帰る道
「下草火災注意」そんな注意を促す看板をよそに
本日も律動よく一定間隔で抑揚をつける。
「え〜おはようございます。」
「今日もね朝から寒い日が続きますが、我々、環境に重んじてね、精進していこうと思います。」
「では!構えて!今日も1日安全に過ごそう!よし!」
朝礼が終わると、皆、四方八方に列を成して散っていく。散るというよりも、定位置に倣うの方が正しい。
「先輩、最近不景気じゃないですか、、ここ大丈夫なんですか?」
「何言ってんだよ、貰えるもん貰っといてよ!第一、不景気なのは、ここだけじゃねぇんだ!」
そう先輩は言うと、おもむろに大きく飛ぶように行っていった。
自分も後追いするが、さすがは先輩だ。この業界きっての凄腕。
すぐさま組織の利益を掻っ攫った。
見て学べ!失敗はするな!食ったら動けっ!
「風通しの良い職場」という標榜とは裏腹にスパルタンじみた職場だった。
僕は、入りたて初頭では声張る先輩を憧憬と少しの侮蔑を交えて見ていて、追い付くべく奮闘していたが、今となっては、、。
付いていくのが精一杯になってった。
どう足掻いても届かない。
なんていうか、この業界に入った瞬間に無条件で、火事場に放り込まれ、やっと抜け出せたと思えば、とっくの前にいた先輩は、二重にも三重にも経験を積んでいて、果たしてあの火事場は必要だったのかと、ゲロをする始末であった。
今日も利益を出せれなかった。
僕は、泣けない。
なぜなら、取れなかったから、、。
次の瞬間
目の前に黒い断崖が現れた。そして、先輩は、、
気づいたら逃げていた。
思考を鑑みるよりも先に、本能的に、、
はぁ、はぁ、
先輩が、、先輩が、、
僕は泣いた、大きく、判然としないまま、泣いた。
ゲロ〜ゲロ〜ゲロ〜ゲロ〜
翠色の体を纏わせて。