
フィリピン法人設立10周年を迎えて
日本とフィリピンでシステム開発(オフショア開発)をしている株式会社YNSで代表をしております。
2024年11月に、フィリピン法人が10周年を迎えました。
10年を振り返ると楽な道のりではありませんでした。さまざまな経験を経てようやく節目を迎えることができたというのが正直な感想です。
この機会に、社内外の出来事を振り返ってみたいと思います。
フィリピンの変化
人口やマクロ経済、体感値など
この10年で、フィリピンの一人当たりGDPは約2割増加し、人口は1500万人程度増えました。
人口は今後10年以内には間違いなく日本を上回るでしょう。
物価は、日本以上に上がっています。自身が買ったり利用したりするものは、体感で2~4割ほど値上がりしました。
給与は上がってはいるものの、体感でそこまでは上がっていない印象です。
フィリピンで日本と同レベルの高いサービスを受けようとすると、円安の影響もあり価格差がほとんどなくなってきた印象です。質の低いサービスであれば、継続して安いものは安い、という感じです。
インフラ面
一番身近でかつ進歩したと思うのは、光回線インターネットや4G/5Gの普及です。まともな回線を契約すれば、日本と同様の品質の速度が出るようになりました。
10年前はDSL回線が主流で、遅いし不安定でした。出先でスマホを使うと大体3Gで、WEBサイトを見るのも遅くてストレスでした。
移動手段はGrabをはじめさまざまなライドシェアが普及し、各段に便利になりました。
10年前は何もなく、多くの外国人はタクシーかマイカーだったはずです。
また、マニラではそれなりにWork From Home(在宅勤務)が普及してきた影響か、コロナ禍が明けてしばらく経つ今でも、以前ほど渋滞しなくなっています。
国や地域によっては電気、停電の頻度が気になるところですが、マニラではそこまで停電で困るという記憶はなかったです。
マニラに電気を配給しているMeralco社では、供給不足による停電は年間1.03回、自然災害による年間の停電数は0.14回とされているようです。
ITエンジニアやIT企業
IT系学部を卒業するITエンジニアは増えてきていて、かつレベルも高くなっているように思います。
IT系の学部卒は、2010年時点では年間約5万人だったものが最新のデータでは9~10万人程度まで増えているようです。
一方、新卒で当社のようなIT企業にプログラマとして採用されるのはそれなりにハードルが高いようで、新卒生は就職活動に必死です。
IT企業の進出も増えていると思いますが、大きく成熟している組織は多くない気がします。
理由の1つとして、優秀なフィリピン人はある程度の経験を積むと海外に出てしまう人が多く、国内での人材確保が難しいからです(もちろん国内に優秀な人が全くいないことはないです。あくまで確率の問題)。
フィリピン法人10年の歩み
10年前、2人のフィリピン人を採用したところから始まった当社。今では70名超の世帯になっています。
当時から現在までの社内体制を振り返ってみます。
創業~2年程度(社員数20人以下)
創業当時、フィリピン人従業員は新卒の開発者が1名と、元英会話講師の女性1名を採用。開発者はプログラミングを担当し、女性は営業やその他のサポート業務を担う。
加えて、フィリピン在中の日本人5人を発起人とし、法人設立。
その後、若いフィリピン人の開発者を増やしていく段階に。
設計やレビューは基本日本人が行う体制。
創業から3~4年(社員数20~40人)
フィリピン人のQAチームを設立。できるだけ日本人の負担を減らすよう、テスト方法の指導を行う。
一部のフィリピンメンバーが開発スキルを身につけてきたため、数名をリーダーに登用し、その下に他のメンバーを配置してプロジェクトを進める体制を整備。
マネジメントは引き続き日本人が担当。
創業から5~6年、コロナ禍前まで(社員数40~50人)
バックオフィスにOD(組織開発)担当を採用し、フィリピン人向けのソフトスキル教育を開始。
開発者の職位を定義し、ランク付けして評価するなど、評価制度を整備した。
創業から7~8年(社員数50~70人)
新型コロナを機に、2020年3月中旬からしばらくは強制的にフルリモートワークになる。
同時期、3つに分かれていた開発チームを正式に部署化し、評価業務をフィリピン側に移譲する体制を整える。
創業時に採用したフィリピン人社員を、初のマネージャーに抜擢した。
創業から9~10年(社員数70~80人)
評価をできるだけ数値化するよう、評価指標を導入した。
ミドル~シニア開発者から選抜チームを編成し、リーダーシップ教育やマネジメントに関するナレッジ・シェアリングを開始。
苦労したこと
品質管理
カルチャーギャップから来る品質への認識の違いは、永遠の課題です。 時間をかけて教育したり、バグの発生率を可視化したり、勉強会を行ったりして改善しています。
離職率の低減
当社の離職率は、同業他社と比べて相対的に低い水準を維持しています。低ければ良いとは限りませんが、我々のようなシステム開発会社では、離職率が高いと致命的です。
・日本法人以上に各種イベントを定期開催する
・福利厚生を可能な限り増やす
・中間層以上の待遇を厚くする
などを通じて、低い離職率を維持しています。
一方、解決できない課題として欧米企業との賃金格差があります。
日本を主なマーケットとしている当社では、日比との給与差が縮まる一方で、日本と他の先進国との物価差や単価が広がっていきます。
結果、フィリピン法人の給与を平均よりは高めに設定しているものの、欧米企業と比較すると優位性に限界があるのが現状です。
それでも安易な転職を防ぐために、従業員のエンゲージメントを高める努力を続けています。
フィリピンオフショアの認知の低さ
日本では、オフショア開発=ベトナムと言ってもいいくらいベトナムのイメージが強く、フィリピンのイメージは弱いです。
我々を知らないお客様からしたら、わざわざフィリピンオフショアを選択する理由が見出せず、営業面で苦労しています。
今後の展望
先述した価格差を埋めるため、またフィリピンオフショアならではの良さを活かすためにも、日本以外の売上比率を上げるべく活動していきたいと考えています。
営業窓口を行うのは基本フィリピン人ですが、日本側にも英語な担当なスタッフが多数在籍しているため、それらを組み合わせることで、高品質で相対的に安価なサービスが提供できると考えています。
関連記事
いいなと思ったら応援しよう!
