貧しいカカオ農家が教えてくれた「本当の豊かさ」の話。エシカルとは。
逆フェアトレード!カカオ豆を売ってもらえないという現実。
カカオバイヤーとして年間4か月強は産地に入ってる私ですが、
「産地って危なくないんですか?」
「現地の人とどんなコミュニケーションしてるんですか?」
と質問を頂きます。
私が産地で経験したリアリティのある体験談をお伝えしたいと思います。
Minimalが産地に入って初めて知った現実はぜひこのMinimalのHPのJournalを読んでみて下さい。
カカオ産地は発展途上国が多いため、まだまだ貧しい地域が多く、インフラ整備が未完全であったり、電気が通っていない地域もたくさんあります。総じてカカオ農家は貧しく、原始的な生活の中にいるというのが現実です。
今回のお話はあるインドネシアの農家さんとのお話をしたいと思います。
その農家さんと出会いは2014年カカオ産地にいくようになってすぐでした。彼の村がある地域は電気もまだ通っていない家もある貧しい地域。
彼は村のリーダー的な存在で何十年もカカオを育てているベテランでした。
私達は農園に入ると最初に手作りでチョコレートを造ります。
実は農家さんの多くは自分のカカオ豆で造ったチョコレートを食べた事がありません。
産地に入ってまずやる事は良い豆と悪い豆の違いを知ってもらうことです。
彼ら自身が自分のカカオ豆で造ったチョコレートの味を知ってもらうため、村中の農家を集めて彼らのカカオ豆を使ってチョコレート造りのワークショップを行います。
彼らは初めて自分のカカオ豆で造ったチョコレートをたべてとても興奮して目を輝かせます。
「もっと美味しいチョコレートにするにはどうすればいいだ?」
と目を輝かせて聞いてくれます。
そして、市場価格より高い値段で買付を行うので、皆喜んでくれます。
「来年も来るからぜひみんな教えた方法で美味しいカカオ豆をつくってださい!」と次の年の再開を約束しました。
そんな熱い約束を交わした1年後にまた訪れた際に約束を待ってくれて売ってくれた農家さんはどのくらいいたと思いますか?
30農家さん中たったの1農家さんでした。
1年前にみんな目を輝かせてくれたのに・・・それは突き付けられた厳しい現実でした。
例え3倍の値段で買っても1トンしか買えないとすると、彼らは1/3の値段でも100トン売った方が儲かるのです。
そして、彼らは何十年前から量を売る事で生計を立ててきたのです。
ガーンとハンマーで後頭部を殴られたような衝撃を受けました。どこかで正当な対価で買っていることは良い事をしているんだと思っていたのかしれません。そうではない!という現実を突きつけられました。
しかし、それは至極真っ当な事だと気づきました。皆が生計を立てるためにより良い取引=つまり収入が増える取引を選ぶは当たり前のことなのだと。
大量に取引ができない私にはまさに逆フェアトレードと言える状況が私の前に立ちはだかったのです。私は3倍の値段を提示しても売ってもらえなかったのです。
教えてもらった本当の豊かさ
村中のカカオ農家が私と取引してくれない中で、村のリーダー的な彼だけが私と取引をしてくれたのです。
今思えば愚問ですが、私は彼に「なぜみんなが大手と大量に取引する事を選ぶ中で僕らと取引してくれるの?」と聞きました。
彼は穏やかな表情でこう言いました。
「私はおじいちゃんの代からカカオを育ててきた。
政府のカカオトレーニングにも出たこともある。
でも誰も私にチョコレートの本当の美味しさを教えてくれなかった。
君たちは美味しいチョコレートの味を初めて教えてくれた。どうすれば自分のカカオ豆が美味しくなるかを教えてくれた。そして、私達のカカオ豆が美味しいと世界に届けてくれた。
こんな誇りを感じたことはこれまで一回もなかった。ありがとう。
確かに大量に売って収入が増えるという事は魅力的だ。でもそれには今の生活を捨てて、働き続ける必要がある。
私は先祖代々、朝に日が登って起きて、夜に日が沈んだら寝るという生活をしてきた。
朝から晩まで働き続けるのではなく、その生活を孫たちまで残していきたい。
今のままの生活でどうすれば収入を上げる事ができるかを初めて教えてくれたことに本当に感謝している。
だから私は君たちと取引を続けたい。」
恥ずかしながら、涙が出てしまいました。誰も取引をしてくれない中でこの言葉にどんなに救われた事か。
そして、私は彼に本当に大切な事を教えてもらいました。
「本当の豊かさとは自らの意思で選べる事」
なんだという事です。
幸せに生きるという事は生き方を自分で選ぶ事ができる事なんだと。
私ができることは彼らにそのために選択肢を提示する事。
それまでAしか選択肢がなかった人たちにBもありますよ、と届ける事なんだととても腑に落ちました。同じAを選んでいる人が二人いても、Aしか選択肢がない人とAもBもあって自らAを選んだ人では、意味が違う。自立的に選ぶことができる事が幸せに、本当に豊かに生きるヒントだと学びました。
この経験は私の買付のスタンスに大きな影響を与えました。
相手に押し付ける事もなく、過度にメリット提示することもなく、あくまで対等なパートナーとして私たちにできる事を提示する。時にはシビアに金額交渉をする。
大事な事は相手が私たちとやりたいと思ってくれる事。そのために嘘をつかず、背伸びせず、自分たちの想いを世界のカカオ農家に届けていきたいと学ばせてもらいました。
2020年は日本のエシカル元年。
大切な事を教えてもらったこの経験のもう一つの学びは、無理せずきちんと収入を増やし、未来に持続的な農業を農家が選択できる事が大事だという事です。インドネシアの彼が選んだ道は自分やその家族にとってエシカルであり、サステナビリティがある道でありました。
今、世の中は少しずつ変わってきています。情報の非対称性がなくなり、情報へのアクセスが容易になっている世の中において、これまで知られていなかった不都合な事実が周知になります。カカオ農家の貧困やカカオ農園での児童の強制労働なんかもその一つかもしれません。
だからこそ当たり前にエシカルやサスティナブルという事が前提にモノを消費したり、購買するという事が広がってきているんだと思います。
共感することが消費の意思決定の要素となる事が当たり前になってきました。世界と個人の距離ぐっと近くになっています。
Minimalではこのエシカルな意識に対して調査を行いました。やはり消費するときの前提にエシカルさが来ているのだと思います。
母数は「エシカル」という言葉を聞いた事ある人ですが、
80%以上の人がモノを買う際に「エシカル」を重要であると回答しています。これは驚きでした。
そして、95%の人がMinimalがやっている活動(もちろんMinimalの事は伝えていない)内容に「エシカル」な印象を持っています。
詳しくは以下からご覧ください。
実際Minimalはこれまでフェアトレードなどを声高に語ってきていないですが、最近は店舗に若い方で、わざわざMinimalのフェアトレードやJICAのODA調査案件の事などを調べて来店して「エシカル」な活動に対して共感してチョコレートを購入することが多くなってきています。
まさに2020年は日本における「エシカル」元年と言える年になるのではないかと思います。
アメリカのD2Cの隆盛の原動力の一つはミレニアム世代以降のエシカル消費
アメリカのD2Cの代表格のEVERLANEのHPには上記のような原価が公開されている事は有名です。そして、アメリカの多くの消費者(特にミレニアム世代以降)がこの透明性のある姿勢と従来の搾取されがちな工場側への適性還元の姿勢に賛同し、共感して商品を購入しています。
この流れは世界の同世代にも普及していると思います。アメリカでD2Cが隆盛しているのには、ダイレクトアプローチによって、自社の理念やサステナビリティの取り組みを消費者にきちんと伝える事ができているという事と、消費者がそれに共感しないと購入しない、もっと言えば、エシカルである事にお金を使う事がクールであると思っている事が原動力の一因だと思います。
エシカルのその先にある未来をブランドとして描く
カカオ農家に教えてもらった「本当の豊かさ」とは自分の意思で選べること。
それ以来、Minimalは新しい選択肢を世の中に提示する事に集中することができるようになったと思います。
カカオ農家に対しては
「量だけではなく、質の取引を」
「単なる収益だけでなく、つくったカカオへの誇りの醸成を」
という新しい選択肢を提示する。
お客さんに対しては
「価格で選ぶお菓子とブランドで選ぶ高級品だけでなく、産地や造り手で選ぶ嗜好品を」
という選択肢を提示する。
それを選ぶかどうかは農家やお客さん次第。
例え提示したものが選ばれなくても、選択肢がある上で自分の意思で選んだという事実が多くの人に豊かさをもたらすと思います。
エシカルという言葉自体には意味がなく、自分の価値観や信条に添った選択肢を選ぶことエシカル消費であり、その選択肢を提示する事で多くの人が「本当の豊かさ」を得ていく事にできるのだと思います。
Minimalが掲げる「チョコレートを新しくする」とはMinimalのチョコレートを通して、世界に一つ新しい選択肢を提示する事。
この言葉はカカオ農家に教えてもらった「本当の豊かさとは自ら選べることである」という気づきから生まれました。
今のMinimalのモノづくりやブランドのスタンスがあるのはカカオ農家のおかげです。
これからもその信念と理念をもって、多くの人に新しい豊かなチョコレートを体験を届けるように努力しようと思います。
※Minimalの商品
Minimalの商品は、提示した新しい選択肢に賛同してくれた世界中のカカオ農家との「協働作品」と言えます。ぜひバレンタイン・ホワイトデーにMinimalの商品を!
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