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経済の部屋の底板がはがされなければならない。

マザーハウスカレッジでお世話になっている、マザーハウスの代表取締役副社長の山崎大祐さんの投稿。

そのなかで「経済活動に心を復権する」というフレーズがありました。

これを読んで真っ先に思い浮かんだのが、ニックリッシュの次の言葉です。

「経済の部屋の底板がはがされねばならない。」(Nicklisch, H.[1929-31]S. 7)
「経済学者は、経済生活の諸現象をその根底に達するまで追跡しなければ、それを理解することはできないであろう。この研究をもっぱら哲学者や心理学者にゆだねるということは、ここでは経済学者を益しないのである。経済学者は自らそれを行わねばならない。そして、自ら深奥にせまらねばならない。」(Nicklisch, H.[1929-31]S. 19)

ニックリッシュ学説研究の第一人者であられた市原季一・神戸大学教授(故人)も著書『経営学論考』(23-24頁)でこの言を引いておられます。

ニックリッシュが生きていた1929年ごろは世界恐慌が起こる直前、そして冒頭に掲げた主著第7版は世界恐慌が起こりゆく最中に公刊されました。その後、その主著が改訂されることはありませんでした。

ニックリッシュを21世紀の現代において、どう読み、どう活かすかは、私自身の思索課題の一つです。特に、ニックリッシュが依拠していたドイツ観念論ではなく、異なる視座で(今のところ考えているのは、ガーゲンの社会構成主義です)価値循環フレームワークや経営共同体思考を、どうやって活かすかという点です。

この点を考えるとき、マザーハウスさんの経営のありようは、すごく示唆に富みます。というのも、共同体思考に根ざした価値循環の構築・デザインを意識しておられるように感じられるからです。そこには、創業者であり、代表取締役社長の山口絵理子さんの感性的な視座・眺望(Perspective)、そして同時に合理的な思考、共同創業者といってよい山崎大祐さんの冷静で、かつ同時に情熱的な視座や思索、実践が根底にあるのだろうと思います。

以下は、試みにマザーハウスさんの価値循環を図式化したものです。

誤りがあるかもしれません。その折は修正しますので、ご了承のほどお願いいたします。

この図では、共同体思考の側面があまり描けていませんが、この循環を構想し、動かしていく基礎となる原動力こそが企業理念であり、そこから導出される企業政策(方針)でありましょう。

近年、ビジネスの世界でも採りあげられるようになったサービスデザインにおいては、ビジネス・エコシステムあるいはサービス・エコシステムという視座が強調されています。その駆動力(treibende Kraft)となるのは、企業理念や企業のコンセプトに現れる〈感性的眺望 ästhetische Perspektive〉であると考えられます。

かつて、ニックリッシュ学説を批判的に受けとめて、独自の経営経済学体系を提示したシェーファー(Schäfer, E.)は、企業理念(Unternehmungsidee)を企業にとっての駆動力であると指摘していました。リーガーの弟子でありながら、ニックリッシュ学説を批判的に享受したともみえるシェーファーの経営学史的な位置づけは、興味深い課題の一つです。

価値の創造や交換という営み=ビジネスもまた、人間の営みの一つです。そこには生存維持や経済的な豊かさの追求という側面もあれば、それを超える側面も同時にあります。

マザーハウスさんのビジネスのありようは、「企業とはいかなる存在であるのか」という点を考えるうえで、ほんとうに示唆がたくさんあります。

6月3日には、大阪でも山崎大祐さんご自身が“ゲスト”ともなられるマザーハウスカレッジがあります。楽しみです。


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