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パスタの王国

1人暮らしを始めてから食事の3分の1がパスタである。摂取した量で言うと3分の1を優に超えるかもしれない。つくるのが簡単すぎてパスタばっかり食べている。うどんやそば、ラーメンも同様に楽なのだが、パスタソースの種類の豊富さからパスタが多めになる。

パスタには感謝してもし切れない生活を送っており、パスタの祖国イタリアには足を向けて寝られない。ただ家のベッドの位置の関係で足が欧州を向いてしまうため直立で寝ている。その姿は乾燥パスタさながらである。

ある時、バイト先で一人暮らし?やっぱ食事はパスタばっかり?(笑)
と言われたことがある。一人暮らしの男に対して食事がパスタばかりになるという話は定番であり、実際その通りではある。だが、彼が少し笑っているのが気になった。まるで調理が簡単なパスタは怠惰の象徴かのように…


時は過ぎ、食料は枯渇し、人々は飢餓に苦しみ、小麦を求め争う。もうまともに食べることのできる料理はパスタだけである。パスタの加工元であるデュラム小麦の生産、それにパスタと言えば、というなんとなくのイメージを武器にイタリアが覇権を握る。

程なく選別が始まる。イタリアがパスタを分け与える者の選別である。今までいかにパスタを愛していたか。いかにパスタと真摯に向き合ってきたか。それが基準となる。

ガタイが良く彫りの深いイタリア人の元に、我々は一列に並ぶ。その様はまるで乾燥パスタである。今までの行いとパスタに対する思いの丈をぶつけるのである。僕の前にはあのバイト先の人が並んでいる。

みな迫りくる選別に不安そうな顔をしている。だが僕は違う、なんてたって食事の3分の1はパスタである。凛と立つ様はまるでカルボナーラのようであり、瞳に宿る闘志はまさにアマトリチャーナである。着ている白シャツは…アーリオ・オーリオ…みたいだね。

順番がきて僕の前に並ぶ彼は、息継ぎも忘れ必死の形相でイタリア人に語る、実はパスタが好きで…友達もみんな好きって言ってて…二郎系の次に好きで…もう僕にとってのアモーレなんです。

イタリア人は表情一つ変えることなく彼をオリーブの実と生ハムの原木で殴打する。パスタを笑うものはパスタに泣く。悲しいかな時代は非情であり地中海の夏は乾燥している。

僕の番がやって来た。彼の眼を真っすぐに見つめて一言。「キューピーのパスタソース、美味しいっすよね。」彼は深く深くうなずいた。

1人暮らしには乾燥パスタとキューピーのパスタソースがあれば他に何もいらない。これが真実であり地中海の冬は今日も雨である。


あぁ、いろいろなものが簡単に食べられて有り難い時代だな、と感謝し妄想にふけながら今日もパスタを茹でる。


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