やられたらやり返す脳
人間の心理のひとつに「返報性(へんぽうせい)の原理」というものがあるそうです。
ウィキペディアによると「返報性の原理」とは”他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱くが、こうした心理のこと”となっています。
例えば、誰かに優しくされたら、その相手に優しくしたくなる、逆に悪意を示されると、こちらもその相手に対して悪意を抱くと言ったようなことです。
返報性の法則は、いわゆる認知バイアスの一部です。バイアスとは人類が進化の過程で得た脳の特性です。
つまり、好意には好意で返す、悪意には悪意で返すという戦略を取った人の遺伝子が最終的に生き残ってきたということで、私たちは、この戦略を取った人たちの子孫とも言えるわけです。
おそらく、多くの人が好意を好意で返す、悪意に悪意で応えるということは思い当たることがあると思います。我々の脳は多かれ少なかれこの返報性の原理の影響を受けているはずです。
面白いなと思ったのは、ゲーム理論のひとつ、囚人のジレンマへの戦略としてこの返報性の原理が有効だったということです。
ちなみに囚人のジレンマとは以下の様なものです。
共同で犯罪を行ったと思われる2人の囚人A・Bを自白させるため、検事はその2人の囚人A・Bに次のような司法取引をもちかけた。
本来ならお前たちは懲役5年なんだが、もし2人とも黙秘したら、証拠不十分として減刑し、2人とも懲役2年だ。
もし片方だけが自白したら、そいつはその場で釈放してやろう(つまり懲役0年)。この場合黙秘してた方は懲役10年だ。
ただし、2人とも自白したら、判決どおり2人とも懲役5年だ。
このとき、「2人の囚人A・Bはそれぞれ黙秘すべきかそれとも自白すべきか」というのが問題である。なお2人の囚人A・Bは別室に隔離されており、相談することはできない状況に置かれているものとする。
この囚人のジレンマに対して、アメリカ合衆国ミシガン大学の政治学者ロバート・アクセルロッドの呼びかけで、世界中の専門家から集められた戦略をリーグ戦方式で対戦させる選手権が開催されたそうです。
この大会において2度優勝を果たしたのが「しっぺ返し戦略」、つまり返報性の戦略です。
しっぺ返し戦略とは以下の様な戦略です。
1手目は協調を選択する。
2手目以降のn手目は、(n-1)手目に相手が出した手と同じ手を選択する。
例えば2手目の場合、1手目に相手が協調を選択していたら協調を選択し、1手目に相手が裏切りを選択していたら裏切りを選択する。
この戦術が有効だったことからも、返報性の原理はある程度は実社会においても有効と言えそうです。
ただし、これはバイアス全般に言えることですが、本来、うまくコミュニティの中で生きていくために発達してきたものがバイアスですが、時代の変化とともに必ずしも有効でなくなってきている場合があります。
返報性の原理というものをしっかりと理解しつつも、ちゃんと状況に合わせて考えることが重要です。