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敬意と歩み寄り
こんにちは!山野靖博です。
ときどき、仕事場で会う人や誰かに紹介していただいて会った方と話しているときに、お互いに「歌う」とか「芝居」という言葉を使って話しているのに全然話が噛み合わないことがあります。
なんでそうなるんだろうと原因を探ってみると、「歌う」とか「芝居をする」という言葉がさし示している中身がまったく違ったという事実が発覚することが多いです。
そういうことって、ありませんか?
たとえば単純化して話すと、僕は大学時代にオペラの勉強をしましたが、オペラ歌手たちの言う「歌う」は、R&B歌手たちの言う「歌う」とはまったく内容が違います。
オペラとR&Bだったらそもそもリズムの感じ方が違うし、音の伸ばし方や切り方も違う。良いとされている演奏の価値観もまったく違います。
だから、オペラ歌手とR&B歌手が出会って、お互いにそれぞれ「自分のやってきたことだけが正しい音楽である」と思い込んだまま会話をしようとすると、そもそもその会話自体が成立しなかったりするんですよね。二人とも音楽家なのに。
僕自身、オペラを勉強していたところからミュージカルの仕事をし始めて、そのキャリアの最初に出会った作品がアメリカのドゥーワップ系コーラスグループを主人公にした作品だったので、それまで勉強していた「音楽」と仕事場で求められる「音楽」のあまりのギャップに狼狽えた記憶が強く残ってます。
お芝居にしたって、江戸時代から連綿と続いてきた「歌舞伎」のお芝居のスタイルと、平田オリザさんが提唱した「現代口語劇」のお芝居のスタイルはまったく違います。他にも、大きな劇場で上演するミュージカルで求められるお芝居の質感と、小劇場で上演する別役実作品で求められるお芝居の質感はけっこう異なってくるよな、なんていう漠然とした感触もあります。
本当にすごい人たちは、オペラとR&Bにも、歌舞伎と現代口語劇にも、共通する「真理」みたいなものを探り当てていて、「どんな表現でもおんなじだよ」と核の部分での本質を語ってくれたりします。
僕もそんなふうになりたいなぁと思いつつも、本質が共通しているからって、オペラの歌い方をそのままR&Bの音楽に持ち込んだら、基本的には上手くいかないんですよね。本質は共通していたとしても、その外側にある音楽のスタイルが異なるからです。
僕は歌手で俳優だから、お芝居や音楽のことを思うけれど、もしかしたら世の中には
・ひと口に「経営」と言ってもその中身が指し示していることはまったく違う
とか
・ひと口に「子育て」と言ってもその中身が指し示していることはまったく違う
とか、似たような事象現象は各分野にあるのだと思います。
僕がいろんな人に会っていくなかでいつも難しいなぁと思うことは、おなじ内容のことを話していても中身の指し示しているものや価値観がまったく異なる人と出会ったときにどうするか、ということです。
たぶんいちばん良いのは、冷静にお互いの違いを確認しつつ歩み寄れる部分を探したり、共通点を協力して見つけていったり、そういう「尊敬を前提とした歩み寄り」を双方が持てることですよね。
でも、なかなか上手くいかないことも多い。
僕自身も、自分自身の気持ちのコントロールに失敗して、「こういう考え方が正しいでしょ!なんで全然ちがうことを言い出すのですかあなたは!何にもわかってないな!」みたいな感情が湧き上がってきちゃうことも度々ありました。
正直いえば、いまでも時々あります。特に、自分にとって思い入れが強い事柄が議題になった時なんかは。
でもそこで「こっちが正しいんだ!だからあなたが私のやり方に合わせるべきだ!」と言い張っても、何も生まれないんですよね。敵対心と不信感だけが生まれるだけです。
それよりも、自分と違うスタイルで物事を捉えている相手の存在を、きちんと「自分とは違うスタイルだ」と認識することが大事かなぁと思います。
たとえ違ったスタイルだとしても、それぞれの場所で経験とキャリアを積み重ねてきた方の考え方や行動からは必ず学ぶものがありますし、自分とは違う価値観に出会ったときこそ、自分の思考が凝り固まってないかを確認する良い機会だったりもします。
世界や時代はどんどんと変化をしていくし、自分が自分の価値観や知識を身につけた頃の常識と、今現在やちょっと先の未来の常識はぜんぜん違うものになっている可能性の方が断然に高いですものね。
僕は家でメンフクロウと一緒に暮らしていますが、同じ「フクロウ」でも、極寒のシベリアに住む種類もいれば、砂漠に穴を掘って暮らす種類もいて、当然この2羽を同じ環境で飼育することは難しいです。それぞれに最適な温度が違いますからね。
これを乱暴に「おんなじフクロウなんだから、仲良く同じ場所で過ごすのがいいのだ!」とひとまとめにしちゃうと上手くいかないのは、誰でも想像がつきますよね。
ただ、人間の思考や価値観というのは、敬意と歩み寄りの精神さえあれば、相互に影響を与え合ってその中身の質を変質させていくことはできるわけで。
自分の主張を声高に押し付けるというやり方だけじゃないコミュニケーションを身につけた方が、より多くの素晴らしい体験に出会えるチャンスが増えるような気がします。
というか、ようやく僕もそんなふうに考えられるようになってきました。笑
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