川でお菓子を拾おうとして、子どもがおぼれる——遊びに行く前に知っておきたい、川の危険とそれを避ける方法
夏休み。子どもと一緒に登山や、川遊び、海水浴など、外遊びに出かける人も多いのではないでしょうか。しかし、外遊びをしている最中に、子どもが事故にあってしまうケースが少なからずあります。
この記事では、子どもと一緒に外遊びに行く際に知っておきたい、実際に起きてしまった"川"の事例と、どうやったらそれを避けられるかの解説を『子ども版 これで死ぬ 外遊びで子どもが危険にあわないための安全の話』(山と溪谷社)から紹介。
外遊びで楽しい時間を過ごせるよう、事前に川にひそむ危険を知っておきましょう!
*本記事は、『子ども版 これで死ぬ』から一部抜粋、編集したものです。
CASE1:速い流れに引き込まれる
7月下旬、京都府の木津川(きづがわ)で川遊びをしていた6〜15歳の子ども5人が流されました。15歳の男子中学生が自力で川岸にたどり着いて助けを求め、3人は現場から30〜40m下流で近くにいた人たちに救助されました。約300m 下流まで流された7歳の男の子は病院に搬送後、死亡しました。
事故の起こった川は住宅地からもアクセスがよく、コンクリート製の柵のない橋(長さ約80m、幅約2m)がかかっています。子どもたちが遊んでいたのは、川のほぼ中央付近の橋の上流側、ゆるやかな流れの場所でしたが、左岸沿いは速い流れがあり、また橋を境にして橋の下流側で急に流れが速くなっていました。
子どもたちは、ゆるやかな流れに身をゆだねて遊んでいるうちに、流れの速い岸側に入ってしまったか、橋のすぐ下から始まる流れに引き込まれてしまい一気に流されてしまったと考えられます。
死なないためには?
浅くても流れがあれば流される
川には流れがあり、体に流れの力がかかります。浅いところなら安心と思いがちですが、ひざ程度の水深でも流れが速い川では、大人でも簡単に流されます。大人のひざ程度の浅さで、流速2m/sの場合、片足にかかる力は約15㎏。バランスを崩して転倒し水があたる面積が大きくなれば、もっと大きな力が加わります。子どもは体重が軽いので、大人よりも簡単に流されてしまいます。
流れのある川では、浮力よりも大きな力が体に加わるため、人は水に浮いていること自体がむずかしいのです。浮力を補う浮き具がないと、呼吸ができる姿勢を保てず、人は流されながら川底へ沈んでいってしまいます。
ライフジャケットが命を守る
川遊びの際は、浮力を確保するためのライフジャケットを必ず着用します。川岸の遊びでも、転落の危険があります。また、水中の岩は滑りやすいため、滑りにくく脱げにくいシューズが必要です。
子どもは股下ベルト付きのものを
ライフジャケットはアウトドアショップ、ホームセンターなどで購入できます。インターネットでも購入できますが、体に合わないライフジャケットは、水の中でずり上がって顔が水面から出なくなってしまい危険です。
また、体からすっぽ抜ける危険もあるため、子ども用は股下ベルトのあるものを選びましょう。ストラップベルトをしめて、体とのすき間があかないようにし、大人は垂直方向に子どものライフジャケットを引っ張ってずり上がらないかを確認するのを忘れずに。
CASE2:お菓子を拾おうとしておぼれる
6月上旬、京都府の古川(ふるかわ)で、小学生の男女4人が砂がたまってできた中州で遊んでいたところ、7歳の男の子が落としたお菓子を拾おうとして川の中に入り、水深約1・2mの深みにはまっておぼれ、死亡しました。
事故の起こった川の幅は約5〜10m、流れもゆるやかですが、都市下水路や農業排水が流れ込んでいる箇所で深みができていました。男の子は、急な護岸ではい上がることができず、パニックになった可能性があります。
死なないためには
川ではモノを追いかけない
川には、陸から肉眼では見えない深みや複雑な流れが隠れています。子どもの事故で多いのが、ボールやサンダル、浮き輪などが流され、深みに気づかず追いかけておぼれてしまう、というケース。水の中に入っていなくても、水面に落ちたものを拾おうとして転落する危険もあります。
「川ではモノを追いかけない・拾わない」ということを子どもとよく話して約束しましょう。もちろん、大人も同様です。
CASE3:助けようとしておぼれる
4月下旬、大阪府の安威川(あいがわ)で、川で遊んでいた13歳の男子中学生と小学生3人のうち、2人が深みに流されました。
ジョギング中だった30代男性が助けようと飛び込みましたが、男子中学生と9歳男の子は、別の通行人の男性らに救助されました。男子中学生は3日後に死亡、飛び込んだ男性は、水深2・5m付近の川底で見つかり、病院に搬送後死亡が確認されました。
事故が起きたのは市街地を流れる川で、河川敷は公園として整備されています。子どもたちは、川を横切るように敷かれたコンクリートブロックを飛び石がわりにして川の中央付近で遊んでいたところ、濡れたコンクリートで滑って転倒したか、流れに足元をすくわれるなどして転倒、下流に流され深みにはまったと見られています。
ブロックを川の水が越流している地点の水深は足首程度ですが、数メートル下流は、増水時の水の流れで川底が深くえぐられて、水深5〜6mの深みになっていました。
死なないためには
助けに行くのはちょっと待って!
子どもがおぼれている。その場に居合わせたら、なんとかして助けなければと思うでしょう。ですがおぼれた人を助けようとした人(川に立ち入って手や棒を差し伸べるなどを含む)のうち約14%で、救助者がおぼれる、流されるなどの二次災害が起こっています(公益財団法人河川財団調査による)。
水の中に入って救助しようとする行動はリスクが高く、専用の装備を持っている人や、訓練を積んだ人だけが救助にあたることができます。
わたしたちにできることは、119番への通報で救助を要請し声をかける。安全な場所へ指示、誘導する。浮き輪などの浮力になるものがあれば投げる。これらの水の中に入らない方法で救助を試み、自身の身を守ること
を忘れずに行動しましょう。
川での水難事故は、起こってしまうと救助がとても困難な事態になってしまいますが、未然に防ぐことはむずかしくありません。痛ましい事故、二次災害を起こさないためには川の危険を正しく知り、ライフジャケットを着用し、安全な場所で遊ぶことにつきます。
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『子ども版 これで死ぬ 外遊びで子どもが危険にあわないための安全の話』では、川・海・山・身近な公園で実際に起きた子どもの事故事例28を紹介。
それぞれの場所で事故防止策・安全啓発を発信しているプロの監修のもと、どうしたら事故を防ぎ、安全に楽しむことができるかを徹底的に解説しました。
また、各章の最後には、最も重要な安全の話がつまっている漫画解説付き。子どもと一緒に安全に外で遊ぶ方法について学ぶことができます。
■書誌情報
羽根田 治・監修、藤原尚雄・監修、松本貴行・監修、山中龍宏・監修、大武美緒子・文
定価:1,540円(本体1,400円+税10%)
仕様:四六変形判/128ページ
ISBN:978-4-635-50050-0
■本書の監修者・著者について
監修・羽根田 治(はねだ・おさむ)
フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を、山岳雑誌や書籍で発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続けている。近著に『ドキュメント生還2 長期遭難からの脱出』『これで死ぬ』(山と溪谷社)、『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)など。
監修・藤原 尚雄(ふじわら・ひさお)
1958年大阪府出身。大雪山系の麓で、大自然に囲まれた生活を謳歌している。雑誌『Outdoor』(山と溪谷社)の編集、専門誌『カヌーライフ』の創刊編集長を務めたのち、フリーランスとしてアウトドア関連および防災関連の雑誌、書籍のライターとして活動する傍ら、消防士、海上保安官、警察機動隊員などに急流救助やロープレスキュー技術を教授するインストラクターとしても活躍中。
監修・松本 貴行(まつもと・たかゆき)
横浜国立大学大学院教育学研究科修了。成城学園中学校高等学校保健体育科専任教諭。公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長、教育本部長。溺水事故はレスキューよりも、いかに事故を未然に防ぐか?が最重要であると、日本で初めて水辺の安全を誰もが学べるICT教材「e-Lifesaving」を開発。内閣府消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。
監修・山中 龍宏(やまなか・たつひろ)
1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長。
文・大武 美緒子(おおたけ・みおこ)
フリーライター・編集者。山と溪谷社で登山専門誌、ガイドブック編集に携わったのちフリーに。二児の子育て中、親子でアウトドアを楽しむ。著書に『不思議な山名 個性の山名 山の名前っておもしろい!』(実業之日本社)、編集・執筆を手がけた本に『はじめての親子ハイク 関東周辺 自然と遊ぶ22コース』(JTBパブリッシング)などがある。