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立地適正化計画を上手に活用する方法(民間事業者向けの視点から)

この記事は、次のブログからの延長で、次のような方が事業戦略を検討する際に参考となる記事として構成しています。


・これから事業所等の建築を予定しているがどこにするべきか悩んでいる。
・共同住宅や長屋の建築を予定しているが候補地をどのようにして検討したら良いか悩んでいる。

はじめにお伝えしたいのは、土地ありきで検討しているとすれば、すぐにその考え方はやめましょう。

事業所等や共同住宅用地ですから、それなりにまとまった土地であることが求められますし、基本的には、市街化区域内の土地でしょうから現時点であれば換金性も高く、事業用地として活用したいと考えるはずでしょう。

ですが、待ってください。

これから、日本の財政・経済は急速に縮小していくことが想定されています。

理由はたった一つです。

人口減少

特に三大都市圏を除く地方において顕著に表れます。

現時点で県庁所在地と呼ばれている都市の多くが5万〜10万人という規模で減少し、経済状況が悪化するのが目に見えています。
ここで問題となるのが、人口や世帯数の減少により市街地部の人口密度の減少です。

人戸密度とは、人/面積 で算出されるものですが、一般的な市街地としてされる規模の40人/haを下回る都市が多く出現することが考えられます。つまり、スカスカの都市(市街地)が出来上がるわけです。

これの何が問題かというと、医療や商業、福祉といった日常生活を支えるサービス機能の存続が難しくなるということです。

これらを中心とする都市機能は基本的に周辺の利用圏人口に支えられています。例えば、店舗やファミレスの出店検討を想定してもらうと分かりやすいですが、出店には半径何キロメートルの範囲にどれだけの人口がいるだとか、事業所の数などを考慮して決定されるわけです。

また、コンビニなどの個店の魅力に左右されない店舗の場合は特に顕著です。幹線道路沿いに出店しているコンビニを除けば基本的には周辺の人口と事業所に勤める従業員のみしか購入者がいない状況ですので、利用圏人口が単純であればあるほど、事業の存続性に大きく関わってきます。
(詳しくはこちらの記事の一部で紹介しています)


これが今後の人口減少により、さらにスカスカの都市が出来上がると、都市活動は非効率この上ない状態になるため、ビジネスをやる(継続)には不便な地域から大手を中心に撤退してしまう可能性が高いわけです。というか生産性の向上という名のもとで不採算店舗の店舗は矢継ぎ早に進んでいくはずです。

最後まで撤退しないでおり、最後の1店舗として残って、そこから撤退しようとすると立地自治体の住民等から後ろ指や批判の的にされるのがオチですね。

そうなると、ますます市街地の経済は縮小し、行政の財政状況も悪化するなど、持続可能な都市経営が非常に困難となることが考えられます。

1.立地適正化計画を学びながら土地利用のあり方を考察する。

そこで、こうした都市の課題を解決しようと平成26年8月に登場したのが都市再生特別措置法に基づく『立地適正化計画』です。

ブログでも触れましたが、立地適正化計画はネットワーク型コンパクトシティの形成を緩やかに進めていこうとするものです。

具体的には、都市計画区域内のうち、市街化を促進する市街化区域の中に、居住を誘導する居住誘導区域と都市機能を誘導する都市機能誘導区域を定めるものになります。

この両区域を設定するのみでは、建築基準法や都市計画法に基づく強制的な法的拘束力が生じるものではく、区域外において一定規模以上の建築行為等を行う場合に行政に対し着手の30日前に届出義務が生じます。

国の考え方としてはあくまでも緩やかな誘導なので、現時点では届出制度のみとなっています。

ただし、これはあくまでも現時点におけるというところがポイントです。

この二つの誘導区域は実質的な第2線引きと言っても過言ではありません。

線引きというには、市街化区域と市街化調整区域との線を引くことを言います。

市街化調整区域については、原則として建築することができないエリアとなっていますが、例えば、今後、居住誘導区域外としたエリアについて、10年にわたり土地利用されず、今後もされる予定がないことから市街化調整区域に編入する理由として扱われる可能性もあるわけです。市街化調整区域となるとどうなるか、原則として建築物を建てることはできません。

そうなんですよね、、、今後使われることのない土地について市街化調整区域にする前段階の処理機能の一つとして立地適正化計画を活用しようとしているのではないかと私個人としては考えているところです。

そのため、立地適正化計画は、都市づくりの今後を左右する影の計画と考えてもよいくらいだと思います。つまり、いずれは届出制度から建築基準法や都市計画法において法的拘束力を有するものとして活用されていくのではと考えています。

ですので、まずはじめに事業用の候補地を検討するなら、この立地適正化計画を策定・公表している自治体を選択することが懸命な判断です。

ただし、注意点があります。

市街化区域のほぼ全域を居住誘導区域に指定しているなど、明らかに誘導という視点が弱い場合(工業系用途地域を除く市街化区域全域を誘導区域に指定)には注意が必要です。今後、国のひと声で誘導区域が変更(縮小)される可能性があります。

では、ここから、この記事に本題に入って説明していきます。

2.事業所等の候補地を探す場合には都市機能誘導区域を選択

都市機能とは医療や商業、福祉といった日常生活サービス機能であることをお伝えしましたが、このうち、具体的な施設用途名(病院や診療所、認定子ども園など)については、各自治体ごとに立地適正化計画において『都市機能誘導施設』として定めています。

ここからポイントとなるのですが、自身の企業が検討している事業所等がこの都市機能誘導施設に該当するかどうかがとても重要です。

なぜかいうと、この施設のうち一部については国からの支援(都市機能立地支援事業:医療・福祉・子育て系施設)が受けられる可能性があることと、市町村が独自に支援措置を設ける(もしくは今後設ける)可能性があるからです。

つまり、施設整備に対する支援措置を受けられる可能性があります。

なお、繰り返しですが、事業用建築物の用途については、各市町村が策定・公表している立地適正化計画に掲げる都市機能誘導施設であることが絶対条件です。

これが経済的な視点の一つです。

もう一つ目は将来性です。

都市機能誘導区域内においては、行政がインフラ関係に投資することにより固定資産税の徴収額を維持することが考えられます。また、この記事を読んでいるあなた以外にも、都市機能誘導区域に投資しようとする方が増えるのは間違いありません。

当然、まちなかについてはこれまでも行政において中心市街地活性化基本計画に基づく経済産業省や都市再生整備計画といった国土交通省系の予算措置があったわけですが、今後は、国が自治体に予算を交付する条件として立地適正化計画を作成していることが必須になると私は見ています。間違いなくなるでしょうね。

なお、この補助金が交付されるエリアは、基本的に都市機能誘導区域がメインとなります。

つまり、投資される場所は明瞭に示されているわけです。

そうなれば、事業所等を建築する場所は、『都市機能誘導区域』と決まってくるというわけです。

とはいえ、いくか注意点があるので、繰り返しの内容もありますがお伝えしておきます。

①都市機能誘導区域は商業地域や近隣商業地域に指定されていることが多く、事業所等のうち、工場については原則として立地させることは困難である場合が多いです。ですので、自治体で工場を都市機能誘導施設として位置付けることはあり得ないと考えていますが、念のため確認しておくことが必要です。

②あなたが考えている事業用建築物の用途が都市機能誘導施設に該当するかどうかがポイントです。

③都市機能誘導施設だからといって、必ずしも補助金の対象施設となるわけではないありません。

都市機能誘導施設は、比較的利便性の高い地域い設定されているため、周辺の郊外と比べたら土地の価格は高いかもしれないですが、そこで安い土地だからという理由で投資対象とするのは大きな間違いです。

これから都市機能誘導区域を中心に官民が投資を集中させることが考えられますから、全ての地域とまでとはいわないものの、今後全体的に下がっていく土地価格の中で、土地の評価を維持若しくは向上させる可能性が秘めているという点が重要です。多少土地の価格が高くても先行投資するメリットは高いはずです。

とはいえ、600%といった高い容積率を使い切るまでの建築物は考えていない場合もあると思います。その場合はテナントビルを活用することになると思いますが、これが難しいと判断される場合には、都市機能誘導区域に近い居住誘導区域内を選択するようにしましょう。居住誘導区域であれば比較的容積率が低い地域もありますし、都市機能誘導区域よりも土地の価格が低いケースがほとんどです。

なお、この両区域ですが、社会情勢の変化に応じて区域が見直される可能性もあるので、事業所等が立地する前に行政(都市政策を担当する部局:都市計画課や都市再生課など)に相談に伺い、今後の予定を確認するようにしましょう。

それでは、具体的な候補地選択の手法をより具体的にお伝えします。

3.候補地選択の手順

①見込む売上から事業所等の用途・規模・構造等を決定する。
 より具体的な用途(ホテルや旅館、飲食店など)を決めておきます。

②どの都市で事業を営むのか検討します。
 立地適正化計画を策定している・もしくは策定中の自治体を選択します。

※立地適正化計画を策定している自治体については国土交通省のホームページを確認してください。

③各市町村の立地適正化計画のうち、『都市機能誘導施設』を確認します。
 誘導施設と自身が検討している事業所等の用途が一致しているか確認しましょう。なお、注意点として都市機能誘導区域を複数設定している場合、誘導区域ごとに設定している誘導施設を確認しましょう。基本的に誘導区域ごとに設定している誘導施設は異なります。

④誘導施設の整備に対する支援事業を行っていないか確認します。
 ホームページで確認するのはもちろんのこと、直接連絡して、支援事業等を実施(今後実施)していないか確認します。※連絡先は、立地適正化計画を担当している部署となります。

 ここで支援事業がないとなれば、あとは事業開始までのスケジュールを組むだけです。

⑤支援事業があれば活用しましょう。
 支援金を活用するのはもとより、自治体との連携になるので広報効果が高くなるなります。自社広報よりも宣伝効果が高いケースもありますから、自治体と上手に連携するようにしましょう。

最後に事業所等の候補地を検討する場合の重要なチェック項目の話です。

それは、ハザードエリアを候補地から外すか、施設機能の部分で十分な災害対策をとることです。

ハザードエリアとは、災害危険区域、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域、急傾斜地崩壊危険区域、地すべり防止区域、浸水想定区域(河川洪水、津波)です。

事業の継続性という面では、これら区域に含めないことが重要です。

事業が継続できないことによる売上の減少は、キャッシュフローを悪化させる大きな要因となります。

それでは、次に住宅系の検討です。

4.共同住宅・長屋の候補地の検討方法

共同住宅や長屋については、居住誘導区域を選択すれば基本的に、将来的な立地持続性という面で優位に立てると考えられますが、先ほどお伝えしたように、立地適正化計画を策定している自治体のうち、市街化区域のほぼ全域を居住誘導区域として設定しているケースがあります。

もちろん今後20年先も人口があまり減少しない自治体は全く問題はありませんが、地方都市で人口が大きく減少するにも関わらず設定している場合には、人口密度をあまり気にせず設定している可能性があるので注意が必要です。

そういったケースでは、人口集中地区(DID)内であるかどうかを候補地検討の際の指標にしてみてください。

そうしたリスクを抑えるなら、やはり木造にするのが望ましいです。減価償却期間も鉄骨に比べて短いことから早期に償却できるのは事業を営む上での大きなメリットとなります。近年では木造でも耐火建築物とすることが可能となったことから、商業地域内でも建築することが可能となりました。

とはいえ、一般に比べると坪単価も上がるので、あまり知見のない業者に依頼すると、鉄骨や鉄筋コンクリートで提案されてしまいそうな気もします。

いずれにせよ、収益と返済をどのようにするかが賃貸経営のポイントですから、利回りの設定により、構造等は異なるのでなんとも良し悪しも言い難い部分もあります。

ちなみにですが、都市機能誘導区域内であれば大半の地域で入居率は100%に近くなると考えられますので、一括借り上げは選択する必要性はないと考えられます(絶対ではないので、現地に赴き候補地近傍の入居状況を事前チェックしましょう)。

ということで、このnoteはこれで以上です。

ご覧いただいた皆様の参考となれば幸いです。

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YamakenBlog(建築基準法と都市)
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