祭りの気分(2024.04.02)
仕事から帰ってくる際、扇山が野焼きされているのが見える。
扇山というのは別府の町の背後にある三角の広大な原っぱが特徴的な山で、毎年この時期に野焼きをするのを私は忘れていた。そしてその野焼きが狼煙となって、別府では「別府八湯温泉まつり」という別府で一番大きな祭りが始まる。
「もうそんな時期なんだなぁ」と思った。まだ私は別府市民の自覚が足りない。祭りの季節だからと、身が奮い立つくらいにならなければ。
家に帰ると、妻が職場のユニフォームのまま子供の水筒を洗っている。リビングの灯りも点けないまま。子供らはそれぞれに自由奔放に漫画を読んだり寝転がったりしている。
一方で、妻の目は殺気立っている。それもそのはず。妻は新しい職場のバーベキューに呼ばれており、私と入れ違いで出ていかねばならないのだ。妻は本来であれば、バーベキューなど速攻断るのだが、何せ今度の職場では立場があるので、そういうのも無碍に断る事が出来ない。
妻は事務的な事だけを言い渡して、風のように家を出て行った。そして私はダラダラしている子供たちを追い立てるように風呂へ促す。
そうして、そろそろ皆の風呂が終わろうかという頃、外から大きな破裂音が響いて、私は何事かと思った。しかしそれが断続的に続くので、それが花火であると思い至った。
急いで風呂場から出て、別府湾の方を見ると、花火は上がっていない。そうか、扇山の方かと思って、玄関から顔を覗かせてみるとやはりそうで、けっこう近い距離で花火が上がっている。そしてすぐ目の前にご近所さんが大勢集まっていて、花火を眺めている。私の家の前からは角度的にちょうどよく花火が見えるのだ。
顔を合わせて挨拶したものの、私はまだパンツ一丁に近い状態だったので、慌てて家の中に戻った。そして子供たちにクリームを塗ったり服を着させたりしてから、皆を連れ立って再び家の前に出た。
家の前は賑やかだった。私は靴を履かせるのが面倒だったので、次男を抱っこしていた。花火が上がるたびに間近にある次男の顔が少しだけ照らされて浮かびあがる。
長男と長女は隣に住む女の子と思いがけず遊ぶ事ができて、はしゃぎ回っている。もうすっかり日が落ちて暗い中、そこらじゅうの家から楽しげな声が聞こえてきて、花火がドーンドーンと上がる。野焼きの、焦げた匂いが風に乗って運ばれてくる。
私は家の前に集まった人たちにビールでも振舞いたいような気持になった。まだドライヤーもしていないので髪が少し冷たかったが、皆が笑っているのを見て、とても楽しい、祭りの気分になっていた。
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