やまり

エッセイを書く人。田舎→海外を経て、夫と犬と猫の4人で都内に暮らす何者でもない30代。…

やまり

エッセイを書く人。田舎→海外を経て、夫と犬と猫の4人で都内に暮らす何者でもない30代。ノンフィクションとフィクションの間。頭の中の言葉で溺れないように、過去や現在、未来のことを書きます。

最近の記事

歯医者に通う、という名のラブレター

歯医者に行くことは、私にとって「愛を受け取ること」である。 「目と歯は大事にしないと、って言うでしょ。 俺の周りにも後悔している人結構いるんだから。 やまりにはそうなってほしくない。一緒に行くから、歯医者はちゃんと通おう」 夫に諭され、歯医者嫌いの私は今年20数年ぶりに歯医者に通うようになった。 正確には、2年前にも通い始めようとしたのだが挫折した。 その時も夫が付き添ってくれたのだけど、定期的に歯医者に通う夫は1,2回の通院で済むのに対し、私の治療は終わりの見えない

    • 学校を走ってたら皇族のSPに怒られた

      大学生の頃、皇族の某殿下が学校の視察にいらっしゃった。 「今日、某殿下が来ているらしい」という情報を小耳に挟み、ミーハーな私はどうしても一目見てみたくなった。 だけど、学内のどこをどう回るのかなんて分かるわけない。そもそも皇族はそんな簡単にお目にかかれるものではないのだ。 あちこち歩いても遭遇することはなく、その日最後の授業が終わってしまった。 残念。家に帰って昼寝でもするか。 怠惰な大学生らしく、ぼけーっと友人たちと教室から踏み出した時だ。 廊下にスーツ姿のSP

      • 風邪かと思ったらマイコプラズマ肺炎で即入院になった話

        私は普段、風邪をひいても乾いた咳しか出ない。 痰ができにくい体質なのか何なのかは知らないけれど、ちゃんと痰のからむ咳が出る人が子供の頃から羨ましかった。 痰のからんだ咳の音は仮病ではない証拠だ。 乾いた咳は元気な人でも出せるし、体調もそこまで悪くないと思われがちだ。どうして「本物の咳」が出ないんだろう、と子供ながらに悩んだものだ。 だから約2週間前、ふと咳をした時にのどがコロコロと音を立てた時、「あれ?」と思った。 熱もなければのども痛くはない。 風邪の症状はなかった

        • パン屋の太った店長と変わったお客さん達の思い出

          人生で初めて働いたのは地元のパン屋だった。 高校を出たばかりの18歳の頃だ。 私はカナダの高校に通っていたので、6月に高校を卒業し7月に日本に帰って来ていた。大学入学は翌年の4月だから、それまでの間フルタイムで入れるバイトを探したのだ。 本屋や市場などいくつか応募し、8月から働き始めたのがスーパーの中に入っているパン屋だった。面接ではパン屋を選んだ理由を聞かれ、「美味しいパンを食べると幸せな気持ちになるからパンが好き」と答えたような記憶がある。 大学に入るまでの半年ちょ

        歯医者に通う、という名のラブレター

          北半球を飛び出したら、南の島の神様に出会った

          「ここではゆっくり、深く息をしてもいいんだよ」 大地や空が語りかけてくる。 目の前にある大自然に、目には見えない偉大な力を感じる。 人々はおそらくこれを「神」と呼ぶのだろうと思った。 *** 南の島の神様に出会ったのは20歳の時だ。 大学の冬休み、雪の降る東北を飛び出して「世界一幸せな国」と言われるバヌアツ共和国へ旅をした。 首都のポートビラにひとたび降り立つと、私は不思議な感覚に包まれた。 熱い抱擁で私を出迎える熱帯の風、肌を直火で焼くような太陽、生まれたての青

          北半球を飛び出したら、南の島の神様に出会った

          新婚の頃、2つの工夫で夫婦仲がさらに良くなった話

          うちは夫婦仲が大変よい。 人にもよく言われるし、自分たちでもそう思う。 それでも、最初は少しだけ苦労もした。 卵焼きはしょっぱい派か、甘い派か。 看病はしっかりする派か、頼まれたらする派か。 牛乳パックの口はとめる派か、とめない派か。 家事はまとめてやる派か、こまめにやる派か。 一緒に住み始めると小さな違いがたくさん出てくる。今までの「普通」が相手には通じない。お互い結婚するほど通じ合ってると思っていても、だ。 そんな新婚最初の壁を乗り越えた時の、私の個人的な経験のお

          新婚の頃、2つの工夫で夫婦仲がさらに良くなった話

          20歳まで自分の好きな色を知らなかった私が29歳で髪をピンクに染めるまで【後編】

          ▼前編はこちら 社会に出て、白と黒に染まる ロリータをしていた大学時代からは生活は激変し、社会人になるとスーツにパンプスで出社した。赤やピンクは一旦忘れ、黒と白に染まっていく毎日だった。 仕事は楽しかった。お金が出ていくばかりの学生時代とは違い、毎日やることがあって、学びがあって、人の役に立って、お金がもらえる。職場の人たちも良い人ばかりで、何も知らない新社会人の私に本当にたくさんのことを教えてくれた。 だけど、家に帰ると1人ぼっちだった。地方出身で週末気軽に遊べる人

          20歳まで自分の好きな色を知らなかった私が29歳で髪をピンクに染めるまで【後編】

          20歳まで自分の好きな色を知らなかった私が29歳で髪をピンクに染めるまで【前編】

          私はピンク、厳密にいうと赤とピンクが大好きだ。 だから髪の毛もピンクに染めている。 「ピンク髪の女性」と聞けば、多くの人は10代や20代前半の女の子や原宿にいるような子を想像するだろう。だけど私は30代半ばだし、初めて髪をピンクにしたのは29歳の時だった。 これは20歳まで自分の好きな色すら分からなかった私が髪の毛をピンクに染めるまで、そしてやりたいことがあれば何歳からでもやっていいと気づくまでの、世界をまたにかけた大冒険のお話。 ピンクが好きだと気づくまで 私は大学

          20歳まで自分の好きな色を知らなかった私が29歳で髪をピンクに染めるまで【前編】

          亡くなる前に一度だけ連絡をくれたR君のこと

          9年前のちょうど今頃、友達のR君が亡くなった。 読みやすいように仮名をつけようかとも思ったが、違う名前で呼びたくないのでR君とする。 R君は大学の同期だった。 少しウェーブがかった毛量の多い髪を茶色に染め、眼鏡をかけ、かなり痩せ型で背が高い。ちょっと斜に構えたようなところがあるけど、繊細で頭の良い人だった。 入学してすぐ何かのきっかけで仲良くなり、夜中まで一緒に騒いだ日もあれば、部屋に遊びに行って一緒に映画を観たり好きな漫画の話をした日もあった。 R君は「おやすみプン

          亡くなる前に一度だけ連絡をくれたR君のこと

          3653回目の朝も幸せを願った

          よく晴れた朝。 駅に向かう途中にあるレンガ色のマンションの前で、粗大ごみシールを貼られたセミダブルのマットレスが日に晒されている。 私は何故だか胸を締め付けられ、涙が出そうになった。 「恥ずかしい」という声が聞こえたような気がしたのだ。 道を急ぐ人たちが、マットレスの横を足早に行進していく。 体はここにあるのに目はきつくどこかを見つめ、心は既に職場にあるか自宅に置いてきたようだ。もちろん、粗大ごみなど気にもかけない。 私も気だるく職場へ向かう一人だが、どうしてもマットレ

          3653回目の朝も幸せを願った

          「あなた本当に素敵な人ね。未来もきっと素敵よ。」

          「あなた本当に素敵な人ね。未来もきっと素敵よ。」 心に大切にしまい込んだ、宝石のような言葉がいくつかある。 その一つをくれた、名前も知らないおばあちゃんの話をしたい。 20代の頃、仕事でほんの少しだけ箱根の山奥に住んだ時期があった。 自然にあふれ、静かで、近所で唯一のスーパーが18時に閉まってしまうことと、バスがよく遅れることを除けばすごく住みやすい町だった。 私の住むマンションは、スキーで直滑降出来そうなほど急で、おそろしく長い坂のてっぺんにあった。先述のとおりバスは

          「あなた本当に素敵な人ね。未来もきっと素敵よ。」

          「あ、結婚しよう」と思った日の話

          結婚しようと思った日のことを書いてみる。 人生のターニングポイントとか、人が進む道を選んだ時の話を聞くのが昔から好きだ。結婚のきっかけもその一つだと思うが、照れなのかちゃんと話したがらない人も多い。人から聞かれることも案外少ない。 だから私がまず書いてみようと思った。 夫がどれだけ良い人かとか、何故夫を選んだのかなどはまた今度書くとして、私が「あ、結婚しよう」と思った瞬間の話だ。 当時、彼氏(現夫)とは1年半程交際していて「こういう人と結婚したら良いんだろうな」とは漠

          「あ、結婚しよう」と思った日の話

          自己紹介

          はじめまして。やまりです。 初めて投稿するので、まずは自己紹介をしてみます。 過去のこと いわゆるド田舎、でも県内では3本指に入るくらい栄えているはずの街で育ちました。田舎は人と人との距離が近いのにみんなが良い人とは限らないのが息苦しくて、思い切って高校から海外留学。 大学からは日本にいて、就職を機に東京へ。 今のこと 就職してから干支も一周、35歳になりました。 せっかく留学したので語学を活かした仕事をしています。 コロナ禍真っ只中にひっそりと結婚し、夫と猫と犬

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