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今年の重大インシデント ~レースの安全性と考えうる改善策~


始めに

今シーズン、荒れに荒れるSUPERGT。
度重なる重大インシデントから見る、レースの安全性とその改善策について考えてみようと思う。

では、今シーズン発生したインシデントについて振り返ってみよう。
第1戦岡山、39号車SARDが公式練習中に宙を舞うクラッシュ。61号車R&D Racingが決勝に滑ってクラッシュ。この岡山では決勝で雹が降るなどといった天候に左右されたクラッシュが多く発生した。
第3戦鈴鹿、23号車NISMOと88号車JLOCとのクラッシュ。両車モノコックを破損し廃車に。特に23号車はエンジンが脱落するといった全損状態。このクラッシュによって、決勝が途中終了。ドライブしていた松田選手は2カ月半の入院生活を送った。
第4戦富士25号車つちやエンジニアリングと244号車Max Racingによる車両火災。両車ともエキゾーストからの発火が原因。244号車はこの影響でシーズン途中での撤退(その後進退不明)。25号車は現状今シーズンの参戦を停止しているがクラウドファンディングを通じて復活を模索している。
第6戦菅生、56号車KONDOと100号車のクラッシュ。100号車が大破、山本選手は救出時、痙攣を引き起こしており検査へ。現在は別の病院へ入院している。

このように、第6戦終了までに高確率で重大なクラッシュが発生し赤旗が掲示されている。
第3戦鈴鹿のような赤旗掲示後からの途中終了は少ないが、23号車や100号車などのようなエンジンが脱落する、モノコックが損傷するといった廃車状態に陥るクラッシュが多く発生している。

クラッシュや火災などの詳細は以下の記事に詳しく記しているので参考までに。

何故、クラッシュした時に激しくバラバラになるのか

これらの大きなクラッシュが発生した時は、激しくパーツが周囲にはじけ飛ぶシーンが見られる。
見ている観客からすれば「痛々しい」「目を覆いたくなる」と思うだろう。

ただ、これは車内のドライバーを保護する非常に重要な役割がある。

乗用車の衝突安全テストの映像を見てもらうとわかりやすいだろうか。
衝突時に当たるフロントバンパーやリアバンパーといった部分はもろく、壊れやすくなっている。
衝突時の衝撃を緩和し、乗客を保護する。

仮にこれらのパーツが硬く強固なつくりになっていたらどうだろうか。
衝突時の衝撃は直接乗客へ伝わり、身体へのダメージは計り知れない。

ではレーシングカーの場合はどうだろうか。
250km/h~300km/hで駆け抜けるレーシングカー。
300km/hで衝突した場合、パーツがバラバラにならなければ・・・。
悲惨な目に遭うことは必然だろう。

そのため、レーシングカーがクラッシュ時にバラバラに分解することで衝撃を各方面に分散させ、ドライバーに危害が加わることなく五体満足で生還させている。

特に2022年の3号車NDDP Racingのクラッシュや今年の23号車、100号車の大きなクラッシュが発生した時に、入院こそあるもののその後のレース活動に全く影響がでていない。

しかし、バラバラに分解されることはメリットだけではない。
細かく分散したパーツがクラッシュした場所によってコース上や観客席まで散布範囲が拡大してしまうことがある。
実際に2022年の3号車のクラッシュの際には細かくなったカーボンパーツが観客席まで飛散してしまい、一部の観客が怪我を負うといった実害が出てしまっている。

乗っているドライバーを守るため一長一短ではあるが、防護柵に厚みを持たせるなど改善が常に必要だ。

マシン速度を下げるべき?~高橋二郎氏のコラムから考える~

9月19日にJSPORTSのサイトにて更新された、モータースポーツジャーナリストでSUPERGTではピットリポーターを務める高橋二郎氏がコラムを掲載した。

そこには「スピードを下げましょう」という題がつけられ、第6戦での出来事に付け加え、最近頻発しているレース終了後の車検による失格や大規模クラッシュについて高橋氏の意見が記されている。

現在のSUPER GTの速さは、そろそろクラッシュした場合の安全性を重視して最高速を下げる努力が必要だと考えます。

9/19更新 JSPORTSコラム&ニュースより

第6戦で起きたクラッシュも含め、大規模クラッシュが発生した時はマシンが最高速度にほとんど達している状態で起きているとされており、ドライバーは無事でもマシンがバラバラになってしまい、最悪の場合コースや観客にまで影響がでてしまう。

また、続出しているレース後の失格もマシン底部が規定以上に削れてしまったこと(最低地上高違反)がほとんどで、それ以外に燃料タンク、使用した燃料など内容は様々である。

特に大クラッシュと最低地上高違反がよろしくないとコラムには特出して書かれており、最高速を下げることでこれらは解決できるだろうと記されている。

クラッシュについては様々な要因が全て重なり合って起きてしまう。またドライブしているのも人間なのでヒューマンエラーは全く起きないとは限らない。
ドライバー同士の危険意識を向上させ、「ここでは攻めて良い」「この状況では一度待ってからオーバーテイクする」といった共通認識とまではいかないが、各個人の戦い方を改善することで良くなるだろう。

しかし、最低地上高違反はチーム側が良くないと私は感じる。
SNSでは「レース後に順位が変わるのは良くない」だとか「見えないところで裁定が変わるのはおかしい」というような意見が散見されるが、攻めに攻め過ぎたことによる代償ということをわかっていないと思う。

ドライバーはピットとコミュニケーションをとって、チームの指示を聞いてレースを展開する。
F1などでもトラックリミットに代表される違反した場合のペナルティーがある。
攻め過ぎるとその代償がついてくるのは必然なのだ。

ただ、これらのような理由で速度を下げるようなことはしてはならないと私は考える。

マシンの速度を下げたところで、クラッシュは起きるしその規模や確立はさして変わらない。
また、適切な指示や整備をすれば違反はまず出ない。

むしろ速度を下げたところで各メーカーの開発競争が衰えることにつながってしまう。
そうなればメーカーの撤退、カテゴリー縮小、カテゴリー消滅につながってしまう。

SNSではほかにも「GT3やGT4にマシンを変えればいい」という意見を見つけたが、そもそも別カテゴリーにGT3やGT4を使ったものはある。
ある種、「カテゴリーかぶり」が起こる。
それよりもマシンを変えるとなってしまうというなら、チームはどうすればいい?
メーカー主体の大きなチームは別にさして問題はない。チーム代表がハンコを押せば変えられる。
しかし、小さなチームはそのようなコロコロと簡単にマシンを変えられる資金力はない。
赤字の中、気力だけで走るチームもいるだろう。
そういったチームが置き去りにされてしまえば、よりつまらないカテゴリーになるだろう。

海外のドライバーやチーム関係者は、GT3レースや大型のGT系カテゴリーよりも突出したSUPERGTに魅力を感じて来日してくる。
マシンもその魅力の中の一つだ。

よりガラパゴスな状況にしてどうする。

隠された車検 ~より納得のいく結果とは~

毎戦行われている坂東正明 GTA代表の定例記者会見についてもマシン速度やレース終了後の裁定結果変更について回答している。

マシン速度に関してはSDGsの観点や坂東代表がいう「観客から見えない部分での開発は避けたい」という思いから早く走ることに少し抵抗感があるようだ。

確かに環境に配慮するという点は同意できる。
モータースポーツという多くの資源を一度に消費できてしまうスポーツだからこそ、少しでも開発やレースにかかるコストを抑えたい。

ただ、私は「観客から見えない開発」は是非やってもらいたいと感じる。
なぜなら「想像が大いに働くから」だ。
透明性のあるスポーツというのも良いがそれでは次の一手が簡単に見破れてしまってつまらない。
ゲームでも何でも、「切り札は最後までとっておくもの」だろう。
見えない戦いというのはファンの想像をかき立たせる。
これは考えるだけでも面白いし楽しいのだ。

レース後の裁定変更についてはこのように答えている。

レース中に上がってくるものは基本的にレース中に処理しているが、レースが終わった後で車検があり、その車検で発覚したモノに関してはそこからの処理になる。その前に表彰式などが行なわれ、お客さまがお帰りになられるというのが同時並行的に行なわれており、それまでに車検を行なって結果を確定させるというのは難しいのが現状だ。
第5戦での件(23号車が再車検で失格となった件)に関して言えば、レース後の車検で調べてみて初めて分かったことを、それからチームの関係者を呼んでチームの言い分を聞いてから裁定を下すことになる。そうした規定はFIAの方で定められている手続きになるので、それを変えるというのは難しい。

9/17更新 Car Watchより

実際に裁定の下し方についてSUPERGTのレギュレーションにもFIAのレギュレーションにも書かれているので、それに従わなければならないのはわかる。

また、来場者の退出が遅くなれば遅くなるほど近隣や交通への問題が出てしまうので速やかな退出が求められる。

しかし、見られてはいけない部分がそこまでないのにも関わらず車検が見られないようなタイミングで行うことについては反対だ。

毎度行われる暫定表彰式を行わずに、後日別途で確定した状態での表彰式ができるのならそれが望ましいと私は思う。
車検の状況も公開できる範囲で公開することで坂東代表が思う「透明性のある」裁定ができる。
これらは、決めた日時までにペナルティやそのほかのインシデントの確認に十分な検証時間が設けることが可能であり、チームからの抗議についてもそれが妥当な抗議かどうか深く考えることが可能である。

最終的な順位が確定するまで時間がかかったケースがあるが、これらも解決可能だ。

このようにすることで、チームもファンも満足いく裁定ができるのだ。

最後に

マシンの進化によって、速度もあがり重大なクラッシュにつながりやすくなっている昨今。
レギュレーションで頭を押さえるよりも、ドライバー同士の意思疎通や的確な指示・裁定をすることで簡単に解決できる。

大荒れの今シーズン。
シーズン終盤まで近づいていく中、落ち着きを見せてくれると嬉しい。

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