雑誌を作っていたころ081
先割り
書籍を作るときはめったに聞かないが、雑誌を作るときによく耳にする業界用語に「先割り」というものがある。
これは何かというと、文章を後回しにして写真や図版、イラスト類とタイトル文字だけで誌面のデザインをすることだ。その方がデザインの自由度が高くなるからなのだが、雑誌ライターはできあがったデザインに合わせて指定通りの文字数で原稿を書かなければならない。
いつから先割りができたのかは定かでないが、週刊誌の編集部でアルバイトをしたことのある人に聞くと、昔の週刊誌では、活版ページは「ラフレイアウトを作って見出しとタイトルとともにデザイナーに渡す」→「原稿を書く」という流れだったそうだから、やっぱり先割りだ。
雑誌の世界で先割りが当たり前になったのは、おそらく切り抜き写真などを多用したこみ入った誌面が作られるようになってからのことだろう。もしかすると「ポパイ」創刊のあたりかもしれない。1ページに20点も切り抜き写真がある誌面が、原稿付きの「後割り」だったら、デザイナーが死んでしまう。
今ではたいていの雑誌やムックが先割りである。おそらく雑誌専業のライターは、もはや字数を指定されないと書けない体質になっているのではあるまいか。写真は今はなき「ネットショップ&アフィリ」の先割りレイアウトだが、これに合わせて取材してきた内容を書くのは、確かに職人芸の一つには違いない。
わが師匠の嵐山光三郎は、先割りのことを「挿文(さしぶん)」と呼んでいた。原稿に合わせて描く絵が「挿絵」だから、レイアウトに合わせて書く文章は挿文だろうということだ。「なるほど」と思ったが、この言葉は定着せず、業界標準とはならなかった。
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