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融合 プロセス指向心理学

トランスパーソナル心理学と共通の方向性を持った心理療法のひとつとして、アーノルド・ミンデル(アーニー)が開発した「プロセス指向心理学(POP: Process-Oriented Psychology)」があります。
POPはユング心理学やゲシュタルト療法をはじめ、量子物理学やシャーマニズム、老荘思想、仏教などの影響を受けており、「今ここに起こっていることにはすべて意味と目的がある」と考えます。
人生の中で起こる諸々の問題には大きな存在からのメッセージが含まれており、「問題の中に答えがある」として、まずそのメッセージを受け入れ「プロセス」の展開をサポートすることで、問題自らが解消していく過程そのものにまかせます。
「プロセス」とは環境と繋がった心身の変化とそのシグナルの流れ、そしてその流れが運ぶメッセージのことを意味しています。

人間関係のトラブルや降りかかる災難、からだに現れる症状など、我々が直面する諸問題は、一次プロセスと二次プロセスとの間の葛藤に原因があるとPOPでは捉えます。
一次プロセスは「私が相対的に同一化しているプロセス」で、精神分析学でいうところの「自我」に相当します。
二次プロセスは。「私が相対的に同一化していないプロセス」で、精神分析学の「潜在意識」や「深層無意識」に相当しています。
一次プロセスと二次プロセスの境界を「エッジ」と呼びますが、一次プロセスにとってエッジは、そこを超えたらもう自分ではなくなってしまう峠の頂として存在しています。
エッジに阻まれ融合できないでいる、2つののアイデンティティ(プロセス)間の落差のエネルギーが、人生の様々な問題となって現れるのです。

アーニーは1940年にニューヨークで生まれ、マサチューセッツ工科大学で応用物理学を学んだ経歴をもっています。
その後スイスのチューリッヒにあるユング研究所で分析心理学を学び、ユング派の精神分析家となりました。
そして夢分析中心の伝統的なユング的臨床を続けているうちに、アーニーは身体に現れる症状も実は夢と同じような無意識の創造的な発現なのではないか?と思うようになります。
夢に現れるイメージも身体に現れる症状も根源は同じで、たまたま夢という形を取ったり身体症状という形を取ったりするのだと考え、その夢と身体症状のプロセスを作り出している根源を「ドリームボディ」と名づけました。
さらにドリームボディのメッセージは夢や身体に共時的に現れるだけでなく、対人関係や動作など様々なチャネル(感覚)を通して現れてくることを発見し、そこで起こっているプロセスを丁寧に観察して流れを見極めることが重要だという、POPの考え方へと発展したのです。

POPでは「自覚=アウェアネス」が非常に重要な役割を果たします。
今まで気づいていた一次的側面に加え、気づいていなかった二次的側面が自覚にもたらされることで、それ自身で展開、成長し解決する創造的なプロセスが生まれ、より全体的な統合へと導きます。
日常の一次プロセスである「コンセンサス・リアリティ=合意的現実」には相互排除的な二元対立が起きていますが、ドリームボディのある二次プロセスの「ドリームランド」では対立する二極の間に交流があるとアーニーは捉えました。
そして一次プロセスと二次プロセスが融合する非二元的次元のリアリティである「ドリーミング」は、言葉やイメージの種となるセイシェント(微細)なエッセンスの領域であるといいます。
「自覚的プロセス」はこれら三領域の間を行き来しながら、「大きな自己」の観点で全体を見渡し、プロセスの進展を促すのです。

アーニーはアボリジナル・オーストラリアンが数万年の昔から受け継いできた、現生人類最古の聖なる概念である「ドリーミング」を、現代心理学の世界に蘇らせました。
ドリーミングはヒトの意識の中核エネルギーであり、すべての現実の基盤であり、人類のあらゆる宗教やスピリチュアルな教えの源泉でもあります。
そしてそれは夢のように微細な体験として、日常生活の中で絶えず私たちに働きかけている、とアーニーは言います。
『24時間の明晰夢―夢見と覚醒の心理学 』の中で彼は、「もし日常的な言葉では明確に捉えることができないセンシェントな傾向を知覚する注意力を鍛え直すことができれば、驚くべき畏怖の念を抱かせる現実が開け、日常生活の背景に潜むドリーミングの力を生きることが可能となる」と言い、その能力を「24時間の明晰夢」と名付けています。
ドリーミングは日常的な現実を紡ぎ出しているプロセスであり、意識を明晰に研ぎ澄ませば常にそこに繋がっている現実に気づき、一日中目覚めのプロセスが起こっていることを感じることができるのです。

アーニーは病気や身体症状という、マイナスイメージと結び付きやすい現象を、意識の根源からのポジティブなメッセージとして捉える視点を私たちに提供してくれます。
彼の独創的なアイデアによってPOPは、心理療法を新しい次元に拡張し、からだとこころ、顕在意識と潜在意識、個人の無意識と集合無意識という各レベルの二項対立を融合させて、人生における諸問題を解決するための「プロセスワーク」を作り出しました。
アーニーはさらに昏睡状態や植物状態にあるクライアントに対する「コーマワーク」や、集団や組織の問題を解決へと導く「ワールドワーク」など、夢の理論を多方面に発展させた数々の取り組みを行っています。
そこには個人や集団のドリームランドやエッセンスの領域に秘められている、あらゆる「隠れた声」を拾い上げていこうという、「ディープ・デモクラシー」の考え方があるのですが、それについては後々紹介していきたいと思います。

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