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面的思考ワークショップ。

昨日(2018年7月14日)は、シャープの福士夏季さんと常葉大学の安武伸朗先生による「顧客と自社で価値を共創する:面的思考の実験ワークショップ」のお誘いをいただき、近畿大学で開催しました。シャープや常葉大学(現役学生&OGの方々)からもご参加をいただいて、なかなか濃厚な催しになりました。

私自身、この2年ほどサービスデザインやUXデザインという領域に関心を持つようになりましたが、もともとは(というか、今も)経営学史の研究者です(そのつもりですw)。ただ、個人的な感覚として、経営学史から得られる知見を実践の方々にも響くようなかたちで伝えていくためには、何がしかの〈実装〉を考えねばという思いもあります。同時に、プロジェクトなどをさせてもらうなかで、経営学史的な知見がけっこう役に立つかもというような感覚を抱く機会も少なからず経験しました。そういうなかで、サービスデザインやUXデザインなどを専門としておられる、あるいは深くかかわっておられる方々と接する機会も急激に増えてきたわけです。

今回の催しもその一つなのですが、サービスデザインやUXデザインを大学において研究や教育の実践として導入されているという事例は、今のところまだそう多くはありません(私が知らないだけかも)。今回、お声がけくださった常葉大学造形学部の安武先生が主宰されているin and out lab(前名:未来デザイン研究会)は、なかでも先駆的かつ先端的。しかも、ビジネス的な観点を積極的に摂り込んでおられる点、私にとってはめざすべきありようを示してくれる存在です。

ちなみに、安武先生の授業&研究会については、リンク先の記事をご覧ください。

そんな安武先生の研究会とご一緒させてもらえるというのは、ものすごくありがたく、また嬉しいことなのです。

ちなみに、in and out labさんが8月25日に東京でオープンカンファレンスを開催されます。できれば、私も行きたいなと思ってます。


さて。
前置きが長くなりましたが、今回のワークショップは、安武先生の研究会ご出身で、現在はシャープにお勤めの福士夏季さんが、安武先生と共同で研究をされているということで、その〈実験〉としてお声がけをいただいたというのが、開催の経緯です。

まずは安武先生から研究会の紹介と今回のワークショップの趣旨説明。

ちなみに、先週は福岡大学商学部の森田泰暢先生のゼミで同様のワークショップをなさったとのこと。

それについての森田先生のブログはこちら

説明がひととおり済んで、いよいよワークショップへ。今回のお題は「クリーンソリューション」。今回のワークショップでは、顧客が抱えているジョブや欲望などが〈顧客情報〉として、また技術や経済、また社会的な側面の情報が〈社会情報〉、競争相手などの状況などに関する情報が〈業界情報〉、企業の理念をはじめとする企業についての情報が〈企業情報〉、そして架空の自社製品に関する情報が〈製品情報〉としてあらかじめ準備されていました。

〈顧客情報〉以外の情報は、活用しうる資源についての情報として捉えることができます。なので、これらを〈資源情報〉と仮に呼んでおきます(←山縣が私意をもってつけた名前です)。

今回の事前情報提示に関して、ユーザー(顧客)の欲望やジョブにかかわるものと、それに応えようとする企業が活用しうる資源や状況などにかかわるもの(資源集合)として整理されていたのは、最近、私が考えてることと重なり合って、ひじょうに興味深かったです。というのも、企業が提供する効用給付(製品、サービス、コンテンツ、そしてそれらの組み合わせ)は、欲望やジョブに関する認識と、活用しうる資源集合についての認識との往還のなかで生み出される、と私は考えているからです。今回のワークショップにおいて、それが意図的であったかどうかはともかくも、明瞭に浮かび上がっていたのは、まことに示唆に富むものがあります。

ちなみに、今回のお題はあくまでも架空の企業に関するもので、ビジネス上の機微機密にかかわるような情報は一切含まれていません。念のため。

実際のプロジェクトであれば、これからの情報を丹念に収集するところから始まるわけですが、今回はそこが目的ではないので、情報については収集されているという地点からのスタート。

まずは、与えられている情報、特に顧客情報のなかに共感できるものがあるかどうか、そして、さらに追加的に顧客情報を付け加えるとしたら、どんなものがあるのかを考えるところから。


そして、さらにそこに〈資源情報〉を選び出してきて、周囲の四隅に貼り付け。それができたところで、隣のチームとピアレビューをしてもらいました。

このピアレビュー、これまでの実験で採り入れられていたのかどうかはわかりませんが、今回のワークショップには企業で働いておられる方々と、学生がほぼ半々で参加していました。そのチーム分けをする際、敢えて社会人チームと学生チームそれぞれ2つずつとしていました。その理由は、「社会人と学生を混ぜるのもおもしろいけれども、考える際に依存的になるのを避けたい」というところでした。これはまことに悩ましいところでしたが、途中でピアレビューを2度入れることで、チーム間でのコミュニケーションもいくぶん促進されたのではないかと思います。

休憩を挟んで、今度は〈面的思考〉のある意味でコアともなる“島”の描出。

〈顧客情報〉と〈資源情報〉を結びつけながら、模造紙上に“島”のような「面」をつくっていきます。これ、KJ法ときわめて近いとも思われるのですが、グラフィックレコーディングに長けた福士さんの直観を、ご自身でより学問的に捉え返そうとされる試みと、私には感じられました。グラフィックレコーディングをしておられる方で、これに習熟されると、模造紙における配置が“非論理的(この表現は説明のなかにでてきたものですが、むしろ「直線的でない」というほうがより正確であるようにも思います)”で、かつ適切な配置になっていくことがあるとのこと。しかも、その配置は動的な側面を持っている、と。そこを解明しようとされているのは、まことに興味深いです。本研究の進展が待ち遠しいところです。

以下はワークショップを体験しながら、特に〈面的思考〉に関して、私が感じた、というか自分のなかで整理した点です。

【面的思考WS私的メモ】
1. 繋がりの表示としての線=要素間の関係性:意味がそこに内在する
2. 線は一本ではない=線の複合性
3. 線の複合(性)によって、面(=意味空間)が生じる
4. 面は重なり合い得るし、空隙も生まれ得る⇨重複や余白がもつ意味の重要性
5. 空隙=余白が意味的乖離なのか、今まで問われなかったゆえの空白なのかは、面的思考における重要な思索ポイント
6. 線および面は思索プロセスにおいて、思索者によって動かされる=認識変化
※ 線を動的に構成してゆく(構成し変えていく)ことで、面が変移する。面の変移は重複や余白の変化をもたらす。それによって、価値空間ないし意味空間に関する新たな認識を惹起することができる。
※ 構成する要素は、線引きの前段階で「完全に」揃っているわけではなく、線引きしていくなかで増えていく。
※ ある線引きに加わらない(加えられなかった)要素も、別の線によって何かと結びつく可能性がある。

そんなに目新しいことを書いてるわけではないですが、こういうことを感じつつ参加してました。

さて。
この面的思考では、考え出し、描き出した「面」を関係性を捉え返し、それを重ねることで動かしていくというのが、一つのポイントになります。今回は時間の関係で、そうやって何度も動かしていった結果として導き出されたコンセプト(提供しようとする価値と、その具体像)や、あるいは“悶絶”しながら考えた結果として得られた知見をチームごとに最終報告してもらいました。

ウチの学生(経営学部生)にとっては、こういったグラフィカルな思考&描出プロセスは、まったくもって未知の世界。とまどい、また面喰らいながらの5時間だったかもしれません。

けれども、じゃあ手も足も出なかったのかというと、そうでもなくて、時間軸で考えてみたり、あるいは問いを深く掘り下げてみたりと、これまでやってきたことのいくらかは発揮できてたような気もします(←贔屓目すぎるかなwww)。

今回の面的思考を、ウチで摂り入れるとすれば、まさに感覚・感性的な側面をしっかり受けとめて、それを描き出すという点。どうしても、経営学の場合、本来は感性的な側面がすごく重要であるにもかかわらず、それが背後に押しやられがちです。でも、たいせつなのは、「こう感じる」という点をしっかり受けとめて大事にして、そのうえでそこに現し出される重複や空隙の意味を問い返すということ。感性と論理は対立軸ではないと、私は考えます。

加えて、面的思考を摂り込んでいくと、空間的な視座が鍛えられるようにも感じます。ウチのゼミでは、時間的な視座をかなり要求します。ただ、そこに空間的な視座を併せ持たないと、きわめて短絡的な思索に陥ってしまう危険性があるのです。その瞬間々々にはその瞬間の〈世界〉が広がっています。そして、それが時間の移り変わりで姿を変えていきます。つまり、時間が移っていくということは、空間が変容していくことに他ならないのです。そうしたときに、〈経験〉という事象をより深く広く捉えうるのではないか、と。

ほんとに楽しい時間でした。飲み会もけっこう盛り上がって、さらに楽しかったです。

安武先生とも話をしていたのですが、今日のような大学や企業とかいった枠を超えて、考え、表出する場というものが、これからすごく求められるように思います。これまでの個々の企業や大学、その他さまざまな協働システム(Betrieb:目的志向的な協働態としての経営)が必要にならなくなるわけではありません。一方で、その枠を超えた場ないしプラットフォームは絶対に必要です。そういう場で得られた知見や経験を、それぞれの所属するBetriebで発揮していくわけです。

ウチのゼミの場合、「価値の流れをデザインする」という点にポイントを置いてます。具体的には、それぞれの活動主体の内部での価値の流れと、主体間での価値の流れとをどうデザインするのかを考えるってのが基本テーマです。ちなみに、前者を内部価値循環あるいは価値創造過程、後者を外部価値循環あるいは価値交換関係と呼んでいます。これを描出する際に最も近いのが、顧客価値連鎖分析(CVCA)です。もちろん、ウチのゼミではもう少し詳しい記述をめざしますが、このあたりはサービスデザインと深くかかわりあうところです。これをいきなりやるというのは難しいですが、今回のようなやり方で場をつくっていくのもおもしろいかも、と思ったりもしてます。

今回のワークショップは、その可能性を感じられたという点でも大きな収穫でした。

あらためて、安武先生、福士さん、参加してくださったみなさん、ほんとうにありがとうございました!

ぜひまたこういう機会をつくりたいと考えてます!

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