初恋とレモンサワー
「好きでした」...ただそれだけ伝えたかった。
先日、中学校時代の友人が集まっての忘年会に参加した。
当日は雨。年末の浮き足立った雰囲気を沈めるような冷たい雨が降っている。
指定時間より少し遅れていくと、すでにメンバーはほぼ集まっていた。
よく会う顔に挨拶したり、珍しい顔に驚きつつ席へと向かう。ここでその日一番の衝撃が全身を駆け抜けた。
「初恋の相手がいるんですけど!」
そう。小学生から中学生にかけて、僕が初めて好きなった人がそこにいた。
内心焦りながらもポーカーフェイスを装い席へつく。
動悸が激しくなる。震えが止まらない。
乾杯が終わり酒を飲んでも体は震えている。
むしろアルコールのせいで鼓動が早くなっているくらいだ。
「僕の心臓のBPMは190になったぞ」と歌い出しそうになる。
ここで疑問が一つ。
なぜ僕が初恋の相手を前にここまでうろたえているのか。
ここまでの流れから想像すると、読者の方は僕のことを
"初恋をいまだに引きずっている気持ち悪いヤツ"と思うかもしれない。だが、それは断じて否。彼女のことはもう何とも思ってない。
ただ、中学生のとき「好き」だと言えなかったことをずっと後悔していた。いつかあの時の気持ちを伝えたいと思っていた。
その機会が今やってきた!神が与えたもうた突然の奇跡(チャンス)にうろたえずにいられようか!
だから自己満足のオナニーなのは承知で、この場で好きだったことを言おうと思った。
さて、何杯目かのレモンサワーを飲み干し、ほろ酔いで気分は上々↑↑
根暗な自分も社会の荒波に揉まれ、多少のコミュ力も付いているはず。あの子にスマートに話しかけたいところ。
軽快なトークに思い出話を織り混ぜつつ「そういえば中学んときお前のこと好きだったんだよなー」と軽い感じでカミングアウトして笑いを誘う。
「よし!コレっきゃない!」
そう思ってからどのくらい時間が経ったか...。気づけばレモンサワーを2杯もおかわりしている。
「全然しゃべりかけられへん!」
その後も全く話かけられず、レモンサワーだけが減っていく。
一旦落ち着くためにトイレへと向かう。
僕がテーブルに戻ってきたとき、初恋の女の子(以下:初子)は席を移動していた。今までは仲のいい女友達と話していたが、今度は男と親しげに話している。
その光景を目にしたとき、自分の中で何かが終わった。
中学時代は初子と同じクラスになったこともあり、仲は良かったと思う。ひょっとすると相手も自分のことが好きなんじゃないかと思ったこともあった。
でも、今、目の前には別の男と楽しげに話している初子。あのとき両思いだと思っていたのは自分だけで、初子が好きだったのは今話しているこの男だったんじゃないか。そう思えて一気に冷めてしまった。
まぁ、冷静に考えれば実際はそんなことないかもだけど。でも、そう思ってしまったんだから仕方がない。
結局、最後まで言えず終いだった。
帰りの電車を降りると、雨はあがり、空気が澄み切っている。
中学時代を思い出しながら冬の夜を独り歩く。
あのときの通学路を。
「好きでした」...それだけ伝えたかったな。
そんなことを考えながら歩いていると、なんとなく中学生の自分に尻を蹴られた気がした。
さあ、明日は大晦日。ソバ食うぞ!
【あとがき】
もしこの記事を当事者の方が読んでいたらごめんなさい。不快な思いをさせてしまうかもしれません。でも、どうしてもこれだけは書きたかった。書かずにはいられなかった。どうか気持ち悪いと思わないでくださいね。
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