不合理な「山北町ふるさと納税業務契約」/開示文書から読み解くその背景/新議員は真相に迫れるか
筆者は1月24日、山北町と「ヤマキタ森林ベンチャー」が締結した「山北町ふるさと納税包括業務」に関する契約について住民監査請求を実施した。請求を受けた町監査委員は3月22日、「本件契約については合理的ではない判断があったと言わざるを得ない」としながらも、請求自体は「棄却」とした。
その理由として、住民監査請求は制度上「たとえ違法・不当な行為または怠る事実があったとしても、それが市に損害をもたらすと認められない場合は対象にはならない」(最高裁判決)とされているためらしい。
ただ、監査委員は今回の契約について「法令、規則等において定められた契約における競争性、公正性、透明性等を担保するための規制が順守されていないおそれがあることが認められた」と指摘した上で、「町長は本件契約について速やかに適正な契約手続きとなるよう改善を求める」と付言した。
一体なぜ、湯川裕司町長は「規制が順守されていない」契約を先頭に立って推し進めたのか。
情報開示請求などで得られた資料を紐解きながら、その背景を見ていこう。
奇しくも、山北町議会議員選挙まであと1ヶ月。新議員たちはこの契約締結の真相に迫れるかー。(「監査結果」はこちら)
「LINEが届いた」
「先日、(ベンチャー側・黒塗り)よりLINEが届いた」
令和3年6月28日付の開示文書は、町長のそんな文言から始まる。
同社のHPによると、同社設立は「令和3年8月27日」。
つまり湯川町長は、同社の設立前から同社側の人間と個人的なやり取りをし、同社との契約締結を前提とするように「山北町のふるさと応援寄附金の包括業務を受託するためには、町内に事業所所在地を置く必要がある」(上掲文書)などと同社側の意向を商工観光課の職員に伝えて便宜を図り、町内にある旧高松分校を同社の事業所として使用させても問題がないかを確認している。
「契約早めに」
同社設立直後の同年8月30日付の文書では、ふるさと納税新規ポータルサイト(チョイス、ふるなび)の開設時期について課長から「1-2か月かかる」などとの説明を受けた町長は「できるだけ早くやれる事はやってしまいたい。どういった方法があるかわからないが、会社も立ち上がっているので、契約関係も早めに行いたいところである。もしわからない所があれば、期間を1年と短くしておいて来年中身を精査すればいい」などと職員に指示し、同社との契約締結を急がせている。
税収減の懸念、意に介さず
また、同年10月1日付の文書では、商工観光課の職員が同社から提示されている委託料率では町が得られる税収が「かなりの額が減額されるシミュレーションとなっている」ことの懸念を伝えている。それにもかかわらず町長は「新たなポータルサイトを活用することで寄附金総額が増えることになるので、特段問題ないと考えている」として意に介していない。
ちなみに、今回の契約との因果関係は不明ではあるが令和2年度の山北町のふるさと納税寄付額は8億円余りだったのに対して、令和3年度は約7億円で、約1億円減少している。
「CFO」とは??
そして同年11月24日、ついに契約が結ばれる。契約内容を見てみよう。
上掲した業務委託契約書の「総則」には、「本業務委託計画書はCFO事業(山北町が保有する森林を活用した企画、集客、PR業務)を主軸とし、山北町とヤマキタ森林ベンチャー株式会社が連携し事業を行う」と記されている。
ここに出てくる「CFO」とは、「Children Forest Officer」の略で、町長が「湯川裕司」個人として令和4年2月4日に商標登録した商標である。
つまりこの契約は、ふるさと納税で得られた寄附金の一部を活用し、同社が「湯川裕司」個人の登録商標に基づいて活動するという、町行政の〝私物化〟とも映る契約内容になっている。
「合理的ではない契約」
さらに今回の契約締結までの流れは、「競争入札」や複数業者から見積りを取った上で業者を選定する「随意契約」ではなく、同社のみを契約対象にした「1社随意契約」という手法が取られている。
この契約方法について監査委員は「1社随意契約することが妥当であるとする理由は見出し難く、その判断は合理的ではない」と認定している。(「監査結果」p,10 (オ)参照)
にもかかわらず、監査委員は請求自体を「棄却」とした。
それは「具体的な損害」を見出すことができなかったためのようだ。
「監査結果」の10ページには、「請求人は、本件随意契約が不当であり、この不当な契約によって、町がふるさと納税で得られるはずだった税収の一部が同社に対して不正に支出されており、町に損害が発生していると主張している」とした上で、「森林ベンチャーは中間事業者として、返礼品等の見栄えの良い写真の撮影、名前・コメント等を入れた写真のポータルサイトへの登録、契約前までポータルサイトへ登録していなかった返礼品等を登録する等、仕様書にある業務は適切に履行しており、委託金額すべてが不正に支出されているとは言い難く、これまでに認定したとおり、本件契約については1社随意契約ではなく、競争性を担保すべきであったことから、適正な契約手続きを経て、価格や事業内容等の競争性が発揮された場合の契約額等との間に差額があることによる損害について判断する」とし、筆者側の主張を退けた。
監査委員の主張をかみ砕くと、今回の契約が競争性のある「適正な契約手続き」を経ていれば、複数の事業者との比較ができ、その差額が分かれば損害について判断できる、というものである。
ただ現実には「適正な契約手続き」ではなく、「合理的ではない」1社随意契約が行われたのであるから、「本件契約が価格や事業内容等の競争性が発揮された場合の適正な委託料等を超えるという事実を確認することはできず、具体的な損害が町に発生しているとは認めることはできない」(「監査結果」p,10(エ)参照)と結論づけたのだった。
新議員は、どうする?
損害の有無については、判断が分かれるところだろう。これが住民監査請求の限界なのかもしれない。
しかしなぜ、町長は同社設立前から同社側の人間と個人的なやり取りを交わし、「合理的ではない判断」によって契約を結ぶに至ったのか、疑問は残る。
来月4月23日には山北町議会議員選挙が予定されている。
新議員たちはこの監査結果に誠実に向き合うのか、はたまた、見て見ぬふりをするのか。
筆者としては「百条委員会」でも設置して徹底的に追及してみては?と提案しておこう。