とある編集者の日々の観察「フジの実はどうしてその年一番寒い日の夜に割れるのか?」
12月。その冬いちばんの寒波が来た日に、庭のフジの実が割れます。必ず最初の寒波の夜に割れるのです。どうしてなんだろう? 観察と実験と妄想の年末年始。ツイッター山と溪谷社いきもの部(@yamakei_ikimono)の中の人の日々のつぶやきまとめです(加筆修正あり)。
2020年12月18日 割れるフジの実
夜、庭のフジの果実が裂開して落ちはじめました。庭とは言っても下はモルタル敷きなので、硬いサヤが落ちるたびに「カラン」と音をたてます。毎年、最初の寒波で落ちはじめるので、うちではこの音が真冬の風物詩になっています。
2021年12月29日 冬休みの自由研究開始!
今年も庭のフジの豆果(とうか)が割れ始めました。サヤが窓や下のモルタルに落ちてカランっと音がするのです。そして、中のマメがばらまかれます。いったいどういう機構なのか? いよいよ研究のはじまりだ!
でも、検索しないし、誰からも答えを求めてません。
なぜなら、わたしの自由研究だから(笑)。
まずは観察だ!
まずは裂開して落ちたサヤを見てみる。これがセットです。二枚貝でいうところの「合殻」。一方がスパッと水平に割れている。ふむ。
ほかのも見てみる。妻がすでに掃いてゴミ袋に入れたのを漁る。あー、どれも水平にスパッといってるな。
片方のサヤだけ落ちて、もう一方が枝に残っていることもあります。それを見てみると、スパッと水平に切れています。ははぁ、裂開の起点は片方のサヤで、それは水平方向に切れるんだな。切れるというか破断かな。
落ちたサヤを見ると、ねじれて裂開しています。元に戻そうと強く握っても合わさりません。わたしの超貧弱な握力から推定するに20〜30キロの力でも無理です。相当強い「捻り力」がいっきに放出されることでサヤが裂開し、マメが放出されるようです。
まだ割れていない豆果を見たところ、割れ始めているものもありました。今晩割れるのかな? まだ、接合部が捻れ力に耐えているのかな?
実験開始だ!
割れる原因は乾燥か低温か? まぁ、乾燥ですよね? 落ち葉も芽鱗も厚いクチクラ層も確か乾燥対策ですしね。
でもね、フジの豆果が割れるのは、必ず「寒波が来た夜」なのです。
まだ割れてない豆果を取ってきて実験だ!
14:13
お弁当箱にまだ割れていないサヤを入れて、冷凍庫に突っ込みました。妻には内緒です(笑)。
20:57
冷凍庫入後、7時間が経過。うむ。異常なし(笑)。裂開、低温説は却下か?
だけど、乾燥によってスイッチが入るなら、一番乾燥するのは昼間ですよね? うーむ…。
「晴れた日の気温・湿度の変化」のグラフを見つけました。
やっぱり夜は湿度が上がるんですよ。でも、サヤは夜に割れるんですよ。
12月30日 冷凍庫で割れた!
朝から山に行く。山とは言っても、沢にヤマメの孵化直後の稚魚を探しに行ったのですが、見つかんねーよ、そんなの…。でも、ナガレタゴガエルがいて大満足です。
16:18
あああっ! 山から帰ってきたら、冷凍庫の豆果が割れている!! ゴムパッキンのお弁当箱だから、中が乾燥することはないと思うんだけど…。え、つまり低温で割れる説もありってこと!?
早くも脇道にそれる
さて、低温裂開説はさておき、昨晩気づいた仮説を聞いてください。うちのはフジ(学名Wisteria floribunda)ですが、別種のヤマフジ(学名W. brachybotrys)というのもあって、識別点はツルが左巻きか右巻きかという点なのです。フジは左巻きで、サヤも同じ方向で捻れてるんじゃね? もしかしたらサヤの捻れ方向で識別できんじゃね?と思ったですよ(笑)。
上の写真の通り別個体で捻れ方向が違うな。そもそもサヤは左右相反する方向で捻れて裂開するんだな。
うん。ダメだなこの仮説(笑)。そういう話じゃない。
あ、また仮説を思いついた! 裂開には方向性があるのかな?(もう自分で何言っているかわかんないな)
12月31日 どんどん脇道にそれていく
サヤの中でマメは片側にくっついています。裂開時にマメがどうなっているか…くっついているか、サヤの中で外れているのか? まぁ、それはさておき…。
サヤが裂開するときに、その勢いでマメが飛んで散布されるわけですが、そのときに、そのときに!マメもクリンと回って勢いがつくのでは!
これを「スウィングバイ散布仮説」とします(意味がまったく違う…)。
1月1日 暇な元日
あけましておめでとうございます。元日、暇だったのでフジの弾けたサヤを磨きました。内側の柔らかい部分をこそげ落とし、外側のビロードのような毛をヤスリで削り、紙ヤスリの番手を徐々に上げて、最終的にピカピカにはなったけど…思ったほどではないな(笑)。でも、いい元日。
1月2日 よし、スウィングバイを観察だ!
裂開の仕組みは細胞レベルっぽいので、なかなか自由研究では難しいなぁ…と思っております。昨晩もひとつ裂開したのですが、まだわずかに弾けていないサヤが残っているので、印をつけました。弾けてどれぐらいの距離を飛ぶのか? A、Bは薄くて中にマメが入っていないっぽいけど、Cには期待。
1月7日 誕生日(私の)
8:28
ああっ、しまった。Cが片方のサヤを残したまま弾けていた! 家の中から見ていて弾けないなーと思っていたんだけど、まさか反対側か。しかも雪が降る前か…。雪が溶けたらCの片側を探そう。
13:29
雪が溶けたので、早速Cの片割れに探す。あったけど…めっちゃ離れてる。高さ208cmから水平距離で242cmも飛んでる。
①サヤの裂開はこれぐらいの威力である。
②落ちたサヤが風で動いた。
ま、②かな(笑)。5日は風が強かったしなー。
マメはどこに飛んだかわかりませんでした。サヤの倍ぐらい飛んでないと、スウィングバイ(だから違うって…)とは言えませんね。次の冬はちゃんと調べよう。
1月10日 低温裂開説再実験
さて、冬休みがいつまでかはさておき、年末に採取して、机に放置していた豆果が残っていました。結局、10日ぐらいたっても裂開しなかったのです。陽も当たってかなり乾燥していたと思うけど……。まぁ、最後に冷凍庫に入れてみるか……と思ったのが昨日の14時ごろでした。
はい。さっき見たら裂開してました! これは…真剣に豆果裂開低温トリガー説(命名しました!)を検討すべきなのか……。
とりあえず整理してみよう。
①うちのフジは寒波が来た夜にサヤが裂開する(数年間の経験値)。
②採取したサヤを日の当たる部屋に10日ほど放置してもサヤは裂開しない。
③同じ時に採取したサヤを冷凍庫に入れると一晩で裂開する。
④②のサヤを冷凍庫に入れると一晩で裂開する。
科学的事実。
一方で「昼間弾けるの見た」という体験談やダイズなどでの詳細な研究結果を教えていただきました。それによるとセルロースとリグニンの水に対する挙動の違いとサヤの細胞の構造によって、乾燥すると縮み具合に差がでて裂開するとありました。ふーむ。
ヤブツルアズキのサヤが弾ける話
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4267
しかも、裂開のトリガーそのものも「莢が裂けるのは、中肋や縫合線部分の細胞壁の成分であるセルロースやキシランなどの糖類が、酵素の働きで部分的に分解され、乾燥した時に、裂けやすくなっているからです」と答えは明確です。ふがっ!
でも、でも、冷凍庫で弾けるんだもん!
わたしに科学的事実なんて関係ないんだもん!
ま、矛盾しない着地があるんだろうな…。一番シンプルな答えは「冷凍庫に入れたゴムパッキン付きのお弁当箱でも、残った水分が凍ることによって中は乾燥する」ということでしょうか? 中学生ぐらいの理科?(笑)
温度の低下によって、箱の中の湿気が結露して、一層乾燥する…ということ? んー、庭の話しでも、妻は「寒波が来て『冷たい風が吹いているときに割れてない?』」とも。
庭のフジも手持ちの豆果も尽きてしまったので、いったん冬の自由研究を終わりとします。そして、また冬が来ましたね。今年はスウィングバイ仮説の立証……サヤとマメの飛翔距離を調べます!
(ブチョーw@yamakei_ikimono)