Mission「知」:土着の知恵と技術をつなぐ
製材所の継業から考えたこと
必要とわかっているモノがなくなっていく、地方ではこんな光景が徐々に増えてきているのではないでしょうか。そこには、多数派から漏れ落ちていく、ミクロな少数派の存在が浮かび上がります。
たとえば、地方で限界集落といわれる地域では、地域商店が立ちゆかなくなり、買い物の手段が徐々に失われています。生活に欠かせないインフラ機能である一方で、損益分岐点となる母数もまた確かに存在し、撤退を余儀なくされる境界線があります。最近の飛騨地域でも、10エリアにおけるAコープの撤退が話題となり、いよいよ差し迫った問題となってきました。
製材業界においては、製材工場の大型化が進んでおり、地域内の小規模製材所が次々と閉業・廃業に追い込まれています。地域材流通を考えると、素材の産地のすぐ側に製材所があることは必須です。原木輸送を最小限に押さえることで、地域材が活かされ、小さいながらの域内循環と地場産業を形成することができます。
一方で、経済産出額でみると、大型工場に比べて微々たる経済規模であり、全体への影響力はわずかです。そのため、小規模製材所を地域内でいかに残していくのかという議論は進まず、限界集落ならぬ限界製材・限界木材流通が増えてきています。
これらの現状から考えられるのは、多数派に対して、個別性の高い少数派の状況は、全体から漏れ落ちやすいということです。その影響は多方面に及ぶことになり、基礎データ・統計データの少なさや開発速度の鈍化、事業を取り巻くエコシステムの瓦解など、様々な現象がみられます。多様性の時代とはいえ、スケールがあることで成立しやすくなるということは、経済社会におけるひとつの真理かもしれません。
過半数から漏れる、ミクロな知を集積する
渦中にもいる立場として、私たちにできることは何か考えました。
それは「知」ること。シンプルではありますが、これに尽きるのではないでしょうか。世界中の隅々にまで、私たち人間は多様な文化を形成してきました。そこには、人間の営みの本質でもある「一般化」「個別最適化」「先鋭化」していくプロセスが見て取れます。
人の営みの本質に、「個別最適化」「先鋭化」という行為があるはずで、それらは人間を人間足らしめている大きな要素ではないでしょうか。
人間の認識から漏れ落ちたものは、再度認識し直し、表にあげる必要があります。やまかわ製材舎では、個別性の高い土着の「知」をつなぐために、林業・木材業に関連した、以下の3つの事業を進めて参ります。
知①:個別性を抽出する「リサーチ事業」
日本という国は、四方を海に囲まれた立地と、東西南北に伸びた地形から、多種多様な地理環境と気候風土を抱えています。そのため、林業木材業と一口にはいえない生業の多様さがあります。統計データや国策の中心からはみえてこない各地域ごとの個別性を丁寧に抽出することで、林業・木材業、ひいては木に関わる人の営みの幅広さを浮かび上がらせることが必要だと考えています。
そのための手段として、木に関連するリサーチ事業を行います。文化人類学の手法に基づくフィールドワークと聞き取り調査により、各種プロジェクトにおける地域風土と個別性の抽出を行います。林業・木材業における複雑な関係性と力学は、各ネットワークの全体像を浮かび上がらせるのに専門性と時間を有します。弊社が翻訳者としてリサーチ協力をすることで、ミクロな個別性と全体性とのつながりを描き出し、解像度の高い森林像を提示させていただきます。
また、ご要望に応じて、各種フィールドワークのプログラムの提供も行わせていただきます。
知②:地域の個別最適解を探す「マーケティング事業」
地域材流通をつくる上で大事なことは、地域条件に合ったかたちで個別最適化していくことです。飛驒の仕組みをそのまま全国展開するのではなく、地域風土に合うかたちでローカライズさせる必要があります。そのための調査に加え、個別最適化させるための流通構築支援を行わせていただきます。飛驒地域以外では、まったく実績がないため、創業当初は既知の地域の仕事のみ、お引き受けできましたら幸いです。
知③:分業を越えて学び合う「教育・研修事業」
個別性を抽出し、認識したのちは、そのミクロな知恵と技術を関わる人たち全体で共有していく必要があります。専業と分業により、木材のサプライチェーンは形成されているため、事業者間での情報流の遮断が課題とされています。
やまかわ製材舎では、事業者間の境目を越えた場の提供を進めていきます。家具屋さんに素材の源である森林や中間流通を知ってもらう機会の創出、そして家具メーカーさんの営業部全体の研修の受け入れなど、専業へのリスペクトは忘れずに、分業を越えた「知」の共有を促していきます。製材所が、学び舎のような役割をサプライチェーンの中で担っていきたいです。
長いものには、どんどん巻かれよう
小さいモノにこだわってどうするんだとも思うんですが、これだけの地域風土の多様性を国内に抱えながら、流通そのものに多様性がないのは全然面白くないですよね。多少ややこしくてもいいから、地域風土に則った個性豊かな流通が各地域で個別最適化されていき、情緒溢れる産地が形成されていってほしいなと思います。そうした未来に寄与する事業であれば、自分はそこへの投資を惜しみません。富山湾のほたるいか、高知だとカツオ、福井は焼き鯖、青森大間のマグロ、宮城気仙沼のサメ、北海道函館のウニ、三重伊勢の伊勢エビ…地域風土と素材、そして流通の情景がぱっと湧き上がってくるような、そんな木材流通であってほしいです。
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