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融合 ハコミHakomi

アーノルド・ミンデルはその著作の中で、プロセスワークは他の様々な心理セラピーとの共通点を持っていると語っており、そのうちのひとつに「ハコミメソッド」があります。
ハコミメソッドは1970年代にアメリカのサイコロジスト、ロナルド・クルツRonald Kurtz(ロン)によって開発されたソマティック・サイコセラピー(身体指向的精神療法)です。
からだを通じて現れる現象を手がかりとして無意識を見出し、マインドフルネスな意識状態で深いレベルの記憶や感情といった「コアマテリアル」と出会い、そこにある思い込み(ビリーフ)を変容させて、新しい自分自身として融合させていきます。
ハコミHakomiとはネイティブアメリカン・ホピ族の言葉で、英語にすれば “How do you stand in relation to these many realms of reality?”(あなたは多くの実在領域において、どのように参画しているか?)という意味を持っています。
簡単に言えば “Who are you?”(あなたは何者か?)ということで、「ヒトがどのように自分自身の体験を組織化していくのか?」というロンの心理学的疑問の焦点を端的に表す言葉として、ホピ族の長老に許可を得て名付けたのだそうです。

1934年にニューヨーク・ブルックリンで生まれたロンは、インディアナ大学で実験心理学の博士号を取り、サンフランシスコ州立大学で教壇に立つ傍ら、ゲシュタルト療法を学び、バイオエナジェティックスとコアエナジェティックスの創始者ジョン・ピエラコスのクライアントになりました。
1959年からヨガの実践を始めると共に、フェルデンクライスやロルフィングのセッションを受け、また仏教(マインドフルネス)や道教(タオイズム)、システム理論、NLP(神経言語プログラミング)などを学び融合させることで、ハコミメソッドの基礎を築きました。
1981年ロンは仲間たちと共にコロラド州ボルダーにHakomi Institute(ハコミ研究所)を創設し、ハコミセラピーのトレーニングを世に広めるためのプログラムを開始しました。
1990年ロンはハコミ研究所を離れ、新たにハコミメソッドのニューバージョンRon Kurtz Trainings(ロン・クルツ・トレーニング)を開発し、国際的トレーニング機関としてハコミ・エデュケイション・ネットワークを立ち上げました。

新版旧版を含め、ハコミセラピーは5つの基本的な原理から成り立っています。
1) マインドフルネス:ジョン・カバット・ジン博士によって1979年に紹介されたマインドフルネスをいち早くセラピーの原理として取り入れており、セッション全般にわたって「いまここ」の意識状態を維持していく。
2) オーガニシティ:ヒトは本来自分自身を組織化する働きを持った有機的な存在であるとし、セラピストはその成長し変容する自己治癒の働きを尊重してサポートするのが役目だとする。
3) ノンバイオレンス:セラピストはクライアントの治癒プロセスに対して介入するのではなく、自然の流れを見守り安全な場を提供する協力者として寄り添っていく姿勢で臨む。
4) マインド-ボディ・インテグレーション:からだとこころはお互いに影響を与え合う存在であり、その人の世界や自分自身に対する固定観念やコアビリーフも、その両面に反映し表現されている。
5) ユニティ:ヒトを構成しているシステムにおける様々なレベルの様々な要素は、複雑なネットワークを構成しながら調和的に融合し、自らホールネス(全体性)を作りあげている。

ハコミのセッションは、概ね4つまたは5つの段階を経て展開していきますが、そのための準備としてセラピスト自身が「こころの贈り物=ナリッシュメント」を受け入れる姿勢を持ちます。
このこころの姿勢を「ラビング・プレゼンス」と呼び、相手を援助しつつ自分自身も癒されることで、お互いがサスティナブルに深く交流し合える場を開きます。
第1の「コンタクト」段階でクライアントとの間に安全で快適な雰囲気と信頼感を築けたところで、第2の「アクセス」段階に入りマインドフルネスな意識状態に導きます。
第3の「プロセス」段階では、からだの中で起こっている様々な現象をそのまま観じ、こころの中に浮かぶ記憶や思考、感情やイメージなどの「マテリアル」を追って、より深いところに隠されている「ビリーフ」を求めます。
記憶を探している間や、過去の辛いトラウマが蘇ってきた時などには、セラピストはクライアントの顔やからだにそっと触れることで、安心感のサポートをしながらプロセスの展開を助けます。
セラピストの援助によって自己防衛が解かれ、ネガティブな体験の記憶がポジティブなものに変わる「トランスフォーメーション」が経験されると、最終段界の「インテグレーション」となり、喜びの感覚と共に今までの自分が新しい自分自身として統合されます。

ハコミセラピーには「無為自然=あるがまま」という道教と「マインドフルネス=いまここ」という仏教の思想が根底にあり、西洋心理学の持っている「個の確立」や「自己表現」、「自我意識」に対しての無意識的強調がないため、私たち日本人にも違和感なく受け入れることができます。
そこにはロンの持つ優しさと調和の概念がいくつも盛り込まれていますが、中でもラビング・プレゼンスという考え方は、日本の伝統的な接遇の姿勢である「おもてなし」に通じるところがあります。
それはセラピストがまず自ら深く満たされた心地よい意識状態となることで、クライアントにもそれを受け入れたいという感謝の感覚が生まれ、無理なく安心感に裏打ちされた信頼関係が築かれる、というホスピタリティの思想です。
「表もなく裏もない」こころ丸ごとの歓待によって接するおもてなしの姿勢は、ハコミに限らずあらゆるセラピストにとって最も大切な心構えですし、さらにはセラピストだけでなく世界中全ての人々が身につけたい精神的態度であると思います。

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