【開業者インタビューVol.6】峰の原高原ではじまる挑戦!自然の恵みを活かす新拠点「Forest base」と国産生ハム「As Neco Ham」
須坂市では小布施町や高山村、各自治体の商工会などと連携のうえ、これから創業される方や創業間もない方への支援事業を行っています。こうした取り組みの中で、やまじゅうも、須坂市のみならず広域を対象に、開業や事業拡大を目指す方へのサポートに取り組んでいます。本シリーズ【開業者インタビュー】では、当施設が関わった開業者をご紹介します。
今回お話を伺ったのは、峰の原高原を舞台にさまざまな事業に取り組む「Minenohara Crafts(ミネノハラ クラフツ)」の野澤健太さんです。
野澤さんは、2022年10月に着任した須坂市の地域おこし協力隊員。森林サービス産業を軸に持続的な事業を考え、2024年10月に個人事業主として開業しました。自身の活動拠点となる「Forest base(フォレスト ベース)」にて2025年1月から国産生ハム「As Neco Ham(アズネコハム)」の工房が稼働を始める予定だという野澤さんに、開業までの苦労や事業の構想を聞きました。
森林サービス産業から始まった多彩な事業展開
――今日は取材ご対応いただきありがとうございます。久しぶりにお会いしたら、さまざまな事業が始まっていてびっくりしています。今、峰の原の新拠点にお伺いしていますが、ここはどのような場所なのでしょう。
ありがとうございます。2024年10月に開業届を出して、改めて「Minenohara Crafts」という名で活動を始めたところです。名前には「峰の原高原の自然環境を生かして、いろいろなものをつくっていきたい」という想いを込めました。活動の拠点になるのが、今私たちのいる施設で「Forest base」といいます。名前の通り「森の基地」ですね。この施設内にあるひとつが、1月から稼働を予定している生ハム工房と、来年度からの第2期工事以降に整備をする交流スペースや簡易宿所(ゲストハウス)。さらに隣に建っているドングリを立てたような形のシーダハウスという建物を活用して、「Seed(シード)」という名の工房を作ろうと思っています。1階に木工、2階にアロマの蒸留設備を置いて、峰の原高原のさまざまな素材を活かす場所になればと検討中です。
――盛りだくさんな計画、ワクワクしてきますね。野澤さんは、2025年9月まで須坂市の地域おこし協力隊員でもあると思うのですが、ミッションに関連した事業もありますか?
ミッションフリーの隊員として活動しているので、明確に「これ」というものはありませんが、あえて挙げるとすれば「森林サービス産業」の推進やそのモデルづくりがミッションで、今回はその拠点の整備も兼ねています。
――「森林サービス産業」とは?
長野県が推進している森林活用事業で、過疎集落の活性化のため活用できる国の交付金事業のひとつに「山村活性化支援交付金」というものがあって、峰の原高原を含む「旧仁礼(にれい)村」はそのエリアに該当します。対象はソフト事業なので直接的な森林整備等には使えませんが、具体的に整備をするために必要な人材の発掘や育成、森を使ったプログラムや商品の開発などができるのです。峰の原高原地域外部の人も地域で活躍出来るように、森林に付加価値を付けながら整備して、関係人口を創出に繋げていく。振り返ってみれば「その事務局を協力隊が行うモデル地域を探している」という話があったところから、今回の起業や拠点整備の話がスタートしているように思います。
――さまざまなことができそうな交付金事業ですが、具体的に野澤さんのご担当は?
関係官庁とのやり取りや会計の取りまとめ、地域との折衝。簡単にいえば裏方業務の全般が私の役割です。話をもらったのが協力隊になって3ヶ月くらいの頃で、引き受けてから協議会を立ち上げ、申請をして、1年かけて市役所や地域、峰の原高原の山を取りまとめる「(一財)仁礼会」の皆さんと対話を重ねてきました。地域おこし協力隊が森林サービス産業の一事業に関わる例は他エリアでもありますが、事務局まで担っている例はなかなかなくて。そういった意味で「モデルづくり」もミッションに入るのかなと思っています。
――地域との折衝や市役所との調整は苦労も多そうです。
そうですね。もし「同じように取り組みたい」と考えている協力隊がいたら、事務局の苦労を語るので、その後にじっくり考えて欲しいくらい、大変なことだとは思います(笑)。
一般的な森林は所有者が多数いるため合意形成を得るのはとても困難なことですが、峰の原高原の場合は仁礼会が一括で管理しているので、合意形成が得られたことが幸いでした。
2024年7月に初めて峰の原高原地域外の方を対象にしたリトリート体験会を企画して、15名定員に対して30名を超える申し込みがあったのも活動の後押しになりました。今はそのときの参加者が有志で「アロマ」や「森林浴」など部会を立ち上げてくれて、峰の原高原を訪れる一般の方向けに有償のプログラムやツアーを開発・準備しているところです。
――なるほど。「Forest base」はそうしたプログラムやツアーの拠点、皆さんの集まる場所としても活用されていく想定をしているのですね。
ただ森林サービス産業は峰の原高原では全く新たな取り組みなので、正直どうなるかわからないところも大きいのです。生活がまかなえる規模の事業に成長するには何年もの時間もかかるので、協力隊を卒業したあとの住む場所や拠点、自分が食べていくための手段としてさまざまな事業を並行して進めてきました。
物件取得から計画が具体化。重点課題は「資金調達」
――事業をつくる上で、特に課題を感じていたのはどのようなところでしたか?
見当すらつかなかったのは、資金調達の部分です。やまじゅうで話をしていたのも主にはその部分で、本格的に相談に行ったのは2024年の5月くらいでしょうか。協力隊繋がりで物件所有者の方と話をして賃貸ではなく将来的に購入することになり、森林サービス事業も進む目処が立ち始めた時期で、創業計画書の書き方を見てもらったり銀行の方を紹介してもらったり、かなり細かなところまで、何度も会って話をしていた記憶があります。
――融資の額はやまじゅうで支援を行っているなかでもトップクラスではないかと思います。そのあたり、不安はありませんでしたか?
創業後の運転資金等も含めて最終的な見積もりが中古の庭付き戸建て住宅が買えるような金額になりましたからね。少しは不安で眠れないような日もあったりしましたよ。金融機関と何度も相談をし、保証協会や商工会議所など、何度も繰り返し説明をして理解を頂きながら進めてきました。
――どうやってその不安を乗り越えてきたのでしょう。決意のきっかけなどがあれば知りたいです。
「融資」ってどうしても「借金」だと捉えがちですが、個人的には「将来に向けての先行投資だ」と思うようにしています。
最初から全て盛り込むか最小限の融資でスタートをするかは迷いましたが、「最初の融資が1番受けやすく、追加融資は厳しい」と教えてもらって。「それなら最初からフルでいこう」と、決意も固まりました。
――工事の様子も、少し聞いて良いですか?
事業や返済のことを思うと2024年の12月には保健所の許可申請をしておきたくて、逆算したら9月には工事を始めないと間に合わないことがわかって。これまで協力隊として活動してきた中で、外構や水道など専門工事ができる方がいたのを思い出して、相談をしてみたのです。この辺りの地盤や気候に詳しい専門業者に頼みたいこと、将来の計画など、全て正直に伝えてみたら、二つ返事で「いいよ、やろうか」って。信頼してくれているのも嬉しかったですし、その後融資も無事に受けられることになって全て納まったときには心底ホッとしました。
ペンション活用として国産の生ハム事業に着目
――さて、この辺りで今回稼働が始まるという国産の生ハム工房についてもお伺いできればと思います。生ハム製造の構想はどのあたりから始まっていったのでしょう。
生ハム事業は元ペンションだったこの建物と峰の原高原という環境ありきの着想です。なにか有効な建物活用方法がないかと考えていたときに、偶然見ていたテレビ番組で生ハム製造に取り組む長和町・姫木平にあるジャンボン・ド・ヒメキの藤原さんの特集が組まれていて。標高1,500mに建つペンションを活かしていると紹介されているのを見て、「これだ!」と。
すぐにコンタクトを取って、勉強をさせてほしいとお願いしました。
――偶然の出会いだったのですね。
はい。それまで生ハム製造はおろか飲食に関わる経験もしたことがなかったので、全くの新ジャンルでした。生ハムの生産国としてはスペインやイタリアが有名ですが、この50年ほどは日本でも生産者が増えていて。原材料の豚の種類から製造方法まで海外とはそのほとんどが違うので、一部の国内の生ハム生産者が集まって「国産生ハム協会」を組織し、安心安全でおいしい国産生ハムの普及に努めていたりするんです。
――生ハムにそんなに種類があるとは知りませんでした。
私もまだ学んでいるところですが、生産者が増えるとそれだけ知識量や生産の技術、品質にばらつきが出るのが問題になるようです。例えばそれがどのような商品でも「これが国産の生ハムです」と売り出してしまえば消費者に判断はつきませんから、仮にたまたま出会った国産生ハムのクオリティが低ければ悪いイメージが定着し、ブランドの崩壊も起こり得る。今はそのくらい過渡期なのだと聞いています。
――実際にご自身で試作など始めてみていかがですか?
設備的な話だけではなく、生ハムの仕上がりには熟成度合いが大きく影響します。私の製造方法では麹菌を使用するのでイメージとしては、酒蔵や味噌蔵のような感じでしょうか。工房に麹菌が馴染むのにも3年くらいの時間がかかると言われていますが、少しでも菌が馴染みやすいように工房の壁には木を貼り、生ハムを吊るす棚も木材で自作しました。当初の予定は初年度に50本仕込む予定でしたが、投資額を考慮して倍の100本を仕込むことにしました。まだまだ、本当に始まったばかりです。
ハムに使用する豚は、上田市にある「信州太郎ぽーく」です。あとは、菅平高原にあるダボス牧場の中ヨークシャという希少な豚も使わせてもらえることになりました。少数の豚を大切に育てている生産者さんで信頼関係がないと取引ができないので、連絡をもらったときは本当に嬉しかったですね。
試作品としては地元で獲れたイノシシなどもジビエとして活用するために生ハムにしていますし、今後も周囲の環境を活かした生ハムづくりに取り組んでいきたいです。
顔の見える関係性から5代目オーナーとして新たな一歩を
――工事や原材料の仕入れ、各種プログラムの開発などさまざまな面で丁寧な人間関係を築いている野澤さん。なにか意識していることやコツのようなものがあるのでしょうか。
前職は技術系の職場で、お客様から不具合や点検の依頼を受けて工場を手配したり、設計など技術支援をしたりしていました。イレギュラーな修理や改善をお願いすることも多く、現場の人たちとの信頼関係は何よりも大切。事前に話をしておいたり、現場の人が動きやすいように気を配ったり。職人気質の人たちと関係を作ってきたので、そうした経験が生きている実感はあります。
最初は里山の耕作放棄地を借りてキャンプ場を作ろうと計画していたので、「まさか協力隊として生ハムを作ることになるなんて」とは思っていて。たくさんの出会いがあって開業まで進んできましたが、実はコミュニケーション力に自信があるわけではないんです。私にできるのは、限られた人と太く濃い関係性をつくること。これからの販路開拓にしても、まずは顔が見える範囲からじっくりスタートしていくつもりです。
――今後の目標などあれば教えてください。
今年の夏、庭で作業をしていたら、昔このペンションによく宿泊をしたというご夫妻が来て声をかけてくれたんです。当時のペンション泊の思い出話をしてくださって。夜通しお酒を飲みながらオーナーと語り合ったこともあったようです。オーナーと他の宿泊者が楽器の演奏をしたり歌を歌ったり、そういう交流や信頼関係がペンションの醍醐味だったと教えてもらって、「いいな」と思いました。来年は創業50周年、私が5代目のオーナーで協力隊を卒業するタイミングでもある。特別な縁のようなものも感じていて、なにか企画ができたらと思っているところです。
――まだまだこれから、Forest baseを軸に楽しいことが広がっていきそうですね。やまじゅうとしても、またなにかご一緒できることがあれば声をかけてほしいです!
よろしくお願いします!これまでは資金調達など相談がメインだったのでやまじゅうの施設は使ったことがないのですが、実は来年からカフェやショップとして利用してみたい思いがあります。
――なんと!それは嬉しいです。
峰の原にあるのは生ハム製造所であって直売所ではないので、工房でできる生ハムやサラミ、ベーコンなどを食べたり購入したりできる場所や機会を設けたいと思っていて。お茶やコーヒー、須坂の果物などと合わせてもっと気軽に生ハムを食べて頂ける機会もつくっていけるよう頑張ります。
事業概要
Minenohara Crafts(ミネノハラ クラフツ)
住所/須坂市大字仁礼3153-577
mail/info@minenohara-crafts.com
Instagram/@nozaken0710
やまじゅうでは、起業や開業にチャレンジする皆様をサポートいたします。
お気軽にお問合せください!
須坂市賑わい創出拠点やまじゅう
住所/須坂市大字須坂197・202-1
電話番号/026-405-2740
営業時間/10:00〜17:00
ホームページ/https://suzaka-yamajuu.com
Instagram/@suzakayamajuu
開業等の相談をご希望の方は、ホームページのお問合せフォームよりご連絡ください。