ペヨトル興亡史2−1


母親と財産を弟に無断でもっていかれ、アクセス不能にされて、鬱になったペヨトル工房の代表・今野裕一が引退、沈黙してから二ヶ月がたつ。
ペヨトル工房は整理会社になってはいないが、2020年12月31日で、パラボリカ・ビスの活動を終えている。
2002年に一度、短い中断をして、すぐに夜想を大判にして再開、パラボリカ・ビスというオルタナティブのギャラリーを開廊してまた勢力的に活動をしはじめた。その間、17年くらいだろうか。500以上の企画展を開いている。驚異的だ。全部企画なのだから。そのビスが建物ごと終りを告げた。今は解体中になっている。
1978年から42年走り続けたペヨトル工房の事実上の活動が終了した。
鬱にかかった今野裕一は大丈夫だろうか。

これが彼の2020年12月31日の日記。

2020年12月31日
弟が連絡を遮断して母親と家の財産全部を手にしたままもう1年半がたつ。
1年ほどまえから弁護士を使って、裁判所に成年後見人申請(この方法しかないと多くの弁護士が言っている)をしているが、弟の巧みで一歩も進まない。
鬱の状態がだいぶ酷くなってきた。
精神科医の勧めにしたがって今日で仕事は辞。10月頃から収束に向かって仕事をほとんどしていなかったけれど、別に快方に向かう気配もない。
今日、パラボリカ・ビスの建物の鍵を不動産屋に渡してすべてが終了した。
先行きの感じはまるでない。毎日、二度三度、母親のこと、弟がしていることを思い、脳が深海の中に沈んでいく。それが鬱積していく。

死にたいと思うことも一度や二度ではない。

精神科医は、現在の鬱に対して、原因から避ける、逃げるということを勧めた。年なんだから現役を引退しろと。そして現役を退いたが、鬱が軽くなるということはない。仕事しないで考えているとますます漆黒の深海に墜ちていく。

書いているうちに、また、さらに気持ちが沈んできた。
静かに目をつむって、年を終えよう。何も良いことのない1年がまた終わろうとしてる。


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心配で電話をしてみた。
意外にも電話に彼は出た。
⚪「元気?」
⚫「元気な分けないでしょう。」
⚪「進展は?」
⚫「ないよ。弟からもアクセスはない。母親が最初に病院に入った時以来、今日に至るまで無視されっぱなし。所謂スルーってやつ。病院のソーシャルケアを通じても、共同経営者を通じて、会って話をしてくれということをつたえてもスルー。近々、しかるべき時にとか、受験の時期が終わったら会いますという空返事だけが伝わってきた。まったく応じるつもりはない。」
⚪「母親と金を盗られたのも辛いけど……」
⚫「そう、プラス弟の自分に対するやり方、それも巧みでつけ入る隙がないやり方に対して……かな。弁護士も裁判所もまったく手がでない。というかださないやり方をしている。そこにまんまと嵌まって身動きとれなくなって、揚げ句、自分の活動停止にまでなってしまったということかな。」
⚪「どんなやり方をしているの弟さんは。」
⚫「さんなんてつけなくて良いよ。最近、弟が裁判所に対して応じた回答のなかに、司法書士とともに母親の財産を処分しようとしているという話がでてきた。自分はずっと、こんなに酷いことをされていて、それでも弟は良い人間で、悪意は持ち合わせていないと思っていた。彼は本当に正義感があって、朗らかで、人に愛される印象をもっていた。今もそうなんだろうと思う。でもそうじゃなかった。だから、入院する何年か前に、通帳と現金を全部、もって行ってしまって、母親に毎月3万円だけのお金だけを渡す……あ、全部、母親の金だよ。そんなときも、何回も、母親に頼まれて抗議はしたけど、取り合わなかったときに、そのままにしてきた。いやぁ、それでも母親のことを弟なりに考えているのだろうと。
そうでなかったということを最近、知って、また沈んでしまった。弟は今やっていることに対して、一切理由も、行為に関しても言わない。ただただ、僕が家を棄てた人間だということを印象づける嘘を言うだけだ。」
⚪いや、聞いているのは弟さんがどんなやり方をしているのかということで……
⚫時系列で日記を見れば分かると思う。でも、信じられないかもしれないが、あくまでも弟を信頼していて、その時、起きていることで、母親が困るだろうことについて、最優先で問題にしていたということだから。弟が司法書士まで使って、今の、法律施行の抜け道を使って、盗りにきていたのだとすると、見解はちょっと違ってくる。でもまぁ大体は分かると思うよ。
⚪読んで、質問するのは……。
⚫良いよ。まとめれば、社会的地位があってまじめそうな人が、一見、不良に見える親族を合法的に相続からオミットできるマニュアルになると思うから。
⚪ん?分った。俺に全部、話すまで死ぬなよ。ついでにペヨトル興亡2を作ってやるからな。


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