クタイシ一服旅
クタイシにこの前四日か五日間程、ゆっくりしてきた。
その時の忘備録である。
四月二日土曜日
朝八時に目を覚まして、家を出る準備を済ます。十時頃に共に行くカナの家まで行く。
先日、何故か予告なしに路線バスが少なくなった。表記はすべて三百以上。いったいどこへ行くのやら。
何とか、バスを乗り継ぎ家の前に到着。降りてくるのを待つ間、ビールを買いにマーケットに入る。
キャッシャーの前でおばあちゃんがまごついている。缶ビール二本買うだけに入ったマーケットを出る時は十五分後だった。おばあちゃんはカードで払うと言ったものの、見つけられないらしく、100ラリを出してきた。店員はおつりが面倒だと受け取らない。最後にカードを引っ張り出し払う。さて自分の番が回ってきたかと思いきや、おばちゃんの割り込み。どこのおばちゃんも強いことが解る。
カナと合流し、ビールを飲みながら、家に上がる。
頼まれていた物を渡し、麦酒を片手に一服。
バスステーションまで行く。ガソリンが高くなったお陰で、チケット代も高い。
見たことない値段まで上がっている。驚きである。市バスも今では二倍の値段。往復代だけで結構な出費に思える。とはいえ、クタイシ目指して乗り込んだ。
バスの中は暑い。空気が滞留している。汗が噴き出しじとりと纏わり付いてくる。寒さに怯え着こんできた服と満席状態により、動けない。暑く寒い状態が続き体力がただ奪われる三時間半。
クタイシに着くと疲労困憊で辿り着いた感動は薄かったが帰って来たと安心した。
するとギオギさんが迎えに来てくれる。ラシャとルカを引き連れて。ラシャは車の持ち主兼ドライバー。ルカは友達だ。何か会う用があったのだろう。「取り敢えず、家行こう」
ラシャの車に乗り、家まで行く。この彼の家が今回我らがご厄介になる所である。
犬、猫、羊に挨拶し、取り敢えず、皆で一服。
疲れから眠ってしまった自分はクラブに行けず、少し残念だった。
朝八時半に起きる。「今日からクタイシだ」と目が覚めて一番に取った行動はソファに座るだった。
暫ししっかり座る。本を読みながら。
顔を洗い、食器を片づけ、床を掃く。掃除と本を今回のテーマにしていた。
持って行った本は草枕。夏目漱石だ。うろ覚えの栞から読む。非人情な旅はクタイシじゃ難しそうだ。
ギオギさんは何かうろちょろと仕事している。犬の為に米を炊き、猫に別々の場所で餌を与え、羊にリンゴを与える。羊の入ってる場所はかなり狭く三畳も無いように見えた。いつかは出してやるのだろうか。
ギオギさん家に来客があるのは早くて十時半、十一時半には二人ほど来る。一日の開始の合図だ。クタイシだとやはりどこもこうなのだろうか。家には絶対朝から誰かやってくる。退屈しないし皆仲が良さそうで、何より。
昨日のルカさんとラシャさんがやってきた、十一時。取り敢えず、一服。
十二時にゴガがやってくる。今日のドライバーだ。どこかに連れてってくれるそうだ。中心地まで車で送ってくれ、そこから歩く。途中、やはり会えると思っていた友達アブグドゥとギオに会う。「来てるなら連絡しろよ」とアブグドゥ。いい兄ちゃんだ。ギオも元気そうだ。昨日のクラブがやはり跳ねたようで、二人共、二日酔いの白い顔をしていた。陽に打たれて燃え尽きそうな勢いで白かった。
リオニ川沿いまで行き、橋の下のカフェに入る。雪解け水で水量が増えている。
ごおおと唸っている。こんなリオニは初めて見る。自分とギオギさんはオレンジジュースを飲み、カナはビールを飲む。休憩終わりと家に向かって歩き出す。ゴガも加わり四人で帰る。
家についてまた一服。
夕方、橋でギオギさん一向と別れ、アセティア二に住む友人を訪ねる。ゴルチだ。奥さんと子も家に居た。娘さんも大きくなっている。ここでまた一服。
彼もまた二日酔いだった。そんなに跳ね上がったのかと行かなかった事を少し後悔した。
色々世間話をし、一時間ほどで帰路に着いた。
帰って来ると友達数人が集まってきていた。色々話している。ギオギさんはロシアの放送局からテレビで流し続けている。ニュースしか見ていない。両方の発信してる情報を知るのは、面白く思った。
そんな中、ザーリさんという近所に住んでいるお爺さんがやってくる。昨日の晩も挨拶したような。
また一服。
朝九時頃にベットから起き上がる。今日の空は曇っている。雨も降ってきそうだ。
そうこうするうちに小雨になってきた。家に引きこもれるかと思ったが、やはり、十二時前には誰か来た。ギオギさんは朝から忙しない。お母さんが来る四日前に亡くなったとかで家は汚くなっていく一方だ。代りにしっかり掃除しようと思った。のも束の間、友達が迎えに来て、隣村まで行くことになった。
今回のドライバーはエカさん、と助手席には旦那のレヴァン。先ずは山の上に住んでいる友達の所まで遊びに行く。何か用があるようだ。
デコボコ道をゆっくり車の底を擦らぬようにゆっくり慎重に進んでいく。ギオギさんは後ろからハンドル操作を指示し、エカさんはちょっとうんざりしてるようにも見えた。
デコボコ道だけで二十分を要し、友達の家までやってきた。それでも残念なことに、友達は外出中。
近くの教会に挨拶し、また隣村まで走る。
戻る道は慣れたから、幾分早いがそれでも遅い。エカさんは「歩いてきた方が早いんじゃない」と漏らす。「いい運動にもなったろうし」
「いや運転が遅いだけだ」ギオギさんは言い返す。「俺ならもっと速く行ける」と。
ちょっと間の静寂。きっとエカさんは心の中で思っただろう『じゃあ手前が自分で車持って来い』と。
その後、教会を二か所周り、終わりにお友達が工事してる建物に遊びに行った。
出逢ったのはその持ち家のマムカと電気工事士のレヴァンとセメントのギオギ。
教会のすぐ下の建物で、修道院からの湧水が庭に流れていた。
ここで、一服。
帰ると一服し、少し眠った。午後五時頃。
六時半には目を覚まし、今日は夜何しようかと話す。
チェスでもしようとギオギさんと遊ぶ。三連敗。
十一時前にザーリさんが来て、今日の話をして寝る。
目を覚ますと九時半。日に日に起きる時間が遅くなっている。だらけてきているのだろうか。
カナちゃんと今日帰ろうか、明日の朝にしようかと相談する。お互い帰りたくないという意見は一致してるのだが、帰らないといけない用事がある。その日は結局様子見ということになった。
十時半頃、友達の所に行こうと皆で家を出る。辿り着いたところは徒歩五分。一ブロック先のもう使われてない大学。中で友達の教授さんに会う。名前はイラクリ。豪快なおっちゃんで、地理学の教授さんだった。オフィスには四人が囲める長机、ソファにパソコンと事務机、棚に観葉植物に骨に幾つかのトロフィー。登山家でもあるらしく、色々なところへ一人で行ったらしい。
イイ感じ。お茶を淹れてくれる。美味しい。
ここでもまた一服。
帰って少し経つと、友達がやってきた。ギガだ。一服出来る?みたいな感じでやってきた。
また一服。
その時安い煙草を吸っていたのだが、ギオギさんは不味いという。
彼曰く、Winstonの煙草の方が香りもしっかりあって美味しいらしい。
そんな会話をした。
クタイシは時間がゆっくりだ。皆働いているのかと疑うほど、皆に合う。
仕事何してると聞けば、皆、しっかり答える。ギガは屋根の作ってる人だったり、イラクリは教授だし、建築屋の監督だったり、偉い地位で時間も作りやすいのだろうか。
雨がしとしと降る中、本を読み進める。漱石は遂に女と色々身の上話をする関係になってきた所。
ちょっと眠ってしまっていた。四時前。
出かけようと誘い、皆で散歩に出る。雨が降っているがそんなの関係ない。家にじっとできなくなっていたのだ。皆でハチャプリを食べ、家に帰る。
帰るとギオギさんの孫が待っていた。可愛らしく良き男の子だった。
ギガが戻ってき、共に一服。
その後、一杯のお肉を食べ、眠る。
朝八時半に目を覚まし、掃除を始める。もうクタイシを出ないと用に間に合わない。
リミット十二時と心に設定し、もう帰る事をギオギさんに伝える。
ギオギさんはあまり聞いていない。「まあまあゆっくり一服でもしていきな、コーヒーでも飲むか?」
「飲みます」と答える自分。帰ってほしくないようだ。「一時間か二時間で行くよ」自分は言った。ギオギさんは聞いていないのか、聞かないようにしているのか、反応がない。
予想はしていた。ギオギさんもかなり寂しいのだろう。居てやりたい気持ちは山々だし、なんなら自分はトビリシに帰りたくない。けど、最後は心を鬼にし、出ていかなければと思った。ギオギさんがどう粘ってくるのか、気がかりだった。
レヴァンが遊びに来て、一服。
思いの外、レヴァンはあまり長居しなかった。レヴァンと共に家を出ていくギオギさん。十五分で戻ってくるそうだ。カナに友達から何かを受け取りに出てったことを伝え、犬、猫に別れの挨拶をする。
「帰りたくないな~」そう二人で嘆きながら待っていると、持ってきたぞとドヤ顔で帰ったきたギオギさん。手にはヴォッカとビニール袋。立て続けに三ショット。そして一服、二服と宴会を強行開催したのだった。「このヴォッカ飲み干して、ちょっと寝てそれから行けば良い」と、ギオギさんは自分達をソファに座らせようとする。『この人、我等を潰す気だ』と確信した。時計を見ると十二時三十分前。これはラストスパート入ってるなと思った自分は、立ち上がり食卓の上のヴォッカを掲げる。「ギオギさん、行きましょう」
「取り敢えず、」ギオギさんは笑顔で言う。「一服したら一緒に行こう。君も吸うかね。」
一本もらい一服。
食卓を挟む形で自分達は対面していた。卓上には半分位残っているトロっとした透明の液体ヴォッカとショットグラス二つ。飲んでは吸って、飲んでは吸っての繰り返し。お世話になった感謝も込めて乾杯した。
飲み干した後、タクシーを呼び、バスステーションまで向かう。
バスまで見送ってくれ、握手して別れる。いいおじさんだった。
帰って来た自分はカナと別れ、帰宅。用事も控えていたので、休憩そこそこに準備して終わらせる。十一時には寝てしまった。
次の日朝十時、電話がかかってきた。ギオギさんだ。
電話に出ると、開口一番「次はいつ来るんや。」
すぐ行くことになりそうだ。
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