語りべはむくち
私の好きな場所について
何もない時も何かあった時も私はたびたび自宅近くの桂川の河原へ行った。
川と山を眺め、その辺の石ころと一緒におとなしく佇んでいる時間が好きだった。
考えているような考えていないような
ポツンと一人。
草むらの影が真っ黒になり、夜の深さに飲み込まれそうになるほどの夜、
眼界の桂川の流れる音をいっぱいに聞きながら、私はその河原でよく星を眺めた。
それはもう首が痛くなるほど。自分の顔は天付きだったのではないかというほど夢中で見ていた。
ある日いつものように河原へ行き、足元の石を眺めていると
その表面に浮き上がる模様に、遠い記憶のような深さを感じた。
それは自分が生まれるはるか前から存在する物質。
その実感に胸が高まり、丸く滑らかになった石の曲線は妙に私の心を落ち着かせ
自分の手の中に収まるような石ころが偉大なものにも思えた。
自然の形態はいつだって私の中にあるであろう遥か原始の記憶へ、語りかけてくる。
ここの河原にいる無口な語りべたちは大いに多弁だ。
石に限らず、風も山も、草木も全て。
月読み
星読み
読むものは活字だけではない。
空の色、風の音、この世界とその秩序。
さまざまなものが束になって、ただ一つの真実があるかのように。
それは一本の線。
静かに私を透過して通り過ぎていく風景そのものなんじゃないか。
受け取ったものを、私も語り継ぐことがないだろうか。
昔の文章を読みながら、伝えたかったことはこうなんじゃないかと思う。
写真は展覧会「語りべはむくち」より
yamauta
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