疑似人物図鑑 ドン・キホーテと魔女見習い(2024.06.05)
いつもの帰り道。片側3車線の国道沿いに大きなドン・キホーテがあって、その大きな壁の左側にドンペン君、右側にドンコちゃんが描かれている。まるで立ちはだかる金剛力士像のように、往来を行く人々を見下ろしている。
ドン・キホーテの前には横断歩道があって、私はそこで信号待ちをしていた。ぼーっと前を見ていると、その横断歩道を走って渡る女性がいる。
とても慌てている様子で、体が左に傾いている。野暮ったい長い髪を振り乱している。目が細く、鼻が低い。真っ黒な長いワンピースを着て、背中に背負った黒いリュックを揺らして走る。ワンピースからは飾り気のない足がしっかりと伸びていて、白い、少し汚れたようなスニーカーを履いている。
女性は一目散に走る。靴底の薄いスニーカーがペタペタと道路を叩く。西日が刺すように熱く眩しい。横断歩道の上に濃くて長い影が落ちている。
そんな光景が現世という別のレイヤーで今、私の目の前に現れている。魔女見習いの女性は横断歩道を渡る前から歩行者信号が点滅していたので、ゆっさゆっさとリュックを揺らして不格好に体を傾けて走って行った。その背後に巨大なドンペン君とドンコちゃん。
もうすぐ山影の向こうに隠れてしまう刹那、太陽は燃え尽きる寸前の線香花火のように、景色の全てを激しく照射する。魔女見習いは息を切らして横断歩道を渡り、ドンペン君とドンコちゃんは逆光に沈んだ。
信号が青に変わり私は車を進める。束の間現れた魔法世界は日没とともにゆっくりと消え去ってしまった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?