「ホープサウンド MV」 メイキング
自主制作「ホープサウンド MV」を公開しました。映像は私yama_koが、作編曲はtilt-sixさんが担当しています。総員2名。FRENZ 2023出展作品です。
本作の設定やコンセプト、UnrealEngineの知見などを書き残しておこうと思います。なぜかnoteは常体で書きたくなるのでここから常体で書きます。
最初に浮かんだのはイントロの構図。壮大で幻想的で、何処か異質な世界観。スタートを考えると2022年まで、いやもっと、数年前まで遡る。漫画なら回想シーンが入るレベルだ。
今作に掛けた時間は長く、日々進捗をメモっていた。備忘録になるしモチベ維持にもつながる。せっかくなので、今回は時系列順に考えや出来事をまとめていこう。
2015: 「Hope Sound」発表
見出しを考えたら年表みたいになった。8年前である。ニコニコ動画が元気で、日々ボカロ曲が公開され、全人類ランキングを気にしていた時代だ。
tilt-sixさんとは「プラスチックボイス」以来の縁だ。2ndアルバム「Hope Sound」のクロスフェード動画にもよく見るとクレジットに私の名前がある。
「ホープサウンド」はそのアルバムの表題曲。囁くような声と壮大な音は強く印象に残り、しばしば聴き直していた。2サビの裏のストリングスが特に好き。
Web未公開曲にも関わらず、使用・公開まで快諾して頂いたtilt-sixさんに重ねて感謝申し上げたい。みんなアルバム買おう。
2022 年末頃: ぼんやりと作りたくなる
そんな昔の楽曲を引っ張り出した理由は主に2つ。まずはFRENZ 2022の存在だ。2年間コロナ禍で中止になっていた経緯もあり、その刺激は鮮烈だった。
機能美pの「そんな話を彁は喰った。」は数ある出展作の中でもおすすめ。是非見てほしい。体感5分で終わるから。おうよ喰わせてやろうじゃないか。
そしてもう一つは、自分が家庭を持ったこと。8年前、まさか自分が2児の父やってるとは思うまい。誰かに希望を託すその歌詞が、より熱を帯びて感じられるようになったのだと思う。
かくして途方もないプロジェクトが始まった。耐えてくれメンタル。
5月: Unreal Engineを触り始める
壮大な水面を手早く作るため、重い腰を上げUnrealEngeine (UE)を導入。映像屋としては触ってみなきゃな…という義務感のようなモチベもあった。結果、本作は全編UEで制作されている。
用途の広いUEだが、「映像を作る」というゴールまでの最短距離を一人かつ爆速で走り切るために上記のチュートリアルをちまちま敢行。本当にありがたいと思う反面、このクオリティに対してわずか数千円というペイウォールは低すぎて恐ろしい。いい時代になったと思うべきか。
感想を列挙すると
細かくチャプターが設定されていて索引性が高い
ファイルの管理や命名まで触れてくれるのが助かる
積極的にショートカットを使うのが最高
物量感のためにコピペしまくっていいんだなぁ
アス比気にせずスケールいじっていいんだなぁ
要約すると、まじでオススメ。3DCGに触れたことがあれば基礎編はつまみ食いでも良さそう。
6月: Evena & Dawna
本作のテーマの一つとして、「継承」がある。誰かが誰かに歌を届ける歌であり、絵的にも二人のキャラクターが欲しい。その登場人物について設定を練りつつ、形に落とし込んでいたのが6月頃だ。
「誰か」を表し、極力没個性であること
別人/対比となる存在に見えること
幽体のような印象を受けること
リアルすぎず、アニメの文脈を残すこと
これらを意識して、フルスクラッチでモデリング。リグとアニメーションはMixamoの動きを改変する形で制作。不足が見つかるたびにポリゴンをいじり、最終的にVer.6(適当)で完成となった。
コードネーム的に、それぞれ「Evena」「Dawna」と命名。夜と朝、月と太陽のようなイメージ。実は色や髪型以外にも随所に対比要素がある。
それぞれの木。Evenaはちょっと三日月型のような、Dawnaは全方位型のような。
ちなみにこれらの木はC4D製。MoSplineのTurtle呪文を唱えることで作成。本当に呪文だ。「は?」を50回くらい連呼しながら作業していた。
殆ど見えないことを承知で作ったペンダント。ほぼ遊び。金属の質感ってずるいよね。
二人が書いた手紙のような意味合いで、筆跡も変えている。ペンタブで歌詞を書くのに1日かかった。ありがとうcalligrapher.ai先生。
必然的に演出が見えてきて、1コーラスVコンテができたのも6月下旬。まだまだ土台作りといったところだ。
7月上旬: インポート・エクスポート祭
とにかく3Dデータのやりとりに苦戦していた記憶が強い。書き残すのであれば、Mixamoで生成したFBXの各ボーンの名前は"mixamorig:"を消去すること。これをしないとUEにインポートした際スケルトン構造の認識エラーが起きる。かなりハマった。あんまり映えないので割愛。
7月中旬: ひらひらスカートとの戦い
ロングスカートはかなり拘った点だ。とにかくシルエットが映える。「幻想的な印象を与えるために」…と書き始めたが、正直に白状するとそんなもの後出しだ。綺麗なものは綺麗。力isパワー。素直になろう。
しかしこれが難航。ゲームエンジンの難しいところで、プレビューはできてもいざ画質を上げてレンダリングするとスカートの形が変わってしまうのだ。まる二日ほど調査とテストに明け暮れた。
結果、カメラカットを使わないことで回避することができることがわかった。カメラを固める処理は最後にしかできず、途中提出ではUEのプレビューをOBSでキャプチャして提出していた。
最終的には風の空気感を出しつつ神秘的な演出にも一役買い、かなり印象的な表現になったと思う。レンダリングが成功した際は声を出して喜んだ。
7月下旬: Eve, Dawn, Noon
作品内の時系列の話をしておきたい。舞台は同じだが、1番、2番、アウトロで大きく時間的なギャップがある。それぞれのシーンにEve, Dawn, Noonという名前をつけてはいるが、昼夜の変化ではなく、地形が変わるほど途方もない時間が開いているイメージだ。
長い時間を超えて誰かの礎となること。そう祈ることを肯定すること。そんな考えを「継承」の延長線上のテーマとして掲げていた。
当然、歌詞に触発されている部分は大きい。これが希望の音だというんだからお見事。
当然作る際は一つのシーンを複製して作る。骨組みがようやく固まってきたころだ。この後フォリッジ(草や石ころ)と最小限のカメラワークを加え、8月の一次提出では一応尺が埋まった状態になる。2009年にFRENZが始まって以来初めての経験だった。
8月中旬: 評価と修正を繰り返す
「プロフィール見に行ったら殴られた」と評判の自戒カバー画像。まさしく評価と修正を繰り返していたのが8月中旬だ。
具体的にはキャラクターのバージョンアップ、歩きモーションの調整、髪揺れ用マテリアルの作成、水面シェーダの調査・調整など。
特に髪揺れを解決できたのは大きい。SimpleGrassWindというノードでそれっぽく見せている。ボーンもシミュレーションもなし。その場で揺らしたいだけの場合はおすすめの手法だ。
なお、当初は「1ヶ月前倒しで終わらせてやるぜ」くらいの意気込みだったが余裕で無理だったことを記しておく。カバー画像はまだまだ変わりそうもない。
8月下旬: 世界観を補強する
世界観・背景について、少し踏み込んだ解説をしておこう。端的に言うと、黄泉の世界や墓場は明確にイメージしている。それを補強する目的で、墓場のようなクリスタルを追加したのはこの土壇場だった。
限定したくはないものの、継承というと背後には必然的に死が連想される。木は生命の象徴、水は果てしなさや三途の川、ロングスカートだって幽体的な表現という一面がある。見栄え重視ではあるが、際立ったリムライト表現も強引ながら説明がつく。
初見でこれだけ読める人ってすごいなぁ。ぼくにはとてもできない。
9月冒頭: がんばれGPU
そして最終レンダリングへ。今回はUE、つまりGPUレンダーなので非常に早い。十分なサンプル数を確保しても通しで30分程度。5年前に先物買いしたRTX2080Tiがようやく火を吹いた。なんならリアルに発煙しないか日々心配していた。ぼちぼち買い換えようと思う。
出力された連番pngをAEに放り込み、字幕処理と色調補正をかけて完成。ここまでくると少し寂しさすらある。
おわりに
常体ここまで。最後までお読み頂きありがとうございました。会場で声を掛けてくれた方、SNSで感想をくれた方、とても励みになってます。
来年以降、また同等の重さの自主制作ができる気が現時点で全くしていませんが、どうにか頑張る所存です。