ネットブック、ブームになる
2008年7月10日、台湾での発表から約1カ月遅れて、日本市場向けのネットブック、「アスパイア・ワン」が発表された。すでにIT系のメディアでは新コンセプトのパソコンであるネットブックについて、「使える」「使えない」といった議論が白熱していた。
発表の舞台になったのは、六本木の東京ミッドタウン。5台のテレビカメラをはじめ、報道陣がカメラの砲列を敷く中、日本エイサー社長のボブ・セン氏の挨拶で発表会は幕を開けた。メインゲストは「ブログの女王」こと人気ブロガーの眞鍋かをりさん。アスパイア・ワンが女性ユーザーをターゲットにしていることを如実に表していた。
ぼくはその模様を、会場の片隅で取材していた。日本エイサーのPR誌である「tell acer」は12ページしかないが、ライターはぼく1人なので、表紙から裏表紙まですべての文字をぼくのキーボードから紡ぎ出す必要がある。ほんの小さなコラムも、メインのインタビュー記事も、すべて書くのだ。それは、ある意味ではライター冥利に尽きると言えた。
そのほかにも「tell acer」の仕事には余録があった。それは、知らない世界に取材で入っていけることだ。たとえば「tell acer」の創刊号では、京都の日本写真印刷を訪問して「転写フィルム」の取材をしている。これは、パソコンや携帯電話、自動車のインパネなどの表面を飾る技術で、従来の塗装やメッキに代わるものだ。
プラスチック製品の表面を美しく仕上げる場合、従来は射出成形後に別工程として塗装やメッキを施す必要があった。だが日本写真印刷の「IMD」は、あらかじめ金属光沢や塗装部分をフィルムに「印刷」しておき、そのフィルムを射出成形時に鋳型に挟み込むことで、一気に表面の加飾を済ませてしまう。危険な薬品を使うメッキや、溶剤を使う塗装が不要になるため、公害問題も無縁になるという技術だ。
その取材記事を、「tell acer」創刊号から再録してみよう。
量販店でのアスパイア・ワンの発売開始日、ぼくは有楽町のビックカメラでアスパイア・ワンのホワイトボディを購入した。前から「持ち歩けるフルキーボードつきマシン」が欲しかったのと、「tell acer」のメインライターとしての矜持からだ。PR誌のライターなのだから、取材には当然、クライアントの主力商品を使うべきだと思ったのだ。
それからしばらくの間、IT系の記者発表会では、ぼくのアスパイア・ワンがよく目立った。多くの記者はフルサイズのノートPCまたはモバイルノートを使っていて、小さくてかわいいアスパイア・ワンが机に載っていると、遠くからでもぼくの席がすぐわかった。そのうち、エイサー製品やライバルメーカーのネットブックを使う記者が増えてきた。「あ、これはブームになるな」と確信した。