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独占禁止法の特例である書籍の再販制度とは

 りんごやテレビなど、多くの物は買うお店によって値段が異なっており、チラシを見て少しでも安いお店に行ったりすることがあります。では、漫画や雑誌がどの書店でも同じ価格で売られているのは何故でしょうか。今回は書籍の再販制度について解説します。


書籍の再販制度とは?


 書籍の再販制度とは、出版社が書籍や雑誌の定価を決定し、小売店(書店など)に定価販売させる制度のことです。法律に詳しい方であれば、何故出版社が定価を小売店に指示できるのか不思議に感じることでしょう。小売店に対して定価販売を強制すると、独占禁止法が禁止している再販売価格の拘束に該当してしまう可能性が高い為、通常は定価販売を強制できません。メーカー希望小売価格を設定することは家電業界などでよく見られますが、家電量販店はその価格に捉われずに値段を設定することができます。特定の業界以外ではあまり知られていませんが、独占禁止法は再販売価格の拘束禁止の例外として、著作物の再版価格の拘束を認めています。このような例外規定が設けられたのは、出版物は文化や教養の普及に不可欠な存在であり、全国どこでも格差なく手に入れられるのが望ましいと考えられた為です。都心に住む裕福な人だけが最新の書籍を購入でき、大手の系列ではない個人経営の書店は淘汰されることになると、長期的には国の文化レベルは下がってしまうかも知れず、また、表現の内容にも偏りが出てしまうかもしれません。定価販売により出版物の値崩れが避けられることにより、学術書など大衆的とは言えない内容の書籍を出版することも可能となり、自由な表現活動が維持されるという側面もあります。


書店はなぜ定価で売ることができるのか?


 書籍の再販売価格が拘束されても独占禁止法状の問題がないことはわかりました。しかし、なぜ書店はその条件を受け入れているのでしょうか?同じ地域に複数の書店がある場合、抜け駆けして販売価格を下げれば市場競争で優位に立つことができるはずです。それは、従来から書店が在庫リスクを負わない形式で契約が行われていたことが背景にあると言えるでしょう。書店は書籍を陳列しますが、買い上げて在庫リスクを負うことは稀です。販売委託あるいは売買であっても返品可能という条件を設定し、売れ残った書籍を出版社に返本することができるようにしておくことは、書店にとっても都合が良いのです。出版社は契約時に書籍の定価を定めることができますが、定価が高すぎて売れ残るリスクは出版社自身が負うことになるため、取引としてはフェアと見ることができるでしょう。また、書店間での価格競争は生じないかもしれませんが、出版社同士の競争が無くなるわけではありません。出版社が異なっても、同じようなテーマや分量の雑誌は同価格帯に設定されていることが多いのは、競争原理が働いているためと言えるでしょう。


電子書籍や古本は?


 書籍や雑誌の再販売価格の拘束が独占禁止法に抵触しないこととした背景には、文化や教養の全国的な普及の必要性がありました。現代ではインターネットを誰もが使うようになり、電子データとなって発行される書籍であれば、都心と田舎でも物流コストには差がなく、定価販売を原則とする必要がないのでは、という疑問を持たれた方もいらっしゃるかと存じます。それはもっともな指摘であって、公正取引委員会は、書籍の再販制度は電子書籍に適用されないという見解を出しています。その為、電子書籍については小売店にあたるWebサイト同士で価格競争が起こることはあり得ることになります。しかし、ネットで売る場合にわざわざ小売業者に販売を委託せずとも、出版社自身が直接、世界規模で販売することができる為、実際上は紙媒体の書籍と大差のない価格を設定して出版社自身が売っていることが多いのが現状です。とはいえ、電子書籍に関しては委託先の各書店と連携をする手間がないことから、出版社の一存で機動的に割引セールが実施されることもある為、必ずしも紙媒体と同価格帯であるとは言い切れません。

 古本については通常、定価で売る必要はありません。希少価値のある特殊なものは別として、書店で新品が定価で買える場合は定価より安い値段でなければ売れません。古本屋は将来の売れ筋を見極めて古本を仕入れ、自ら在庫リスクを負っているのですから、利益が出るよう自由に値決めができなければフェアとは言えませんよね。


再販制度の今後


 実は再販制度はその必要性について度重なる議論がされてきた制度であり、廃止を求める声も存在します。廃止論の理由は様々ですが、書店に在庫リスクがないことから必要以上の書籍が印刷され、紙資源の無駄につながっているという指摘もあるようです。英国でも過去に再販価格を維持するための協定が存在しましたが、出版社が協定から脱退することで骨抜きとなり、その後に裁判でも当該協定が違法である旨の判決が出ています。日本の出版業界とは事情が異なるものの、再販制度の存否を論じる上では示唆に富む事例といえるでしょう。


最後まで読んで頂きありがとうございました。
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