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実は東京こそ盆踊りの天国! きっとあなたも踊りたくなる、盆踊りの世界へご案内します!

はじめまして。「大ちゃん」の愛称で呼ばれる、盆オドラーの佐藤智彦です。盆踊り好きが高じて、近年は盆踊りの普及をもくろみ、自ら「盆踊りアンバサダー」を意味する「盆バサダー」とも名乗って活動しています。

この度、ボクの思いを込めた本、ヤマケイ新書『東京盆踊り天国 踊る・めぐる・楽しむ』を出版しました。いままでにない、入門にぴったりな盆踊りのガイドブックになっていると思います。

なぜいま、東京の盆踊りなのか? そして、盆踊りにハマるとはどういうことなのか? いざ、あなたを盆踊りの世界にお誘いしましょう。

盆踊りは昔から身近にあった、日本の夏の原風景

遠くまで鳴り響く太鼓の音色、色とりどりの提灯がきらめく櫓(やぐら)、心浮き立つ縁日のにぎわい、そろい浴衣を身に纏う大人たち、簡素なスピーカーから流れてくる少しひずんだ音頭の音色。記憶に刻まれた盆踊りのイメージは、幼い頃にはじめて盆踊りと出会った、懐かしく幸せな夏の思い出だ。

ボクが生まれ育った神奈川県川崎市の北部にある生田という町は、当時は、まだ田畑や林が残る、自然環境の豊かな場所だった。家は神社の裏参道といえるような場所にあり、盆踊りや祭りのときには、嫌でもその喧騒が身近にあった。

幼い頃から母や姉は盆踊りに参加していたものの、ボクはちょこっと踊ってお菓子をもらうことくらいしか興味がなく、小学校高学年の頃にはすっかり興味を失ってしまった。

子どもたちも多く、懐かしく居心地の良い「羽根木神社秋季例大祭盆踊り」(世田谷区)
路上で盆踊りを踊る下町の風景。「入船三丁目盆踊り」(中央区)
今年2022年は8月20日(土)開催予定

盆踊りとの出会い。まさかの一晩で盆オドラー化!?

ところが2011年の夏、ひょんなことから友人に誘われ「築地本願寺納涼盆踊り大会」に冷やかし半分で参加した。

盆踊りなんて大したことないだろうと思っていたボクだったが、フリを覚えるための脳トレ的要素と、有酸素運動で汗を流すこと。この盆踊りの持つ2つの要素がとても新鮮に感じた。

そして、何より、全員が同じ振り付けで踊ることで生まれる、うねりやグルーヴのような大きく激しいエネルギーを感じ、その渦中にいることで幸福感が得られた。同じ振り付けの繰り返しだから、曲が終わる頃には、なんとなく踊れるようになっていることの達成感と喜び。そして、何よりも楽しい! 気づくと、また別の曲が踊りたくなっている。

こうして、40歳間近のボクは、一晩にして盆踊りの虜になってしまった。さっそく、次はどの盆踊りに行くか、友人と話し合い、結局、その年は都内20ヶ所以上の盆踊りを経験した。

都内で最も華やかな櫓。多くの盆オドラーを生み出す「築地本願寺納涼盆踊り大会」(中央区)
今年2022年は規模を縮小するなどして8月3日(水)〜6日(土)開催予定。
*今年は入場にチケットが必要なため築地本願寺のWebサイト要参照

盆踊りとともに生きる決意

翌年には「郡上おどり in 青山」で経験した「郡上おどり」を求め、盆踊りの聖地といわれる岐阜・郡上八幡での「徹夜おどり」に参加する。宿泊なしの弾丸旅行で挑んだものの、現地は、まさかの土砂降り。ところが踊りは警報が出ない限り、止まることはないという。

最初はテンションが下がりっぱなしで、踊る気なんてしなかった。ところが、いざ意を決して踊りの輪に飛び込むと、雨などまったく気にせず笑顔で踊る踊り子たちに衝撃を受ける。しかも、郡上おどりの1曲は10分も20分も続くのだ。

ボクも最初は修行のようなつもりで踊りはじめたが、時間とともに、不思議と体が踊りに馴染んできて、やがて雨が気にならなくなってきた。途中、心を無にして踊る「ランナーズハイ」ならぬ「ダンサーズハイ」を感じるようになり、気づくと夜が明けていた。

この達成感に満ちた心地の良さとともに、ボクは「盆オドラー」として生きていくことを決意する。そして、各地の盆踊りを求め、年間100ヶ所程度の盆踊りに参加することになったのだ。

盆踊りとは何か?

色々な盆踊りを経験しても、ボクの心の中には、幼い頃に体験した近所の小さな盆踊りの存在が大きい。もちろん、華やかな盆踊りには心が揺さぶられはするものの、やはり盆踊りには、子どもでも気軽に参加できる居心地の良さや雰囲気が重要だ。

ボクと同様、多くの人にとっても、盆踊りは懐かしく、心あたたまる身近な存在なのではないだろうか。

もともと、先祖供養やお盆の行事である盆踊りは、平安時代にはその原型が生まれたと考えられる。やがて大衆化や芸能性を強めていき、地域によってさまざまな形で伝承されていった。

コミュニティや結束力を高める存在でもある盆踊りは、地域社会にとって欠かせない、潤滑油のような存在となった。だからこそ、政治的な圧力で規制された時代や、戦争によって中止を余儀なくされた時でも、途絶えることはなかった。

北は北海道から南は沖縄まで、さらに、いまでは海外でも、日本人が多く住む地域には、必ずといっていいほど盆踊りが身近にある。

東京では、戦後盆踊りが大ブームに!

都内で唯一、江戸時代から継承される念仏踊り「佃島の盆踊り」以外、実は、かつて東京には盆踊りの文化がほぼ存在しなかった。

ところが、第一次世界大戦後には、不況を吹き飛ばそうと、日比谷公園での盆踊り(現在の「日比谷公園丸の内音頭大盆踊り大会」)が企画される。この時のテーマ曲として作られた「丸の内音頭」が大ヒット。翌年、歌詞を東京全域に改め、「東京音頭」として全国区に知られることになった。

第二次世界大戦後、東京には各地から多くの人が集まるようになり、高度経済成長期には、たくさんの集合住宅や新しい住宅街が生まれた。東北や北関東など、各地の盆踊り文化が流入し、どの街でも盆踊りが盛んとなった。

東京では、祭りといえば神輿(みこし)が中心だった。一方、盆踊りは櫓を組む必要があるものの、音響設備と太鼓の用意があれば比較的開催しやすいことも理由なのだろう。町会や婦人会を中心に、盆踊りブームと呼べる時代が到来する。

そして、かつての「東京音頭」のように、町や地域をPRする新たな民謡の「新民謡」や、ノリの良い音頭が次々と誕生する。そして、「すみだ音頭」(墨田区)や「これがお江戸の盆ダンス」(中央区)など、東京の各区や地域にちなんだ「ご当地曲」も次々につくられ、親しまれるようになった。

また、故郷を懐かしみ、各地の民謡も愛されるようになる。「ドンパン節」や「相馬盆唄」などは、いまでも盆踊りの定番曲として欠かせない。

こうして、都内は全国の盆踊りが愛されていくのだ。

都会の狭間で継承される、江戸時代の念仏踊り。「佃島の盆踊り」(中央区)
頭上に広がる大きな空に感動する。「池上本門寺みたままつり盆踊り大会」(大田区)

東京では、いつでもどこでも盆踊り!?

いまや東京は盆踊りの宝庫だ。昭和の終わりに、町会や地域コミュニティの勢いがなくなった影響も受けて、平成に入ると盆踊りの数は減ったといわれている。

それでもボクの調査によると、令和に入った2019年夏、23区内で開催された盆踊りの数はおよそ970件! 6月13日の「山王音頭と民踊(みんよう)大会」から、10月20日の「べったら盆踊り大会」まで、およそ1,000もの盆踊りが都内のいたるところで行われているのだ。

およそ8万人が集まる「築地本願寺納涼盆踊り大会」や「中央区大江戸まつり盆おどり大会」をはじめ、都内には数万人規模が参加する「大箱」の盆踊りが多数存在する。それが、2019年まではごく一般的な光景だった。

ここは銀座のビルの谷間。足下は首都高速。「銀座三丁目東町納涼盆踊り」
(築地川祝橋公園/中央区)

そして、盆踊りが消えた夏

ところが2020年、新型コロナウイルスの世界的流行の影響を受け、世界中から祭りや花火大会が姿を消した。毎年、当たり前に行われていた盆踊りも同様に、開催は絶望的となった。本来、こうした世の中でこそ、疫病退散を祈祷し、結束力を高めるための祭りが必要なのに……。コロナ禍では人が集うことは許されず、心と心の距離まで離れてしまった。

そんなコロナ禍においては、新たにZoomを使った「オンライン盆踊り」が誕生。大正大学の「鴨台(おうだい)盆踊り」をはじめ、若い世代を中心に一般的となった。輪になって踊ることは叶わないものの、コンピューターや画面越しでも同じ時間を共有できることがありがたかった。

そして、人数を制限することや距離を保つことなどによって、手探りでリアルな盆踊りを開催したところもある。都内では「Takanawa Gateway Fest」での「人と地域を元気にする盆踊り」が皮切りとなった。続く2021年も状況は良くはならなかったが、オンラインやごく一部の団体は、盆踊りの開催を諦めなかった。

この夏の盆踊りはどうなるのか?

それから丸2年、こうした世の中であっても、多くの人たちが知恵を出し合い、さまざま方法で、祭りを再開しようと試みている。盆踊りも同様に、規模こそ縮小されたが、少しずつ以前の形に近づこうとしている。

そんなタイミングに合わせ、本書『東京盆踊り天国 踊る・めぐる・楽しむ』も出版することになった。この本は、東京都内、しかも23区に限定した極めてニッチな内容だ。

一人でも多くの人に盆踊りを体験してほしい。そして、はじめての人や初心者が楽しめる盆踊りの魅力を伝えたい。その思いから、本書では、参加のハードルが低く、それでいて個性が輝く78の盆踊りを紹介している。

紹介する盆踊りの選択の基準は、まずは年齢や性別を問わず、誰もが気楽に参加でき、居心地が良いこと。そして、特徴のある曲や魅力的な踊りで、盆踊りの楽しさを感じられること。さらに、美しい景色を見られるロケーションだったり、魅力ある露店が出るなど、さまざまな面から盆踊りを楽しめるという点だ。

もちろん、どの盆踊りも実際にボクを骨抜きにしたことも事実だ(笑)

自分自身が、いまでも幼い頃体験した盆踊りを尊く思うように、盆踊りとは、参加者に寄りそう存在であってほしい。自分がなぜ、盆踊りに魅了
されたのか。その答えはここにあると思う。きっと、あなたも、このような盆踊りの存在を知れば、その多様性に驚き、思わず踊りたくなってウズウズしてくるはずだ。

いざ、盆踊りの世界に踏み出してみよう。
ようこそ、東京の盆踊りの世界へ!

<2022年8 月開催予定の主な盆踊り>

*やむを得ない理由で開催が中止になる可能性もあります。