テセウスの船が面白すぎて彼氏と喧嘩した話
世の中には2種類の人間がいる。
ネタバレOKな人と、ネタバレNGな人だ。
先日、ネタバレに対する意識の差のせいで彼氏と喧嘩した。
▼3つの”ネタバレ”
そもそも一口に”ネタバレ”と言っても、複数の行為を意味している。
まず、自分がこれから読む/見る予定の作品のネタバレを受けること。
ネタバレNGを自称する人が指すのは大方これだろう。前情報なしに作品を読む/見ることで得られたはずの感動を失う可能性がある、非常にインパクトの大きい行為である。ただし、近年ではTwitter等のSNSで作品の感想を発信する人も多く、その多くはネタバレを意図していないものの多分に情報を含んでいる。発信者側としてネタバレに配慮する必要がある(ふせったーを使用する等)のはもちろんだが、見る側としても、軽率な検索によって発信者の意図しないネタバレを被弾しないように注意する必要がある。
次に、自分と一緒に作品を視聴する人がネタバレを見ること。
一見すると実害がなさそうに感じられるが、一緒に見るからには同等の感動・体験を共有したい派の人にとっては嫌な行為だろう。私は基本的に気にしない派だが、サスペンス物を一緒に視聴している際に「こいつの行動が伏線になってるんだよな〜」「ここのシーン、見逃さないほうがいいよ」などとニヤつきながら言われたら、間違いなくイラッとするだろう。
最後に、他人がネタバレを見ること。
正直あまり理解できない。そもそも他人がネタバレを見ることを嫌がる人の存在すら認知していなかった。これまでの人生でそのような人に出会わなかったからだ。彼氏と喧嘩するまでは。
▼事件は明け方に起きた
事件の発端はテセウスの船だった。
先に言っておくとテセウスの船は何も悪くない。悪くないどころかめちゃくちゃに面白い。大きな反響があったようで、5月11日から再放送されるので見てほしい。待ちきれない人は、Paraviでディレクターズカット版が配信されているので是非見てほしい。原作の漫画版も展開が異なり面白いので合わせて読んでほしい。
夜から見始めて明け方に10話中5話まで見終えた私たちは、睡眠不足による身体的ストレスおよびスリルによる心理的ストレスの相乗効果もあって、それはそれは興奮していた。犯人は誰なのか?あの人の行動の真意は?過去を変えることで分岐が起きている?パラレルワールドとなる元の世界では何が起きている?観測者以外の意識は転移するのか?特に彼氏の方がパラレルワールド愛好家のため、ギミックとしてのパラレルワールドについて議論が白熱し、話題は他のパラレルワールド作品に移った。
その最中に事件は起きた。
彼氏が挙げた作品のネタバレを見ようとした私を、彼氏が咎めたのだ。
▼双方の主張
その作品は男性向けの恋愛ゲームで、アニメ化もされているらしい。名前は聞いたことあるなあ…くらいの知識量だったので、他の作品と比較するためにも調べようと思ったのだ。それがまずかった。
以下に実際のやりとりを抜粋する。読む価値はない。
「リト○スのパラレルワールドの部分はストーリーの肝なので見ないでほしい。」
「今はパラレルワールドについて話しているので、ストーリーの肝であっても見ないことには話ができない。自分がネタバレを見ているだけで、他人に広めて回ったりはしていない。今一緒に見ている作品のネタバレを見ているわけではないので、一緒に楽しむ上でも迷惑はかけていないはず。誰にも迷惑をかけていないのに咎められるいわれはない。」
「ネタバレを見ることによっていざリ○バスを見た時に感動が薄れてしまう。作品を100%楽しめないのはもったいないし、何より作品に失礼だ。」
「私の好みではないので、今後見る機会はないと思う。見る機会がなければ感動が薄れることもないのでネタバレを見ても問題はないだろう。」
「今後見る機会がないと決め付けるのはもったいないし、何より作品に失礼だ。好みではないとの言い草も失礼だ。」
「男性向け恋愛ゲーム原作というジャンルの性質上私の好みでないと予想される、ということを現状見る意思がない理由の1つとして挙げただけで、作品を批判しようとの意図ではない。また、それを押してでも他の要素が面白くて見るべきだと思うならお勧めしてくれればいいのではないか。」
「お勧めという行為はできない。自分のお勧めによって○トバスを見た人がマイナスの印象を抱いてしまったら、世界にリトバ○へのマイナス感情を持った人が増えることになる。マイナスよりはゼロのほうがマシだからお勧めはしない。でも今後見ないと決め付けるのは違うと思うし、マイナス感情を表明するのは失礼だ。」
「他人がリト○スにマイナス感情を抱こうが自分が好きでいれば良いのではないか。前に私がお勧めしてゲームオブ○ローンズを見た際に『なんかややこしくてよくわからなかった』と言って一緒に見なくなった。その行為は決め付けでありマイナス感情の表明に当たらないのか。それに自分だってあらすじを聞く事があるが、自分からネタバレを見に行くのと同じではないか。」
「ゲームオブス○ーンズは見るのがしんどいなと思ったけど作品を否定したわけではない。途中の展開を聞いているだけで結末を聞いたわけではない。」
「ゲームオブスロー○ズは群像劇であり途中経過を楽しむ作品である。作品を100%楽しまず美味しいところだけを知ろうとするという意味合いでは同じではないか。」
ヒートアップの末に2人のイライラは頂点に達し、彼氏は家出、私はふて寝した。
▼今回の教訓
改めてやりとりを書き起こしてみると、双方一歩も譲らない様子が恥ずかしいし、何より話の内容がめちゃくちゃどうでもいい。だからこそ学ぶ物がある。
今回得られた教訓としては、以下の3つがあると思う。
①人間はめちゃくちゃどうでもいいことでも喧嘩に至る
②価値観の違いを認めることで生きやすくなる
③喧嘩によって手っ取り早く相手を知る事ができる
①の『人間はめちゃくちゃどうでもいいことでも喧嘩に至る』について。
”ネタバレ”という話題は比較的どうでもいい部類に当たるだろう。少なくとも人種差別や貧困問題よりは圧倒的にどうでもいいし、政治やフェミニズムと言った話題と比べればどうでもよさ度合いはかなり高い。ちなみに上記は全て今まで彼氏と話したことのある話題であり、その際に多少揉めるくらいはしたものの、喧嘩になることはなかった。それなのに今回は喧嘩になった。なぜか。
それは”ネタバレ”がどうでもいいことだからである。
人は重要で複雑なものについて語る際には非常に気を遣う。相手が自分と異なる意見を持っていることは当たり前で、意見の衝突が想定されるからだ。衝突の衝撃を和らげるため、親しい間柄であっても慎重に言葉を選びよく考えて話す。まだ親しくない相手と話す際には話題にすら挙がらないことも多いだろう。
その一方で、重要でもなく複雑でもないものについて語る際には気を遣わない。相手が自分と異なる意見を持っていることに思いいたれども、特別慎重に言葉を選んだりよく考えて話したりはしないだろう。常に気を遣っていたら疲れるので当然である。通常であれば特に気を遣わずとも問題にはならない。
ただし、今回のように誰かの地雷だった場合は別だ。私にとってはどうでもいいことだったが、彼氏にとってはどうでもよくなかった。ネタバレに並々ならぬ憎悪を抱いている彼氏は、当然私の無粋な行いを咎めた。しかしながら、彼氏にとってはどうでもよくなかったが、私にとってはどうでもいいことだったのだ。どうでもいいことで咎められた私は自身の身の潔白を主張した。この辺の価値観のズレがお互い譲れなかった&ヒートアップした原因と考えられる。それにしても大の大人が何してるんだろうね。
②の『価値観の違いを認めることで生きやすくなる』について。
やりとりを見返すと、私が個人主体で作品を見ているのに対し、彼氏は作品主体で作品を見ているという大きな違いがある。
私は個人主体なので、個々の人間が自分の愛する作品にどんな感想を抱こうと構わない。アンチに対してはセンスないな〜と思う程度だし、見る気がないと言われればまあ仕方ないよねと思うだけだ。私がその作品を好きであれば、欲を言えば作者が次作品を作れる程度の評判を稼げていればいい。誰かがその作品のネタバレを見ても、それは個人の問題なので、どうでもいい。
しかし彼氏は作品主体なのでそうはいかない。アンチの存在に胸を痛め、見る気がないと言われれば自身の無力さに打ちひしがれる。世界にその作品をよしとする人が増える事こそが重要となる。誰かがその作品のネタバレを見ることは、作品にとっての機会の損失とイコールになるから、どうでもよくない。
これは価値観の違いなので無理やり変えることはできない。もちろん自分の価値観に基づいて他人の行動を制限することはできないし、それと同時に、制限されなかった行動に対して嫌な思いをすることは仕方ない。彼氏に私がネタバレを見ることを禁止する権利はないけれど、私がネタバレを見ることによって彼氏が嫌な思いをすることも止められない。
ただ、違うことを認めた上で、共存することはできる。
もし次に同じような事件があっても、この人とは価値観が違うんだからまあ仕方ないな〜、と適切な距離を置けば簡単に争いを回避できる。すべてをわかり合う必要はない。
③の『喧嘩によって手っ取り早く相手を知る事ができる』について。
私たちはお互いの価値観を知り、そのズレに気付いた。そのおかげで、次に同じような事があっても、ああそういえばこの人とは価値観が違うんだったで済ませられるようになった。つまり、最適な距離感に一歩近づいた。さらには彼氏のやや強めな作品愛や、イライラしても相手を傷つけずに対処しようとする姿勢を知る事ができた。逆に彼氏は私の譲らないところを新鮮に思ったことだろう。
これは、喧嘩しなかったらわからなかったことだ。
コロナの影響もあり2人で過ごす時間は格段に増えた。もし今回ちゃんと喧嘩せずにどちらかが我慢していたらどうなっていただろうか?飲み込んだモヤモヤは心の中でゆっくり成長する。またモヤモヤを抱えた状態では他のストレスを感じやすくなる。おそらく別のタイミングで我慢しきれず大爆発したに違いない。
したがって、今回喧嘩したことで未来の大喧嘩を未然に防いだと言える。
これらの利益を思えば、喧嘩のストレスを差し引いてもお釣りがくると言えるだろう。
以上が事の顛末と得られた教訓である。
▼ちなみに
10分ちょっとの家出の後に彼氏は帰ってきて、無事仲直りを果たした。
「ごめんね、大好きな作品のことだから熱くなっちゃった…もういっそ家出てやろうと思ったんだけど、そしたらもう一緒にご飯食べたり映画とかアニメとかを一緒に見たりぎゅーしたりできなくなっちゃうから、それは嫌だなって思って…」
家出るって同棲解消のことかよ。そんなレベルでイライラしていたのか。
ああそういえばこの人とは価値観が違うんだった。
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