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KORORIN メイキング
自主制作「KORORIN」を公開しました。映像・音楽とも私自身で制作しました。総勢1名。FRENZ 2024出展作品です。
思い出話や備忘録を書きたいので書きます。大きく「映像の話」「音楽の話」「意図の話」に分かれます。エンタメに寄せつつ、何かの手助けになれば幸いです。
映像の話
表面的なTipsからいきましょう。今回のメインツールはC4D(Cinema4D)。カットの結合と後半のグロー処理のみAE(AfterEffects)を使いました。
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おむすびの中心の軌跡を求めよ
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真っ先に作ったのがおむすびを転がす機構。鍵となる動きで、柔軟かつ厳密なコントロールが必要です。今回はさすがに手付けじゃ無理。
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頼りになるのはもちろん三角関数。ちょうど高校数学くらいの難易度で、まるで練習問題かのよう。媒介変数とか言いましたっけ。
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実際はC4Dでこれを扱うため、Xpressoで上記を実装。どちらかというとサインコサインより120度ごとの分岐を考える方が手こずりました。この手の分岐は割り算の「あまり」を使って解決するのですが、角度の単位変換(度orラジアン)でいちいちハマるんですよね…。
数式エフェクタでタイミングをまとめてずらす
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一つ一つの細かい動きのついたオブジェクトを、BPMに合わせてついたり消したりさせるのが今回のミッション。賑やかしとして頻出する処理かと思います。
結論を書くと、クローナーと数式エフェクタで解決できます。考え方としてはidを定数で割って少数を切り捨てるだけです。一つずつであれはステップエフェクタでも可能ですが、より汎用的。数式エフェクタは本当に便利。
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タイミングの間隔(時間オフセット)は小数値が取れるので半端なBPMでも安心。3D系ソフトはキーフレームを階段状に並べるような処理に向かない印象があり、大いに役立ちました。
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なお、個々の動きもエフェクタで管理することにより極力イージングを統一しています。イージング管理にはGraphixerを使用。現在はMotion Managerとして公開されています。必須。
ノリで採用したOctaneRender
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透明感を出すために、避けて通れないのがレンダリングの問題。さすがに外部レンダラーを使おうということで、勢い重視でOctaneRenderを導入。
専用マテリアルもそこまで苦労することなく、とりあえずの絵を出せるところまではすぐに到達できました。評判通りの速さで、モーションブラーを現実的につけられるのは望外の結果でした。あとLivePreviewは大変便利。
具体的な数値の話をしましょう。概ね200sample程度で、1フレーム60秒前後。屈折を多用する都合、SpecularDepthは100や200といった値で調整することに。ちなみにGPUはRTX 2080 Ti。そろそろ6年になります。ぼちぼちPCごと新調したいお年頃。
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Denoiserが優秀で、特に暗めのシーンで大活躍。設定方法がややわかりづらく苦労したので下記にメモ。AOVの概念は正直まだ理解しきれてません。
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音楽の話
映像と同時並行的に進めたものの、先に形になったのは音楽の方です。DAWはStudio One (Artist)。ツールとしての操作は掴めていたので、具体的に音を考えていく話です。
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DAWに慣れるまでの経緯に興味がある方は、是非一昨年のメイキング後半をご参考下さい。格闘の記録です。
LoopCloudをふわふわ彷徨う
アイディア出しには音楽素材のサブスクサービスのようなものが便利と知り、色々と検討してLoopCloudを使ってみることに。
素材を手に入れるというよりは、アイディアの断片が無数に転がっているという感じです。もちろんバッチリ商用可能。また、専用アプリ上である程度アレンジできたり、検索により音色の名前を覚えたりと想像以上に得たものは大きかったです。
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具体的にはボーカルサンプル及びクラッシュなどの効果音はLoopCloudで手に入れたものを加工して使用しています。でもそのうち波形レベルから音を作ってみるのもやってみたい(病気)。
目標は「ワンループ」
作曲はメロディでなくコードから手を付ける方が定石らしいということを知りました。そして進行は限られたパターンなので、数撃ちゃ当たるの精神。適当に和音をならべつつ、上述のボーカルサンプルと同時に重ねては聴いていきました。キーはFメジャー、BPMは125です。
多くのチュートリアルを参考にしたものの、今回特に参考にさせて頂いたのがこちら。コード進行の原型まで同じです。(サビまでは4563の進行。)相変わらず音楽のチュートリアルは映像に比べて陽気なものが多い不思議。
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コードとリードボーカル(?)が形になると、そこからは一気にイメージが鮮明に。さらにワンループが形になると加速度的に尺が埋まっていきました。耳が肥えてるおかげか、残りは足りないものを乗せていくような感覚で楽しかった記憶があります。
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ある程度打ち込みが終わるとMix的なフェーズに入り、こちらも多数のチュートリアルのお世話になりました。EQ処理、M/S処理、定位(LR振るやつ)、オートメーション、サイドチェイン…とまだまだ手探り状態。FRENZ後、公開直前になってリバーブをやや控えめにしたことを白状しておきます。
意図の話
そもそも何故おむすびなのか?透明なのか?可愛い感じの音楽なのか?みたいな抽象的な話をまとめておきます。
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丸と四角でどこまで楽しめるものにするか
去年、一昨年と好き放題冒険したし、ぼちぼちキャッチーな作品を作りたいなという欲求がありました。EMOMOMOから5年経つし。
考えていくうちに、「丸や四角のようなシンプルなシェイプでどこまでエンタメにできるか」という目標がぼんやりと浮き上がったのが今年の4月頃です。ここが今作のスタート地点と言えるでしょう。
ターゲットは1歳以上の人類
「2歳の子供がEMOMOMO気に入ってます」という報告を頂いたことがありました。私も小さな子供がいるので知育系のコンテンツはよく見るのですが、そのデザインはMG作品とかなり相関があると感じています。
ならばせっかくだしということで、以下のような方針を定めました。
質感の表現を許可する
表情の表現を許可する
記号表現を含め、極力具体物は使わない
言語を使わない
「1歳児が楽しめる」がコンセプト。結果的におむすびを認識できるかというとあやしいですが、まぁできなくても大差なさそう。
透明おむすびに辿り着くまで
本作で最も時間がかかったのはモチーフの選定です。決まっているのが上述の方針だけなので、なかなか選択肢を絞れない日々が続きました。ボツ案の中でも有力だったものを挙げると「身近な文房具だけで作るMG」「落書きが延々と伸びるMG」「棒人間でなんかやる」などはいずれもワンチャンありました。
ものが転がったり倒れたりするという動きは乳幼児でも面白いらしく、結局これが最も原始的かつ汎用的。三角形なら転がすだけでビート刻めるじゃん!ということで、最終的におむすびころりんがモチーフとして採用されたのでした。7月中旬頃の話です。
あとは人が反応しやすいようボーカルチョップの音を用いたり、子供に人気のキラキラスケルトンな質感を採用したり。こうして透明なおむすびが誕生ましたとさ。
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おわりに
総括すると
音楽含め、限りなくゼロに近い状態から作品を作れた
テーマ先行型のデザインを遂行できた
この2点はとても大きく、満足度の高いものでした。但し、今回目指したのはエンターテイメント。ある程度数字を気にしなくてはいけません。多少は伸びるといいなぁ…。
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最後までお読み頂きありがとうございました。FRENZ会場で声を掛けてくれた方、SNSで感想をくれた方、とても励みになってます。自主制作、まいど大変ですがどうにか続けていきたい所存です。