独特な鳴き声で鳴く、あのハトの正体は? なぜ鳴いているの?
馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。
そんなハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった本『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(著者:柴田佳秀)より、思わず誰かに話したくなるハトの秘密のエピソードをご紹介。
孤独を愛する在来のハト
キジバトは孤独を愛するハトである。みんなと一緒じゃないと気が済まないドバトとは違い、常に単独行動がモットーで、食事も就寝も一羽である。ただ、所帯を持つとパートナーと一緒のことが多くなるが、いずれにしても一羽か二羽でいることがほとんどで、大群になることはあまりない。
どうも近頃のキジバトは「人が怖い」と思っていないらしく、一メートルくらいまで近づいても逃げようとしない。それどころか、車道の真ん中で食べものをついばむのに夢中になり、車が接近してもギリギリまで飛び立とうしないのは困りものだ。轢いてしまうんじゃないかといつもハラハラする。
さて、そんなキジバトのプロフィールを紹介しよう。大きさはドバトと同じくらいか若干小さく見え、スマートな感じだ。体全体が淡いぶどう色で、首の両サイドにはチャームポイントの青と黒の鱗模様がある。翼は茶色と黒の鱗模様で、ここがキジの雌の模様みたいに見えるので、キジバトという名前がついたといわれる。
北海道から沖縄まで日本のほぼ全域に生息しているハトで、渡りをせずにずっと同じ場所に棲んでいる。ただ、寒さが厳しくなる北海道では冬にはいなくなり、南へ移動しているようだ。
全国どこのキジバトもみんな同じ色や模様で、ドバトのようにたくさんのバリエーションはない。このことから、人が作り出した家禽ではなく、野鳥であることがわかるだろう。昔から日本に棲んでいる在来のハトなのである。
ただ、奄美大島より南の島々のキジバトは、やや色黒というか色彩が濃い。鳥は同種でも生息地が熱帯に近くなるほど色が濃くなる傾向があり、これは高温多湿の熱帯は羽毛にダニが発生しやすく、その対策だといわれている。色が濃くなるのは羽毛に含まれるメラニン色素が増えるためで、メラニンが多いとダニに食べられにくくなることがわかっている。
癒やしの声の正体
二一世紀の現代では、キジバトをいじめる人はいない。彼らは安心しきって電線で「デーデーポーポー、デーデーポッポー」とのんびり歌っている。
この「デーデーボッポー」と独特なテンポでなくキジバトの声。現代人にとっては癒やされる音色なのだという。 知人が管理をしている、鳥の声を聞くことのできるサイトがあるのだが、キジバトの再生回数がとても多いんだそうだ。はじめは、なぜキジバトがよく聞かれるのか理由がわからなかったらしいが、調べてみると癒やしを求めて聞きに来る人が多いのだという。あの音質やリズムには、現代人の心に染みる何かがあるのだろうか。ちなみに私はこの声を聞くと、気だるい午後の感じがして、なんだか眠くなってしまうのだ。
ところが当の本人にしてみれば、そんな悠長なことを言っている場合ではなく、もっと切実な意味で歌っている。というのも、この声を発するのはオスで、縄張り宣言と求愛の二つのメッセージを込めて懸命に声を出しているのだ。だから、鳴くのは電線や電柱のてっぺん、高い木の上などの目立つところで行う。そうしないとメスにも、ライバルのオスにも声が届かない。 効果的に宣伝しなければならないから、声がよく届く高い場所で鳴く必要があるのだ。
キジバトは、「プッ」や「プーッ」とオナラのように聞こえる声も出す。 飛び立つときやライバルのオスが接近したときによく発するので、威嚇の意味があるようだ。他にもメスが接近したときは「ググゥ、ググゥ」と、こもった声を出す。これは求愛の意味があるのだろう。最後のダメ押しの声といったところか。
鳴き声だけでなくキジバトには面白い行動がある。それはパタパタと羽音を立てて飛び立ち、少し高度を稼いだら翼と尾羽を目いっぱい水平に広げて固定し、スーッとグライダーのように滑空する特徴的なディスプレイ飛行だ。これも縄張りを誇示する行動だといわれているが、真の意味はよくわかっていないという。タカ派の真似をするハト派というわけではないが、滑空する姿はタカのように見えるためか、ときどき勘違いしたスズメが警戒の声を上げることがある。
キジバトは繁殖期がほぼ一年中で、癒やしの鳴き声や面白いディスプレイ飛行は、年中見たり聞いたりすることができる。とくにディスプレイ飛行にどんな鳥が騙されるかはなかなか面白いので、注意して観察してみるといいだろう。