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企業行動論講義note[01]「生きるとは欲することである:ビジネスの出発点としての欲望」

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この内容は、第1講の〈その1〉に当たります。
なお、このnoteはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示-非営利-改変禁止」です。

みなさん、おはこんばんちわ(←わかる人いる?w)。やまがたです。

これから企業行動論の講義を始めたいと思います。今回の内容は「ビジネスの出発点としての〈欲望〉」です。

〈欲望〉って聞くと、ちょっとおどろおどろしい、どちらかというとネガティブな意味合いで感じる人が多いのではないでしょうか?でもちょっと考えてみてください。人間って、意識的あるいは無意識的に、何かを欲し、それを充たしたいと思って考えたり動いたりしているのです。

のちほど説明していきますが、先に今回のキーワード(概念)を掲げておきましょう。

【ここでのキーワード】
欲 望:ある状態(現状)から、望ましい状態(当為)へと移りたいという期待。
効 用:欲望を充たしてくれる内容。
効用給付 / 財:効用をもたらしてくれるモノやコト。

まずは、身近な例を用いて考えてみましょう。

生きるとは欲望することである:「食べる」を例に。

たとえば、みなさんもほぼ毎日「食べる」って行為をしてますよね?もちろん、すごく経済的に厳しくて、一週間に一度しか「食べる」ことができない人も世のなかにはいます。ただ、ここでは、日本国憲法第25条で謳われている「健康で文化的な最低限度の生活」ができていることを想定します。

人が何かを「食べる」ときって、どんなときでしょうか?まず真っ先に思い浮かぶのは「おなかがすいたとき」ですよね。

[「食べる」のプロセス]
「おなかがすく」→「食べたい」→「食べる」→「おなかがみたされる」

そして、何かを「食べた」結果として、「おなかがみたされる」という充足状態にたどりつくことができるわけです。もちろん、他の欲望に衝き動かされて「食べる」ことも起こりえます。

[「一緒に食べる」のプロセスの例]
「好意を持っている人と一緒の時間を過ごしたい」→「一緒に食べたい」→「一緒に食べる」→「その人との関係性が深まる」

人間は、もともと社会的な(=他者とのつながりのなかで生きる)存在です。「食べるを共にする」というのは、人間に限らず、社会性を持った動物にとって重要な意味を持っています。そのような状況を想定すると、「(共に)食べる」ことによって、「関係性を深めたい」という欲望を充たすことも考えられるわけです。

このように、人間が生きるということは、〈欲望〉を充たそうとすることであると言えます。これは、生命維持に直接かかわる内容だけでなく、「ゆったりしたい」「ほっこりしたい」「盛り上がりたい」など、いろいろあるという点にも留意する必要があります。

何によって欲望は充たされるのか?

じゃあ、いったい何が私たちの欲望を充たしてくれるのでしょうか?
この「何」にあたる、〈欲望〉を充たしてくれる内容のことを〈効用〉と呼びます。

先ほどの「食べる」の例でいうと、「ごはんやおかず」がその最たるもので、他にも「お箸やフォーク、お皿やお茶碗などの食器」も補助的には大事です。それぞれが、それぞれに効果を発揮してくれるからこそ、私たちは「食べる」という行為をおこなえるわけです。この欲望する私たちに、さまざまなモノやコトが発揮してくれる効果を〈効用〉と呼ぶわけです。

冒頭に掲げたキーワード=概念の定義を補足しながら整理すると、以下のようになります。

欲 望:ある状態(現状)から、望ましい状態(当為)へと移りたいという期待。欲する対象が提示されてから欲望に気づくこともある。
効 用:欲望を充たしてくれる内容。現状→当為のプロセスそのものが効用である場合も。
例)好きな人と「夢の国」に行きたいって思い立ち、旅行の計画を立て、一緒に行って、帰ってからも思い出にひたる:この場合、「夢の国」に行くことだけでなく、その準備段階から帰ってきた後まで「効用」に含まれる。

〈効用〉は、それだけで存在しているわけではありません。〈効用〉の例として掲げたケースなどは、「夢の国」だけでなく、それを実現してくれる移動手段(新幹線や夜行バスなど)、泊まれるところ(ホテルなど)などなどさまざまなモノやコトによって、〈効用〉がもたらされています。

この「(欲望を充たすような)効用をもたらしてくれるモノやコト」を、ひじょうに堅苦しい表現ですが〈効用給付〉といいます。〈給付〉というのは、ドイツ語でLeistungという言葉の日本語訳なのですが、Leistungのもともとの動詞leistenは「もたらす」という意味があります。つまり「効用をもたらしてくれるモノやコト」という意味なのです。この効用給付、経済学では〈財〉と一文字であらわします。

じゃあ、経営学では何と呼ぶのか。もちろん〈財〉とも呼びますが、「効用をもたらしてくれるモノ」を〈製品〉「効用をもたらしてくれるコト」を〈サービス〉と呼びます。前者を有形財、後者を無形財ということもあります。製品とサービスをひとくくりにして「商品」と呼んだりもします。

[概念の整理]
効用給付:効用をもたらしてくれるモノやコト。別名、「財」「商品」
➡ モノ:有形財=製品
➡ コト:無形財=サービス
※ あとの講義(サービスドミナント・ロジックというテーマのとき)で〈製品×サービス〉について説明します。そのときに、「製品を含んだサービス」という考え方が出てきます。

いろんな呼び方があって紛らわしいですが、ここで大事なのは「欲望を充たす内容それ自体を効用と呼び、それは何らかのモノやコトを通じてもたらされる」という点です。

めちゃくちゃ普通なことを言っております(笑)でも、すごく重要なので、おさえておいてください。

ひとは、いかにして欲望を充たそうとするのか。

さて、まずは人間が生きること=欲望充足活動であるという点、そしてその欲望を充たしてくれるのが効用をもたらしてくれる〈効用給付〉〈財〉なのだという点について、ここまで見てきました。

じゃあ、どうやってひとは欲望を充たそうとするのでしょうか?ここで2つの選択肢を考えることができます。

(1)効用給付を創り出す〈創造〉
(2)効用給付を他者から得る〈交換〉

(1)を〈創造〉と呼ぶことにしましょう。これは、自らの資源や能力などを活かして、欲望を充たすような効用給付を創り出すことをいいます。

一方、(2)を〈交換〉と呼びます。これは他者が創出した効用給付を、何らかの対価を提供することで手に入れるという行為です。

ちなみに、対価はおカネとは限りません。「見返り」と呼んでもいいですし、より硬い表現では〈反対給付=相手へのもたらしとも言います。

おそらく、ほとんどのみなさんはこの両方をやりながら、抱く欲望を充たしているのではないかと思います。〈創造〉という場合も、別に必ずしもゼロからやらなければならないわけではありません。「食べる」場合に、食材を買ってきて「自分で料理を作る」とき、そこには〈創造〉の側面が含まれています。同時に、「食材を買ってきて」という行為は〈交換〉です。

つまり、人間は欲望を充たそうとするとき、創造と交換を組み合わせながら、効用を得ようとするわけです。

さて、〈交換〉という概念を出してきたわけですが、これがなかなか厄介なのです。というのも、自分が欲しい何かと相手が欲しい何か、それらが釣り合ってないと交換しようとは思わないからです。

この問題を考えるうえで、欠かせない概念が登場します。それが〈価値〉です。これについては、企業行動論2020[02]「〈価値〉があるって、どういうこと?」でお話ししたいと思います。

[これからの講義に向けての留意:〈創造〉と〈交換〉]
企業行動論の講義では〈創造 / 価値創造〉〈交換 / 価値交換〉という言葉が何度も出てきます。いつも、講義するときもかなり留意していますが、その境界がひじょうに難しいのです。[02]で採りあげますが、価値創造が実現(成就)するのは、「創出した効用給付が相手によって受け容れられ、その相手に充足をもたらしたとき」なのです。ここにはすでに〈交換〉が含まれています。このあたり、受講生のみなさんにはこの講義noteをしっかり読み込んでもらいつつ、わからないときはオンタイムでどしどし質問してくださるようにお願いいたします。

次回は、「価値とは何か」について考えます。

んじゃ、また!
ばいちゃ!

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