学習の4段階の「意識的有能」は、油断が行動変容の定着の大敵になる
意識的有能の定義
意識的有能とは、「ある程度できるようになってきたけど、まだ習慣化されておらず、それをおこなうためにはある程度の集中力が必要な状態」を指します。知識やスキルはある程度身に付けているものの、完全に自然におこなえるわけではありません。そのため、意識的に集中しないとミスが発生する可能性があります。具体的には、動作を繰り返し練習し、注意を払いながら遂行することが求められます。この段階は、学習や練習・訓練を通じて徐々に無意識的有能に移行するための重要なプロセスで、その前段階です。
自転車に乗れた!
補助輪なしで自転車に乗れるようになった子供は、自分でバランスを取りながらペダルを漕ぎ進むことができる状態です。しかし、この段階では、まだ完全に安心して乗れるわけではありません。子供は転ばないように、バランスを取るハンドル操作に意識を集中させる必要があります。ちょっとした不注意や油断が転倒につながる可能性があるため、慎重に操作を続けなければなりません。このように、意識的有能の段階では、自転車に乗ること自体はできるようになったものの、常に注意(意識)を払い続けなければなりません。つまり、意識をすれば行動できるが、意識をしないと行動できない状態です。
意識的有能の特徴
パフォーマンスの発揮
意識的有能の段階では、意識をすれば目的・目標としていたパフォーマンスが発揮されます。例えば、新入社員が初めての仕事を任される際、手順書やマニュアルを見ながら作業を進めることで、適切な手順を踏んで業務を遂行できます。この段階では、細かい部分にまで注意を払い、確実に作業をこなすことが求められます。
次の目標
意識的有能の次の目標は、意識をしなくてもスムーズに作業を遂行できる状態、すなわち無意識的有能への移行です。この段階まで成長すると、特に意識せずとも行動できるようになって、求められるパフォーマンスを発揮できるようになります。例えば、自転車を乗る際にバランスを取ることやペダルを漕ぐことを意識せず自然に乗車できるようになると、周囲の景色を楽しむ余裕が生まれます。仕事においても、手順を覚えてスムーズに作業を進められるようになると、より複雑な業務にも対応できるようになります。
注意点
意識的有能の段階では、以下の注意点に目を向けておくことで、成長の過程の問題の発生を事前に抑止・防止することにつながります。
油断のリスク
慣れてきた時の「油断」により、怪我やミスにつながることがあります。例えば、自転車に乗れるようになっただけでは、道路上の障害物や急な車の動きに対応できないことがあります。これは、まだ十分な経験が積み重ねられていないからです。同様に、仕事においても、基本的な手順を覚えただけで安心せず、常に注意を払い続けることが重要です。油断すると、予想外のトラブルやミスが発生しやすくなります。このようなトラブルやミスは、自信を喪失させ、せっかくできるようになった行動を失わせる可能性も潜んでいます。
モチベーションの低下
ある程度できるようになると、満足や過信が生じたり、本人は意欲があるのに関係者の判断で学習機会を止めてしまったりすると、せっかくの成長の機会を逃してしまいます。どちらの場合も、モチベーションが低下してしまい、実際の実力や成長を確認しづらくなります。さらに、学習機会を失うと知識やスキルの深化が妨げられ、新たな挑戦や創造性の発揮も難しくなります。これにより、長期的なキャリアの発展や自己実現の可能性が制限されるリスクもあります。
ヒヤリ・ハットの重要性
この2つの注意点は、ヒヤリ・ハットと呼ばれる日常の小さな失敗や危険を振り返るプロセスで理解できると思います。ヒヤリ・ハットとは、重大な事故や問題が起こる前の、軽微なミスや危険の兆候を指します。これらの小さな出来事を見逃さずに振り返ることで、自分の油断やモチベーションの低下に気づき、改善する機会を得ることができます。
意識的有能や無意識的有能の段階では、このヒヤリ・ハットのプロセスが特に重要です。例えば、自転車に乗る場合、小さなバランスの崩れや予期せぬ障害物の発見をヒヤリ・ハットとして捉え、次回はより注意深く乗ることで大きな事故を防ぐことができます。仕事においても、ちょっとしたミスや効率の低下に早期に気づき、適切な対策を講じることで、業務全体の品質を高めることができます。
行動変容と成長の促進
このように、意識的有能の段階から無意識的有能の段階に移行していくためには、当たり前のように思えるかもしれませんが、現状に満足することなく、もっと先に進んでいきたいという成長志向が重要です。このような成長志向は、個人のモチベーションを高め、継続的な学習とスキル向上を促進します。また、意識的有能の段階でも、モチベーションの低下やヒヤリ・ハットを防ぐために、コーチングやメンタリングなどのサポートが有効です。これらのサポートにより、自分の進捗を客観的に見つめ直し、行動変容に向けた改善点を明確にすることができます。
継続的なフィードバックと振り返り
行動変容において重要なのは、フィードバックループの活用です。個人が意識的有能の段階にいる間、フィードバックを受け取り、自己評価をおこなうことで、次の行動を最適化します。例えば、コーチングセッションでは、具体的な改善点や成功例を共有し、次のステップに向けた目標を設定することで、自分の成長を実感し、モチベーションを維持しながらパフォーマンスの向上を目指します。
また、振り返りのプロセスも重要です。定期的に自身のパフォーマンスを振り返り、何がうまくいったのか、どこに改善の余地があるのかを考えることで、次の行動を計画する助けとなります。例えば、プロジェクトの終了後の振り返りで、各メンバーが自分の役割とパフォーマンスについてフィードバックを共有し、次のプロジェクトに向けた改善策を検討します。
このように、意識的有能の段階を乗り越え、無意識的有能への移行を目指すためには、継続的なフィードバックと振り返りが不可欠です。意識的有能の段階では、パフォーマンスを発揮するために意識を集中させることが求められますが、継続的なフィードバックと振り返りを通じた学習と練習・訓練によって、行動が習慣化されて求められるパフォーマンスを発揮できるようになります。このプロセスを経て、行動変容が促され、最終的には無意識的有能の段階に到達していきます。