畑中さんは、じぶんの立ち位置を理解し、逆算して、じぶんが活躍できる場所を見つける人でした。また、ある出来事がどうして起こっているのか?をほったらかしにせず、自分の仮説を元にしっかりと調べあげ、その仮説を試しにやってみる。思考と試行を圧倒的に繰り返すマンガ編集者の原点がどういう物語だったのかを探っていきます。

「この本、欲しい!」は、魔法の呪文

「人生で大切なことは、ほとんど10代のうちに教わりました」と語る畑中さん。ご両親、特にお母さんの影響が大きかったようです。どんな環境で育ってきたのかを伺いました。

畑中さんが小学生の頃、両親は共働き。なので、ほぼほったらかしだったと言います。その代わりに、近所の本屋で「この本、ほしい!」と店員さんに言うと、お金を払わずに持って帰れるシステムを両親が準備してくれていたんだそうです。そんな本を読み漁れる環境で育った畑中さん。小学校3年生までは児童文学、それ以降は漫画にはまるようになっていきました。ただ、本屋から何冊も持って帰るのはダメで、1日1冊というルールがありました。

また、畑中家にはほかにも鉄の掟がありました。例えば、じぶんの部屋に置かれている本棚をはみだす量は、本をもってはいけない。そうすると、あるときから、本棚がいっぱいになるが、それを超えるとどれかを捨てて、新しい本を入れるシステムだった。どの本を手元に置いておくかを吟味しながら、毎日本と向き合っていたそうです。


ニートは、ディズニーランドのせい!?

「父親にテレビの所有権がある。だから、お金を貯めて買うか。父親に見たい番組のプレゼンをしなければいけない。」と言われ、テレビを見るのにも一苦労しなければいけない環境で育ったのだそうです。

また、ご両親は、「ニートになる人がいるのは、ディズニーランドのせいだ。」と言う持論を持っていました。なぜかというと、ニートは、自分でお金を稼いでいないから。日々の日常の中で、大人として頑張って働いている人が享受できる喜びがディズニーランドなどで過ごす時間。働いてもいないのに、夢の国に行ったら、それは働きたくなくなる。だから特別な時以外は、ディズニーランドには、父と母が二人でいき、こどもたちは、お家でお留守番をして傷んだそうです。

「ちゃんと働いて、お金を得て、じぶんの喜び、趣味に使いなさい。」と大人になるのを楽しみになるように、転がされて育って行きました。外食も基本的には、両親が二人でいくもの。だから、こどもの頃からはやく大人になりたかった。大人になるのが、本当に待ち遠しかったそうです。


考える必要もないくらい、いくらでもできることを仕事に選んだ。

「就職活動は、人生の中で一番得意だった。」と話す畑中さん。就職試験を受けた企業は、どこも落ちなかったそうです。仕事を選ぶ上で、長時間働いて、負荷になるものは選ばないようにしていたそうです。

負荷や負担にならず、その仕事に長い時間費やせるということは、ある程度のパフォーマンスを発揮できることだと畑中さんは考えていたのです。そして、最終的に、小学館を選んだのは、じぶんが無理せずパフォーマンスを発揮できるのが出版社。そして、それが編集の仕事でした。

出版社の試験で、与えられたテーマに関して、ひたすら書くということがあり、それをめんどくさいという先輩とかがいた。でも、めんどくさいという人は、入社しても活躍できないんだろうな。と思って。私にとっては、考える必要もないくらい、いくらでもやれること。出版社に入ったら、楽にパフォーマンスをできるだろうなと思って。

入社してゴールではなく、入社後にいかにパフォーマンスを発揮するかを就職活動時に考えていた畑中さん。就職活動でどこも落ちなかったということに納得させられました。


新人に担当されるのは、嫌だ。

入社後、希望の通り編集に入って、いきなり新雑誌cheeseの創業チームへの配属でした。あだち充さんを見出したエース編集長、どんな漫画もエロ漫画に変えてしまう副編集長と新入社員の畑中さんの三人という創業チームで、畑中さんの編集者としての仕事がスタートしました。

しかし、新雑誌cheeseに連載してくれる作家さんに、「畑中さんが私の担当ということは、わたし買われてないってことですよね。」と言われ、打ち合わせもしてもらえないという経験がありました。畑中さんは、その時、こんなことを考えていたそうです。

美容院に置き換えて、イメージしてみたんですよね。もし、じぶんがお客さんだったら、髪を切られるだけでも、新人に担当されるのは嫌なんですよね。だって、次に髪を切るまでの見た目とか、じぶんの気持ちの晴れ様や、モテ具合も変わってくる。それは、作家さんにとって、来月の収入だったり、どういう作家に見られるかという部分、じぶんの人生が変わること。新人であるわたしが担当するというのは、その作家さんにとって、安心して書ける状況をつくれないと思ったんです。だから、その状況を作るためにどうすればいいかを常に考えていました。

相手の立場に立って、想像してみた結果、そのとおりだな。と思った畑中さん。しかし、そこで立ち止まらずに、作家さんに信頼してもらえるためにどうすればいいかを考えた結果、まずは、先輩たちの仕事をみてみることにしたのです。


仕事がうまくいっていない人たちは、みんな同じことをしている

うまくいってる人たちは、いろんな方法でうまくいっていて、成功の道筋はいっぱいある。チームメンバーの編集長も副編もいい意味で、キャラクターも仕事の仕方も、ふたりとも全然違っていたんだそうです。

しかし、うまくいっていない人は、みんな同じことをしている。仕事ができないと言われる先輩たちの打ち合わせに同行してみると、「面白くないから、ここをなおそう!」と何時間も一生懸命打ち合わせしている。

畑中さんは、その時に、「そうじゃなくて、面白くないから、なおすという入り口が間違ってるのでは? 」と思ったんだそうです。そこで、「目利きができない人がなおしても、マンガは面白くならない」という発見をしました。

その当時は、マンガ業界は、アンケートで一位を獲るかどうかで部数が決まるアンケート至上主義の時代。畑中さんは順位と部数をだいたい当てれる技術を身につけることにしたのです。


編集者に必要なのは、まずは目利き力。

「編集とは何か? 」を3段階で考えて、一段ずつ登って行こうと決めた畑中さん。第1段階は、目利きであること。「このマンガは売れる、売れない。1位取れる、取れない」がわかる能力を身につける。これができないのに、「ここ直しましょう」と言っても作家には、何も響かないし、面白いマンガはできないのです。

次のステップが診断する。どこが原因で、面白くないと判断したのかを正確に診断する。目利き力があることで、目線が一段上がり、診断できるようになるのです。

最後に、処方する。診断したあと、どう直していくのかと言う部分。膨大な読書量・知識量から得た目利き力に裏打ちされた診断と処方により、面白くないマンガが面白いマンガに変化していく工程を教えてもらいました。これも目利き力があるからこそ、できることだと畑中さんは言っていました。

畑中さんは、目利き力がついてくると、雑誌ができるみほん本のときに、「今期の1位は、これ。2位、3位はこれです。」と作家さんに宣言していたんだそうです。下位を当てるのは、難しいけど、それも宣言をする。

リスクをとって当てれるようにならないと信用して、打ち合わせしてもらえない。それで、当てていくと、「このネームをどうしたらいいか、まだわからないけど、このネームがマンガになったら、5位だと思う。」と言ったら、「1位取りたいから直す!」と言ってくれた。

その時に、編集者の一番大事な仕事は、鏡になることだと気づいたんだそうです。洋服を着る。鏡がその姿を正確に写しさえすれば、ベルトをつける、小物をあわせるということは、作家が決めてくれる。だから、まずはじぶんが正確な鏡であることが重要だと思ったんだそうです。


出版人たる強い動機付けを見つけた夏休み

それまでは、「物語はなくても生きていけるもの。それにどうやって、お金を、価値を、埋め込めるんだろう。」と考えていた畑中さん。しかし、会社の夏休みに、ギリシャに行き、その考えが一変します。

財政破綻により、食べることにすら困っているギリシャの人たちが、教会に定期的にお金を払って物語を聞きに来ている。物語はなくても、生きていけると思っていたけど、人は、物語がないと生きていけないんだということに気づいたのです。

エンターテイメント、特に少女漫画の舞台では、そもそも現実に起こりえないことが多く描かれている。生まれ落ちたスペックとは無関係なところで、現実を救ってくれるのがエンターテイメント。それをつくる編集者になろう。そういう現実にはないものを描く作品をつくろうと心に決める旅になったのです。


世の中は、現実逃避型の物語を求めている。

成功している人たちは、現実を見るのが好きだけど、世の中の大半の人たちはうまくいってない。そういう人たちが見たいと思っている虚構も結構ある。現実を直視することで、むしろ生きたくなくなる。もう無理なんじゃないかと向き合いたくなくなる人が多いのではないか? と気づいた畑中さん。そして、調べてみるとヒットするのは、ほとんどが現実逃避型の物語が圧倒的に多いという事実がそこにありました。

まわりの現実直視型のともだちには、「現実とかけ離れてる漫画やってるね。」と言われることもあるそうです。それでも、ギリシャでの夏休みを経て、「いろんな人を救えるマンガにしたいから、やっている」という自分自身の強い方針ができた畑中さんは、ブレることはありませんでした。

これからも、例えば大学に進学しないような世の中の半分の人たちにも、もっと広い世界の人たちにも、届くような現実逃避型のたくさんの人たちを救えるような作品を作っていきたいと畑中さんは言ってました。日本に留まらず、世界的にヒットする漫画が畑中さんの編集から生まれるかもしれません。

今回の表紙のイラストも、イラストレーターのヤギワタルさんです。今回も、ヤギさんが感じとった編集の企画のイメージをイラストを書いてくれました。ヤギさんの作品はこちらから、ぜひ見てみてください↓↓↓
https://www.instagram.com/yagiwataru/

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!企画メシで、阿部さんや畑中さん、企画メシ仲間たちからもらった熱量を、少しでもおすそ分けできてたら、嬉しいです。

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ヤマシュン
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