Kindle本【中山間地域を維持するための処方箋】の「はじめに」を掲載
2021年秋に出版したKindle本【中山間地域を維持するための処方箋】。最近売れ行きが芳しくないので、同書の「はじめに」の部分を転載します。
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ーはじめに
戦後の日本人は、山から撤退する行動を取り続けてきた。
中山間地域では少子高齢化が止まらず、学校の統廃合は進み、地域医療や公共交通機関の存続も危ぶまれる。「住み続けられるまちづくり」なんていう言葉はただ虚しく漂う。一方で、東京をはじめとする都市部には人口が集中している。この流れを止めるのはそう簡単ではない。国土利用政策の失敗や反省の言葉は政治家の口から聞こえてもこない。
だが、絶望の中でもかすかに光る希望はある。それは、失敗続きの林業政策には従わず、自ら考えながら山づくりをしようとする人々の存在だ。
彼らは時に自腹を切りながら、時に地域おこし協力隊になるなどして、チェーンソーやバックホーといった機器の操作を学び、山から木々を切り出す。過疎高齢化が進んだ山間地域にとって、彼らのような存在はいてくれるだけで希望である。
ただ、林業は全産業のなかでも最も危険とされる。その上、低賃金だ。これでは優秀な人材を確保するのは至難の業である。生活費を稼ぎ出すには相当な技術が必要になるため、人材育成には5年、10年、それ以上のスパンで取り組まなければならない。
2019年度には、森林整備や林業の担い手育成などに幅広く使える「森林環境譲与税」の全国の自治体への配分が始まった。この税金を財源として、低賃金で働く林業従事者に「斜面危険労働手当」として支給できないものかと思う。この税金は、各自治体の首長の裁量次第でその使途の幅が決まるため、行政トップの理解と決断が必要となる。
なぜ、日本の林業政策は失敗を続けてきたのか。それは、政策の根本を成す山づくりの「思想」が間違っているからである。その結果、日本の山は荒れ、山間地域は衰退を続けてきた。だからこそ、これからの山づくりを担う林業従事者には、間違った「思想」に囚われない優秀な人材が必要になる。ある種の革命だ。
筆者は2019年9月末に当時勤めていた高知新聞社を休職し、高知県西部の山間地域に移住して木を切り、運び出す研修を1年3ヶ月ほど続けた。その後、結局退職し、故郷の神奈川県にUターン。過疎高齢化が深刻な県西部の山北町の山間部で地域住民による山づくりを手伝っている。
「元記者」という経歴を持つ人間の中で、これほど木を切り倒して搬出した人はそう多くないという密かな自負がある。山の仕事は厳しく、泥臭く、そして目立たない。しかし、かつての日本人が国土のそこかしこにスギやヒノキを植えて形成した人工林の適切な管理は誰かが続けていかなければならない。一度人間が手を加えた人工林は、ほったらかしにすれば自然に還るわけではなく、継続的な管理が必要となる。この課題は、盲目的な森林政策を続けた過去の日本人が残した宿題だ。今を生きる我々がその尻ぬぐいをせねばなるまい。
「植えたら植えっぱなし」というモラルの低い過去の日本人の思想をどこかで断ち切らなければならない。その手がかりを本書で示せたらと思う。