髪を切った日
髪を切った。それはもうばっさりと。
隠れていた耳は上から下まで観察できるほどはっきりと姿を現し、切りっぱなしで特に手入れもされていなかった眉毛も隠れる場所を奪われた。足下にはいくつもの黒い小高い山ができた。この山がついさっきまで私であったと思うと不思議なものである。さっきまで私とつながって存在していたものが、今はもう別の何かになってしまった。小高い山はほうきで払われ別の誰かが作った山達とどこかへ片付けられてしまった。残ったわずかな髪の毛達は心許なさそうに頭の上で肩を寄せ合っている。
私のほうはというと、鉛を落としたような頭の軽さに感動していた。ただ空気だけをまとい、身体ごとふわりと浮いてしまいそうだ。この新しい私でこれからどこにでかけようか。