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950am
オフホワイト
まだ8月だ。私は、予備校の先生の時々裏返る声を聴きながら、そう感じた。どこで間違ったんだろう。私の友人は今、爽やかなキャンパスライフを送っているに違いないのに、私はなんで、コンクリートの狭い教室で授業を受けているんだろう。まだ納得できなかった。
予備校の先生は筆圧が強いのかよくチョークを折ってしまう。(チョークが折れるたびに、先生ができの悪い私を責めている気がして、どこか息がつまりそうだった。)
「カチャ」という小気味良い音を立てて、床にチョークが落ちてきた。二つに別れたチョークの断面から、雪のようなチョークの粉が床に降りかかっていた。私はその折れて床に落ちたチョークを見ることがとても好きだった。オフホワイトの円柱は欠けていて、その内に秘めた真っ白な、そしてそれには似つかわしくないアスファルトのようなテクスチャが剝き出しになっていた。それはアテネのパルテノン神殿のように、明確にどこで欠けたのかが分かる。
決して完璧ではないのだ。だから、内に秘めたすばらしいものが見える。より一層美しさが増したようにも見えた。チョークの美しさを確認するたびに、私自身が許された思いがした。
「クシャ」真っ黒な、鈍重な、その色でしか存在意義を保てないような革靴にチョークは踏まれた。想像より軽い音だった。
先生はチョークを踏んだことを気にもせず、授業を続ける。私は、黒板に視線を戻し、遅れていた板書を再開した。ただそうするより他なかった。