見出し画像

契約

「……まさか天使サマのお迎えか?」
皮肉交じりに言う。
そうでなきゃ、死にかけてる俺が見てる幻覚か。
「否。」
「じゃあなんだ?ガキンチョ、お前ソシャゲやりすぎじゃねぇの?」
深夜アニメとかにありがちな変な台詞言いやがって。
「否。我は……そうさな。住処と、名と、力を奪われた者。今は、それだけしか言えぬ。」
……あ?
「なんだそりゃ。」
「我が姿、汝以外には見えておらぬ。そも、汝に我が声が届いていること自体、我の想定外だ。」
じゃあなんだ。
こいつ、一方的に俺のことみてたってことか?
「だったらなんで見てたんだよ。なぁ、おい。俺は、見世物じゃ」
「……汝は」
顔を上げて、ガキの顔を見た。
泣きそうな目だ、と思った。
「勝てると、思ったのか?」
「勝つも負けるもあるもんか。こりゃ、あれだ。復讐ですらない八つ当たりか、ただの自暴自棄。で、死に損ないに何の用だ?」
視界もぼやけてきやがったのに、相変わらずこいつだけははっきり見える。
人間じゃねぇってのは確からしい。
ああ、妙に慣れた感じがする。
「この手を取れ。さすればその命、繋ぎ止めるぐらいはできよう。」
「勝手にしろ。」
「否、否、否。汝から手を伸ばさぬ限り、汝には届かぬ。」
しゃがんだそいつの声が震えていた。
困るよ、マジで。
「はー……ったく。後で手ェ洗えよ、ガキンチョ。」
仕方がないので血だらけの手を向けた。
「――ここに契約は成立した。」
霞んだ視界が戻ってきた。
そして、一つのことを思い出した。

「泣いてる子には優しくね。例えそれが、人間じゃなくとも。」
そう言って困ったように笑う、親父の顔。

いいなと思ったら応援しよう!