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little witch in permafrost garden メイキング: 正攻法を封印した話

「裏ワザ」が好きだ。ゲームのバグ、生活の小テク、法律の抜け穴。設計者の意図していないであろう挙動を利用する行為は何故こうも楽しいのか。

結果的に「little witch in permafrost garden」の映像はそんな「裏ワザ」的試行に溢れた作品になった。技術的な解説も挟みつつ、本作の制作経緯等をまとめてみたいと思う。

なお、本作は楽曲制作者でもあるlinear ringさんからのお誘いをきっかけに作った作品だ。素敵なお誘いと楽曲に感謝!

11年ぶりのBOFへ

7月の下旬頃、楽曲の大枠ができたものを頂いた。うん。難しい。難しいよこの曲は。6/8拍子ベースの変拍子、目まぐるしく変わる展開、それでいてどこか優しい音色。コメントの「優しいボス曲」とはまさしくその通りで、確実に苦戦するタイプのボスだ。回避するに越したことはない。

しかし逆に言えば普段できないことを思い切りやってみるいい機会かもしれない。何度か経験した「丁度いいハードル」のような感覚がある。近年のFRENZ中止も相まって、久しぶりのホビーワークだ。リスクテイクしていけ。

かくして見切り発進を決行、11年ぶりにBOFに名前を連ねることになったとさ。蓋を開けたらもう一人の映像担当misokabochaさんだし。助けてくれ。

全然時間ない

3ヶ月余りが経過し、何もアウトプットできないまま10月下旬になった。さすがにダメかもしれん。

想定を上回る難敵で、どうにもうまくコンセプトがまとまらない。何か根本的に覆す必要がある気がする。散々巡り巡った結果、一つの考えにたどり着く。

感覚を受け入れてみよう。正攻法を封印してみよう。

「BPMから理論値を割り出せ」だの「力の記号化を意識しろ」だの説いてきた身としては恐怖すら覚える。が、覆すならここだった。そもそも普段のやり方じゃこの変拍子無理でしょ。レイアウトも色も感覚で決めよう。いっそプリミティブ使うことすら封印したら楽しいのでは。リッチでプロシージャルな映像とは別方向に突っ走れ。

そしてようやく数枚用意したイメージボードがこちら。送ると同時に「人気が出るかはわかりませんが、面白いものにはなると思います」と伝えた。快く受け入れて頂いたliner ringさんには重ねて感謝を述べておきたい。

料理を作るには畑を耕すところから

「映像制作」という言葉は幅が広い。料理や建築に例えて説明することがしばしばあるが、「畑を耕すところからやりたがる自分のような人種は稀有ななんだ」と自覚したのはここ数年だ。本当に肩書に困る。

なので、方向を決めたら次に始まるのは技術実験だ。理想的な畑を用意し、最高の素材を一気に作る必要がある。そもそもあと1週間ないし。裏ワザ的なルートを取らないと土台無理だ。

今回の場合の畑作りとは、言うなれば「感覚で作りやすい環境作り」。実際に行ったポイントを4つほどまとめてみたい。お待たせしましたTipsの時間です。

AEは添えるだけ

真っ先に頭に浮かんだのが、極力AEによる動きのプレビューを避けること。普段の「正攻法的な動き」なら、プレビューしなくてもグラフを見ればだいたいわかる。しかし、今回は試行錯誤が大量に発生するため快適なプレビュー環境は必須事項だ

必然的に、なるべくC4Dのビューポート上でプレビューを行い、AEはその結果を重ねるだけという方向に。実際はある程度の連なった動きを動画ファイルとして書き出し、そのタイミング調整のみAEで行う。VJ素材を混ぜ合わせていく感覚に近い。

ツールのUIを最適化する

形も動きも直感的に。フリーハンドでオブジェクトを作りつつ、MoGraphの強みは活かしたい。落描きを最短距離でオブジェクト化する必要がある。

まずはペンダブを引っ張り出してきて、スケッチツールでC4D上にどんどんスプラインを描く。嬉しい誤算だったのがC4Dのスプラインスムーズツール。「スムーズ」という名前がついて入るが、他にランダムや渦巻など様々な変化をピンポイントに与えることができる。恥ずかしながら全く使ったことがなかったが、こういう気づきこそリスクテイクのおかげ。

できたスプラインは軸や順番を整えた後、Altを押しながらまとめて押し出し。厚みを0にしてクローナーに突っ込めば、複製数や各種エフェクタで動きをつける準備が終わる。

この一連の動作は頻出パターンなので、専用のパネルを用意。ペンタブでポンポン押していくと上記の流れが遂行できる仕組みになっている。ここまで来るとゲームのRTAの域。時間を掛けてでも、よく使うアイテムはカーソルの初期位置近くに並び替えた方が合計タイムの短縮につながる。

数式エフェクタは魔法の杖

モーションを考えるとき、指揮棒を振るような動きで試行錯誤することがある。感覚的に作るとはまさにこれで、もう極力その動きをそのまま活かしたい。いっそ手を振ったら勝手にいい感じの映像が生成されて欲しい

残念ながらそこまでは実現できないが、近いものとして「レールスプラインを描いたらそれに沿って次々にオブジェクトが出現しては動いて消えていく仕組み」を作った。このとき大活躍したのがC4Dの数式エフェクタだ。

数式というと聞こえは難しいが、やっていることはタイムエフェクタの延長だ。時間"t"とクローナーの"id"で順々に同じ変化が起こるようなところまできたら、後は2乗して等加速度運動っぽくスピードを調整してみたり、スケールの最小値が"-1"で止まるようにしたりとガチャガチャ試していく。

エフェクタが組めたら、後は魔法の杖を振るような気持ちでレールスプラインを描き、差し替えることで次々に動きを量産していく。

なお、自由にタイムラインをシークできるのはエフェクタ完結構造の大きなメリットだ。この手の動きはシミュレーション系のシステムで作られることが多いが、だいたい頭から再生する必要があり、その心理的負荷は侮れない。試行回数はやはり正義だ。

アニメが100年やってる着色手法

線で囲まれた領域を次々とカラフルに着色したい。量感や動きだけが重要なので細かい配色自体はある程度ランダムで良いが、要所はピンポイントで指定したい。これはバリエーションシェーダとコロラマを使って実現している。

まずは白い単色マテリアルのアルファチャンネルにバリエーションシェーダを用いて、領域によってグレースケールがランダムに変化するような状態を作る。

これにAEでコロラマをかけ、サイクル反復数を20程度の通常ではありえない大きな値に設定。これでグレーの度合いが少しでも違うと全く別の色になる仕掛けとなる。OLM Color Key等で特定の部分だけピンポイントで変更することも可能だ。

線は完全な白に設定し、コロラマ後に上から線のみかぶせる。線だけ別パスとしてレンダリングしてもいいが、Sketch & Toonとクローナーを併用すると設定によって陰線が見えてしまう仕様を逆に利用することで省略。これでレンダリング一発、アルファの無い一つのaviだけで素材を管理できる。「裏ワザ」の最たる例だ。

最後にアンチエイリアス処理。コロラマまでは二値画像の状態で処理することでジャギの問題を無視し、その後まとめてOLM Smootherでアンチエイリアスをかける。これはアニメ撮影と全く同じ思想だ。着色は動きを見てから最後に行う。OLM Open Toolsは神。

なお、このセクションに関しては以前ウェビナーという形で紹介したので、下記を参考にしていただきたい。(そのうちアーカイブが閲覧可能になるはず)

文章書くほうが時間掛かった

数字だけが印象に残るのは避けたいが、制作に掛かった時間は4日ほど。メイキング書く時間のほうがよっぽど長かったという本末転倒な事態になった。但しうまくいったのはあくまで結果論であり、もっと計画的で健全な作り方が褒められるべきではある。でもこういう個人制作ならではの裏ルートの楽しさも大事だよな~ということを書き記しておきたくて長々と文章を書くに至った。仕事ではまずできないから表面化しづらいし。いやほんとご心配おかけしました。

そんなこんなで11/7ギリギリセーフで公開された本作品。結果的にはこうしてメイキングを書くくらいにはお気に入りの作品となったし、得るものの大きい制作過程となった。適度な制約や実験の楽しさは本当に大切にしていきたいと再確認。

それではクレジットを転載して終わり。関係者の皆様&最後まで読んでいただいた皆様ありがとうございました!


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