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SOML ① Anita baker - Angel

 みなさんは、人生をかけて聴き込んでいくような曲に出会ったことはあるでしょうか。音楽鑑賞を趣味としていると、度々そのような曲に出会うことがあると思います。出会い方はまちまちで、街中で流れている曲であったり、初めはそこまで好きではなかった曲がいつのまにか、かけがえのない曲になっていくこともあります。出会い方はどうであれ、その人の人生を象徴する曲、つまり「Songs of my life」(SOML)です。

 アニタベイカーの「Angel」は間違いなくSOMLのひとつです。この曲との出会い方は全く覚えていません。しかし、イントロが流れた瞬間に姿勢を正し、目を瞑り、この曲の一音も逃さず聴こうとしたことを今でも覚えています。その時には既に人生のプレイリストに入れることが確定していました。この曲の好きなところをあげたらキリがありませんが、以下の3点に絞ってあげていきたいと思います。

①アニタベイカーの素晴らしいボーカル
②シンプルで強いループ
③生演奏ならではのグルーブ

①アニタベイカーの素晴らしいボーカル

 彼女が素晴らしいボーカリストであることは周知の事実だと思いますが、例に漏れずAngelではそのノビのある力強い歌声が遺憾なく発揮されています。ファルセットのような歌い方では、綺麗で透き通るような歌声が出せる一方、声が細々してしまいます。それは録音状況やミキシングの兼ね合いもあると思いますが、彼女の場合は裏声を使った多くの歌唱法の中でもその力強さ、揺らぎ方を損ないません。
 また、彼女のアレンジやフレージングも彼女の大きな特徴の一つであると思います。自由で開放的なフレージングによって楽曲に命を吹き込み、奥行きが出ることで、それぞれの曲に個性が生まれています。これを便宜上「生感」とさせてください。
 では、Angelではどうでしょうか。ここまで彼女のボーカルを力説しておいてなんですが、この曲の彼女は控えめで、特有の大胆なアレンジやフレージングはあまりみられません。全体的にしっとりと歌い上げており、彼女の良さがあまりでていないように感じる方も多いでしょう。しかし、ここが私の好きなポイントです。
 彼女のボーカルの特徴を、「生感」とさせていただきましたが、この「生感」も行き過ぎると通好みな、聴きづらいような質感になっていくような曲になります。日本でも、玉置浩二のライブも苦手な人とかいらっしゃることと同じです。
 この扱いの難しい「生感」ですが、結局これもバランスなので人によって、ときによって、場合によって、あうあわないがあります。この曲の抑えられたボーカルからは、朝のカーテンから漏れ出る朝日のような、溢れるパワーを感じるんです。抑えられているからこそより強く躍動感を味わうことができる、唯一無二の曲なんです。

②シンプルで強いループ
 次に、トラックに注目してみましょう。ブラックミュージックやダンス系ジャンルはシンプルな構成を繰り返すことで特有のグルーブを生み出しています。例にもれず、Angelもシンプルな構成です。というか、シンプルすぎます。この曲の演奏で印象に残るのはとてもメロウなエレキギターの音のみかもしれません。しかし、これもまた私の好きなポイントなのです。
 アニタベイカーの楽曲の多くはジャズ・フュージョンがベースとなったトラックですが、どちらかというとポップで明るいものや落ち着いたものでも骨太なドラムスやバックコーラスがあります。Angelのしっとりさと同じような曲はあまりありません。
 余計な味付けがされていないトラックによって、彼女の比較的落ち着いたボーカルの機敏をとらえることができます。彼女の抑えられたボーカルの中でもふとした瞬間に出る「生感」をより感じることができるのです。演奏の「生感」が抑えられているのでボーカルにより集中できる、みたいな感じです。
 しかし、この地味なトラックの質が低いのかというと全くそうではありません。時代性を感じるほの暗い雰囲気、どっしりとアニタベイカーを支える太くて強いループ、余計な味付けがされていないシンプルさのおかげでこの曲ならではの濃縮されたグルーブを感じることができます。派手さはないですが傑作です。

③生演奏主体ならではのグルーブ
 アニタ・ベイカーは打ち込みではなく生演奏主体で録音しています(ネットで軽く見た程度なので間違っていたらすいません)。淡々としたトラックの中に息づく生演奏ならではの「生感」により彼女のボーカルと親和性がとれ、この曲の一体感につながっています。いわば二つの間をつなぐ糊なわけです。

 いかがでしたか。長々と語ってきましたが私が勝手に感じ取ったものを勝手に表現しているので、リアルタイムで彼女の曲を聴いていた方やオールドR&B/ソウルファンからは怒られてしまうかもしれません。ですが、私のこの曲に対する愛情や情熱を少しでも感じ取っていただき、一人でもAngelを聞いていただく方が増えるのであれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

Yamanba

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