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【開業者インタビューVol.7】「日常の美味しい」を大切に、優しい笑顔にホッとするごはんや・五蘊(ごうん)

須坂市では小布施町や高山村、各自治体の商工会などと連携のうえ、これから創業される方や創業間もない方への支援事業を行っています。こうした取り組みの中で、やまじゅうも、須坂市のみならず広域を対象に、開業や事業拡大を目指す方へのサポートに取り組んでいます。本シリーズ【開業者インタビュー】では、当施設が関わった開業者をご紹介します。
 
7件目となる今回は、物件探しや事業計画づくりなどでお手伝いをさせていただいた「ごはんや 五蘊(ごうん)」さん。
2024年12月に須坂市新町にオープンしたごはん屋で、定食やデザート、一品料理などさまざまな料理が楽しめます。笑顔がとってもステキな樋口さんご夫婦に、開業までの道のりや今後の展望を聞きました。


 肩肘張らない「美味しいごはんやさん」を地元で

――今日はありがとうございます。ボリューム満点なのにペロリと食べられてしまう「からあげ定食」、さっそく取材前にいただいてしまいましたが、本当においしかったです。
 
ありがとうございます。五蘊の唐揚げは、私の料理の師匠に教えてもらったオリジナルの味なんです。五蘊のコンセプトは、日常の美味しいを助けられる店。「毎日でも食える唐揚げを出したい」と思って揚げています。

サクッと軽い食感にジューシーなお肉。リーズナブルな価格も嬉しい

 ――からあげ以外にも豊富なメニューが揃いますが、考案はどなたが?

 夫婦で店を切り盛りしていて、主には私がメニュー開発をしています。開発というか、そうですね。たとえばデザートは嫁が作っていますが、彼女のデザートの1番のファンは間違いなく私なんです。そして私が作る料理の1番のファンは嫁。 

レジ横に並ぶデザート。カフェ利用のみもOK

 もちろんお客さんの反応やこれまでの経験からメニューを考えてはいますが、最初に「からあげ」を看板メニューにしようと推したのも彼女で、「絶対これが美味しいから」って。他にも彼女の出身地・京都の野菜を使った煮物など、お互い影響しあってメニューが決まっているのかなと思います。 

数量限定の京野菜の煮物。単品もあり 

――からあげは師匠の味でもあるとのことでしたが、もとから人気のメニューだったんですか?
 
いえいえ。師匠との出会いは前職の蕎麦屋でしたが、当時は1週間で5食出ればいい方だったと思います。今はありがたいことに1ヶ月に3、400食出ますから、すでに当時の一生分を超えたかもしれません(笑)。
 
 
――今では1番人気、ですものね。独立前は長野市内で店長の経験もあったとのことですが、須坂市に出店された経緯などお伺いしたいです。
 
修行をしていたのは戸隠に本店がある蕎麦屋で、長野駅前店の店長をしていました。長野の玄関口ということもあって、長野駅前や長野市内は商売に向いている立地だと感じていましたが、なかなか希望に合う物件と出会えなくて。
須坂は私の地元なんです。仲間たちから「こっちでランチが食べられる店を出してほしい」って声をもらって、心が決まっていきました。

漠然と「店を持つなら地元で」という思いもあったそう

――須坂の仲間というのは、学生時代のご友人ですか?
 
そうですね。もとからの友だちと、あとは飲み屋で知り合った仲間とか、紹介してもらった人とか。五蘊のテナントの大家さんも、もとは友人の飲み屋で顔見知りになって紹介してもらったひとりです。
 
 
――あちこちにいろんな縁があったのですね。やまじゅうに来てくださったときには、すでにコンセプトなどが固められていましたが、その辺りも周囲の声を聞きながら作ってきたのでしょうか?
 
仲間たちから「須坂はランチ難民が多い」と聞いていたので、具体的な需要をリサーチしたいと思って。開業準備の2年間は、市内で行われるイベントに足を運び、来場している人に声をかけて「須坂に飲食店を出そうと思うんだけど、どんな店がほしい?」って、聞きまくりました。
 
 
――出店されるとかではなく、遊びに行って声をかける、ってことですか?
 
そう。ただフラッと行って「こんにちは」って。1000人くらいには声をかけたんじゃないかと思いますね。このときのリサーチをもとに店の営業形態を決めました。
 
 
――やまじゅうに勤めていても、近くに「通し営業」をしている店の少なさを感じていたので、まさにそういった声を反映してくださっているのだろうと想像できます。
 
地元の方からも「お茶するところが少ない」、「ランチタイムを逃したあとに食事をするところがない」と声をもらい、それならうちは通し営業にしよう、と。

古い長屋の一部を改修した店舗。ご家族が作ってくれたというのれんが目印

定食はなるべく安価でお腹いっぱい食べられるのがいいな、とも思っていて。経営的には楽なことばかりではないと思いますが、なんとかやってみようとスタートしたところです。 

 
――取材時点でオープンから1ヶ月ほど経過していますが、反響はいかがですか?
 
店の情報発信はInstagramで、来店は20代から40代くらいの方が中心です。昨年末に腰を痛めた投稿をしたときには、「大丈夫?」って声をかけてくれる人の多さに驚きましたね(笑)。

入り口横にキッチンとレジがある間取り。お客さんとのコミュニケーションも多い

実は私、とても人見知りでネガティブな人間なんですが、それを全て変えてくれたのが嫁なんです。開業までも、今も、隣でずっと「なんとでもなるでしょ!」って声をかけてくれる。2人一緒だからこそ、今の五蘊ができていると思います。
 

物件探しから事業相談、具体的なイメージへ繋がった3度の出店経験

――やまじゅうとの出会いはどのくらいのタイミングだったのでしょう。
2年くらい前、2023年頃だったと思います。前職を辞めて、独立に向けて動き出したところでした。
 
 
――最初のコンタクトは、「物件を探したい」というのがメインで?
 
はい、第一の目的は須坂市内の物件探しです。民間の不動産会社ではうまく見つからず、最初は須坂市役所に相談に行ったんですよね。そこで「創業支援をしている“やまじゅう”っていう施設があるから行ってみたら良いのでは」と。
 
 
――印象に残っていることはありますか?
 
予算やスケジュールなどオープンまでの計画も丁寧にヒアリングがあり、リノベーションの費用感を教えてもらえたのも助かりました。

「須坂市内の情報も豊富でありがたかった」と振り返る樋口さん

 代表の君島さんには、銀行に提出する事業計画書のアドバイスをもらったんですが、ざっくばらんに話せたのが良かったです。現状を把握して、「今やるべきこと」を即座に掴む人だなと感じましたね。彼自身が失敗も経験しているし、現役のプレーヤーでもあるから、気持ちを共有しやすかったように思います。 

――何度かの面談のあとは、須坂市内や山ノ内町にある「HAKKO YAMANOUCHI」の店舗を使って出店を経験されたかと思います。その時の様子もお伺いしたいです。

あのときはテナントが決まって工事が始まって、でも始めてみたら思ったより時間がかかるとわかって・・・という、少し気持ちが沈むタイミングでした。やまじゅうさんから「期間が空くならチャレンジ出店をしてみては」とお話をもらい、せっかくなら経験をしてみよう、と。振り返ってみると、店を持つ前にさまざまな場所を経験できたのは、やっぱりプラスでしたね。お客様の反応を直接みることができましたし、須坂市内から山ノ内町、やまじゅうという順番も良かったと思います。  


――順番というと、具体的には?
 

まず須坂市内の店舗は、すでに食堂として固定客がいる場所だったので、「ある程度の食数を食べてもらえる前提」でメニューが試せたこと。特にワンコインでスピードが求められる日替わりランチは、日を重ねるごとに傾向が掴め、良い経験になりました。 

(写真:内山温那)

夏から秋にかけて3ヶ月間お借りした「HAKKO YAMANOUCHI」は、君島さんからの紹介で。「グリーンシーズンだから、お客様はほとんどいない厳しい状況だと思う」と聞いていましたが、フリーのお客様に向けて夜営業までできる環境が魅力でした。

――先ほどのお話にあった食堂とは全く客層が違ったんですね。

そうですね。山ノ内町での出店は、集客ゼロの日も何日もありました。やっぱり傾向は違っていて、一般のお客様に好まれるランチやおつまみなどの研究が中心だったように思います。今も出している「ハムカツ」や「生姜焼き」は、このときに好評で取り入れたメニューです。 


――やまじゅうのキッチンはいかがでしたか?

やまじゅうのキッチンは、使い勝手の良い機器が使い勝手の良いバランスで揃ったキッチンだと思います。そんな中で、私にとって1番ありがたかったのは、調理場の使い方と食事の提供数が掴めたことです。
これまでは、揚げ物用のフライヤーがない場所で3口コンロを使って調理をした経験がなかったので、若干の不便さも感じつつ、「今がこのくらいなら、フライヤーがあるキッチンではこのくらいまで食数を増やせる」と目安が立てられたんです。 

五蘊の厨房にあるフライヤー。温度管理や対応できる量など、ない状態を経験したからこそ、効率の良い使い方がわかるようになった

 ――ともすると工事の終わりを待つだけの期間になるところだったのを、全て今のために活かしてらっしゃるのがすごいです。他にもなにか、そのときの経験から店づくりに役立てていることはありますか?

 厨房以外で言うと、接客のパターンや店内に置く什器、テーブルや椅子を選ぶ参考にもなっています。五蘊は宴会など大人数での利用も視野に入れた設計なので、椅子やテーブルは動かしやすい方がいい、さらにテーブルはつなげて使いやすいものがいい、とか。
具体的なイメージができたのも、あの期間があったからだと思います。

客席のあるスペースは、さまざまな用途に対応できる空間設計がこだわり
 

子どもから大人まで笑顔にする、「須坂の父母」のような温かな店へ

――これからの展望、取り組んでいきたいことなどはありますか?
 
やりたいことはいくつもあるんですが、まずは通し営業の強みを活かすことからかな、と思っています。午後や夕方もずっと開いている店として認知を広げていきたいですね。デザートを楽しんでもらったり、お茶のみに来てもらったり、みんなの日常の一部になっていけば、と。あともう一つ、「子どもたちのために場をひらきたい」という思いもあるんです。
 
 
――子どもたち、ですか。

須坂市が地元っていうお話をしたと思うんですが、実は五蘊の辺りは、私にとってめちゃくちゃ馴染みのある遊び場なんです。特に高校時代は、近くの学校で野球部に所属していたので、トレーニングで走っている最中にいい匂いのする店が何軒もあって、部活が終わったら寄り道したりして。ラーメン食べて帰って、家でも母ちゃんの飯を食う、みたいな、そんな学生時代を過ごしていました。

「そういう思い出が詰まった店が少なくなっているのを見て、寂しくて」と樋口さん 

今は学生主導でまちの居場所作りなんかも進んでいて、それもとてもおもしろいし、応援しているんだけれど、やっぱり「おじちゃん、今日もこれちょうだい!」って会話があるような、まちの身近な大人として、そういう店を作りたいと思ったんです。
嫁とは「少し余裕ができたら学生応援メニューを作ろう」とも話していて。やっぱり子どもたちが来て、美味しそうにご飯を食べているのを見ると、幸せな気持ちになりますよね。
 
 
――第二の父母、というか。ご自身の思い出にある景色が、また街の中に描かれていくんですね。
 
まさに。誰かの思い出になる店っていうのは、当初掲げたコンセプトのひとつです。本当にやりたいことだらけで話があちこちしてしまうんですが、私が最初に経験した飲食店ってイタリアンだったんですよ。学生時代にアルバイトで厨房の補助に入っていて。食を通じて人と関わる楽しさを知ったきっかけでもあったんですが、そんな経験も活かせるので、例えば誕生日に洋食のコースを作るとか、誰かのプロポーズを応援するとか。少し先の未来で、学生時代にここでご飯を食べた子たちが恋人や家族と一緒にきてくれたらいいな、なんて。夢はどんどん膨らみます。
 
 
――お酒も飲めるし、ご飯も食べられるし、甘味もあるし。ハレの日からケの日まで、いろんな人のいろんなシーンに寄り添ってくれるイメージが湧きました。
 
まずは家族で「今日は夜ご飯食べに行っちゃおうか」って話になったときに、「じゃあ五蘊にしよう」って、そんな会話が自然に出てくるような存在であれるようがんばります。経営面では物価も上がるし厳しくなるときもあるとは思いますが、それ以上に楽しい毎日があるので。これからもこの場所で、「毎日の美味しい」を求めてきてくださる皆さんをお待ちしています。

(写真:内山温那)


 
店舗概要

五蘊(ゴウン)
住所/須坂市新町605-5
営業時間/11:30〜20:00(L.O19:30)・日曜のみ11:30〜19:00(L.O18:30)
Instagram/@goun.suzaka 


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ホームページ/https://suzaka-yamajuu.com

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