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回顧録-5

「・・・んだよ、それ。」
「ま、信じてくれなくたって良いけどさ。自分の終わりが『見え』ちまってるのさ、あたしには。」
そこで気付いた。
俺は彼女と、まともに目が合ったことがない。
「続けるよ。さっき科学者なんて言ったけど、あんたにゃわかんないだろ?まぁ、いろんな難しいこと考えてる変わりもんどもだって思ってりゃ良い。あたしは星の外の存在と接触した、ってことで、そいつらにあれこれ調べられたのさ。」
そんな俺を置いてけぼりにして、彼女は言葉を続ける。
「本当に色々やらされたよ。ぺしゃんこに潰されたことだってあった。ありゃ痛いね。」
「・・・・・・だったら死なねぇんじゃねぇのか?」
「決められた『終わり』までは何があっても死なない、が、正解だよ。ま、あの科学者どもはそれに気付けなかったけど。」
そうだ。
一つ訊きたいことがあったことを思い出す。

「今までの言葉がマジだったとしたら、どうして今、この世界はこんなんなんだ?」
そう、そうだ。
彼女の言う事が本当だとしたら、かつての文明は一体どうなったと。
「『天使』に滅ぼされたのさ。『我らの目を潰すような野蛮な文明など滅んでしまえ』ってね。」
火のついたままのタバコを放り投げて、彼女は笑った。
「皮肉なもんだよ。あたしがどうなっちまったかを調べてたあの科学者どものせいで文明は消えちまった。」

「今いる人間はみんな、『天使』に適合するやつとその子どもばかりだよ。――無論、あんたもね。」

目が、あった。

極彩色の目に射貫かれた俺は。

その日食べた昼飯を全部ぶちまける羽目になった。

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